狭心症や心筋梗塞など、「虚血性心疾患」全体について「虚血性心疾患について正しく知ろう!」で説明しました。この記事では狭心症の中でも最も一般的な「労作性狭心症」の検査方法について紹介します。
まずは労作性狭心症の原因と症状について復習しましょう。心臓の筋肉(心筋)に酸素と栄養を送る冠動脈が、動脈硬化などの影響で狭くなります。すると、早歩きや階段を上るなど運動によって心臓から全身に送る血液量が増えて心臓に負担がかかった際に、心臓をポンプのように収縮・拡張させる働きをしている心筋が活発に働くのに十分な血液(酸素)が不足し、心筋が酸素不足に陥ってしまいます。そのことで起こる胸の痛みが狭心症の痛みです。
これは「押されるような感じ=圧迫感」「握られるような感じ=絞扼感」「熱くなる=灼熱感」などと表現されることが多いようです。痛みの起こる部位も前胸部だけではありません。心窩部(みぞおち)や肩、頸、また歯や喉に痛みや違和感がでることもあります。症状の続く時間が短いことも特徴で、安静にすれば多くの場合は数分で改善します。
労作性狭心症は別名「安定狭心症」と呼ばれるように、冠動脈の動脈硬化は「安定プラーク」(血管壁の中に蓄積する脂肪の塊であるプラークが破裂して血栓を作る可能性の低い状態)と言われています。そのため、労作性/安定狭心症を疑う際には、すぐに入院することなく、外来で順を追って検査を進めていきます。
一方、症状が日に日に悪くなる、胸の痛みが持続する、はじめて症状が出た、という病態はこの「安定」という言葉に当てはまりません。プラークも不安定で、破裂して血栓を形成し心筋梗塞の発症につながる恐れがあります。このような「不安定狭心症」が疑われる際には、入院での精密検査と治療が必要になります。
(不安定狭心症は「急性冠症候群」という疾患概念に含まれます。参照:「虚血性心疾患について正しく知ろう!」)
内科の診療所であれば、一般的な検査として心電図や胸部レントゲンの検査を行うことができるでしょう。安静時の心電図所見に異常がないかを確認し、またレントゲンでは心不全の兆候や肺の病気の手がかりを知ることができます。しかし安静時の心電図検査では、症状がない場合、労作性狭心症を見つけることは困難です。症状について詳しく話し、また動脈硬化の危険因子を確認し、循環器内科を紹介してもらうようにしましょう。
かかりつけ医からの紹介で、病院の循環器内科を受診するとします(もしくは大きな病院でも紹介のいらない循環器内科もありますので、お近くの病院について調べてみてください)。心電図や胸部レントゲンに加えて、血液検査と心臓超音波検査(心エコー検査)をまず行うでしょう。心エコー検査では、心臓に異常がないかを画像に描出し確かめることができます。他にも動脈硬化の程度をみるためのABI(足関節上腕血圧比)検査などが行われることがあります。
さらに、現在の労作性狭心症の精密検査においては、外来で行われる代表的な検査が3つあります。運動負荷心電図(トレッドミル検査)、心筋負荷シンチグラム、冠動脈CTです。これらのいずれか、または組み合わせを、症状と虚血性心疾患の危険因子(リスクファクター)を考慮したうえで行うこととなるでしょう。
運動したときに起こる発作性の変化を診断するために行う検査です。運動負荷時の症状と心電図変化から労作性狭心症を診断するために、最も多く行われています。これは動くベルトの上を歩く検査ですが、ベルトの回転速度・傾斜を加減することができます。運動量を定量的に変化させる中で、心電図や血圧・心拍数、ときに動脈血の酸素濃度を記録し、これらの変化の時間経過を知ることができます。
核種と呼ばれる放射性医薬品を静脈に注射し、核種の放射性活性をSPECTと呼ばれる装置で観察します。こうして放射性活性の心筋内分布状態を観察するのが心筋シンチグラムです。分布は血流に左右されます。そのため運動や、また薬剤により心臓に負荷をかけることで、負荷がかかった際の心筋血流の分布をみることができます。放射性活性の心筋内分布が低下していれば、すなわちその分布の支配血管に狭窄を疑うこととなります。
今日の医療機器、診断技術の進化から、これまでCT検査では評価できなかった冠状動脈の病変も評価できるようになり、「冠動脈CT検査」が一般的になってきました。マルチスライスCT(MSCT)と呼ばれる高機能のCTが登場したことが大きな要因です。これにより、カテーテル検査を行わなくても冠状動脈の形態学的評価をある程度できるようになったことは、患者さんの苦痛を減らし、検査時間の短縮も実現しました。
しかし、まだまだ問題点もあります。たとえば、血管の石灰化が強いと内腔の評価が難しく、そのような例での正確な評価はカテーテル検査に劣ります。また、血管が痙攣して起こる特殊な狭心症「冠攣縮狭心症」の診断には向いていません。この疾患の診断には、直接カテーテル検査で人工的に痙攣を誘発することが必要なのです。
ただ、これらの欠点や、次の項で述べる冠動脈造影ほどの正確さはないということを考慮しても、冠動脈CTで「異常なし」と診断された場合はかなりの確率で病変が存在しないことが知られています。したがって、病気が存在しないことを確かめるための「除外診断」には非常に有用といえます。
これらの検査で労作性狭心症を疑う所見があった際には一般に、入院して心臓カテーテル検査の一つである冠動脈造影を受けることとなります。検査入院を日帰りで行っている施設も存在します。
冠動脈造影では、カテーテルとよばれる細い管を腕または下肢から冠動脈内まで挿入して、造影剤を注入します。そして放射線を照射することで、画像として描出することができます。これによって血管腔の狭窄や閉塞、拡張などの形態の異常を知ることができるのです。冠動脈内腔の圧を計測する検査を行ったり、左室造影と呼ばれる心臓の弁や壁の動きを知る検査で心機能を評価することもあります。
冠動脈造影の結果から、患者さん一人一人の状態を考慮しつつ、治療法を決めていくことになります。
(治療法については「労作性狭心症の治療法」でご説明します。)
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