頸動脈に動脈硬化が起こり、心臓と脳をつなぐ重要な血管が狭まってしまう頸部頸動脈狭窄症(けいぶけいどうみゃくきょうさくしょう)。進行すると脳梗塞を引き起こすこともある頸部頸動脈狭窄症の患者数は、現在日本で急増しているといいます。本記事では、九州大学大学院医学研究院・脳神経外科教授の飯原弘二先生に、頸部頸動脈狭窄症が増加した背景にある社会や生活様式の変化についてお話しいただきました。
頸部頸動脈狭窄症は、かつて欧米人に多い病気とされていましたが、近年では日本人にも急増しています。この原因としては主に次のふたつが関係していると考えられるでしょう。
健康な人であっても、加齢に伴い血管はしなやかさを失い硬くなっていきます。また、動脈硬化は高血圧や糖尿病、脂質異常症など、生活習慣病の増加に伴って増えるものなので、食生活の欧米化も、頸部頸動脈狭窄症の増加に大きく関与しているといえます。
内科的治療ではなく外科的な治療を要する症例は、頸部頸動脈狭窄症の中でも一部に過ぎません。それでも、私自身が治療に関与した頸動脈血栓内膜剥離術(CEA)とステント留置術(CAS)の年間施行件数の推移をみてみると、2000年には年間約40例だった件数が、今では1.5倍の約60例にまで増加しています。
血栓内膜を切除したり、狭窄した動脈にバイパスを作って良好な血行を確保する手術を「血行再建術」といいますが、より高度な血行再建術を必要とする患者さんも、この10年ほどで約1.5倍増えました。
手術適応(どのような方に対して手術を行うか)の範囲はそれほど変わっていないので、やはり社会全体の高齢化や生活様式の変化が手術件数を増加させている原因であろうと思われます。
頸部頸動脈狭窄症の治療法は、例外はあるものの狭窄の度合いに合わせて選択します。
狭窄度が50%以下であり無症状であれば一般的に薬は使用せず、生活習慣の改善などを行っていきます。狭窄度が50%を超えると抗血小板薬(血液を固まりにくくさせる薬)による治療を考慮します。
頸動脈内膜剥離術(CEA)やステント留置術(CAS)などの手術を考慮するのは、一般的には狭窄度が70%以上になったときです。ただし、狭窄度が50%(中等度狭窄)であっても症状が出ていたり、何度も再発を繰り返すといった特殊な症状がみられる場合は、例外的に手術を行うこともあります。
また、近年ではMRIの精度が上がり、プラークの性状(安定プラークか不安定プラークか)を診断できるようになったため、狭窄度だけで治療法を選ぶのではなく「不安定プラークだけを選んで手術をしよう」という考え方も取り入れられ始めています。今後は狭窄の段階とプラークの性状診断の両方を考え合わせて治療に臨むことになるでしょう。
国立循環器病研究センター病院 病院長
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