一過性脳虚血発作(TIA)は脳梗塞の前兆として極めて危険な状態です。「一過性脳虚血発作(TIA)の検査―原因を明らかにするために」では、脳梗塞を防ぐためにはまずTIAの原因を探すことが必要であり、どのような検査をしていくのかについてお話ししました。
全体的なフローとしては、「一過性脳虚血発作(TIA)の検査―原因を明らかにするために」で紹介した検査をすることにより、一過性脳虚血発作の原因を明らかにします。その後、その原因に対して治療を行っていきます。ここからは具体的にTIAをどう治療し、脳梗塞につながらないよう予防していくのかについて、山王病院の内山真一郎先生にお話をお聞きしました。
内科的治療では、血液をサラサラにする薬(抗血小板薬、抗凝固薬などと呼ばれるものです)を内服していきます。
抗血小板薬は、動脈硬化が原因でおこったTIAの場合に内服します。抗血小板薬にはアスピリン、クロピドグレル硫酸塩、シロスタゾールなどがあります。
急性期TIAではこれらのうち2剤を併用した、強力な抗血小板療法を行うことがあります。その後、症状が落ち着いたあとは、患者さんの容体にもよりますが、1剤に戻すことが一般的です。なぜなら2剤併用は効き目も強いのですが、出血しやすくなるというデメリットがあるためです。
抗凝固薬は、心房細動や心臓弁膜症など、主に心臓疾患が原因の場合に内服していきます。抗凝固薬ではワルファリンカリウムが代表的ですが、ワルファリンカリウムの内服中は納豆が食べられず、また定期的な血液検査が必要という点が問題でした。しかし、今日ではダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバントシル酸塩水和物などの新しい抗凝固薬が出ており、これらの新薬では納豆を食べることができる、定期的な血液検査が必要ないなどワルファリンカリウムの場合の多くの問題点が解決されています。
また、ワルファリンカリウムは効果が出るのに5日間かかる一方で、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩などの新規抗凝固薬は効果の発現が早いのが特長です。そのため、早く抗凝固薬の作用を効かせたい(5日待っていられない)TIAの時には新規抗凝固薬が向いていると考えられます。
ただし、治療費の問題は無視できません。ワルファリンカリウムは薬価が安く、医療費を抑制することができますが、新規抗凝固薬はとても高い薬です。どちらの薬を選択するかは、患者さんとと医師がじっくり相談して決めるのがよいでしょう。
前述した2剤併用療法でも発作が抑えられず、なおかつTIAの原因が頸の血管の動脈硬化性プラークであった場合は、プラークを除去する外科的治療を行うことがあります。
具体的な術式としては、頸動脈にある「プラークの塊」をくり抜いて取り除く「頸動脈内膜剥離術(けいどうみゃくないまくはくりじゅつ)」という方法です。また、頸動脈にステントという管を置いて内腔を広くする「頸動脈ステント留置術(けいどうみゃくすてんとりゅうちじゅつ)」という血管内治療を行う場合もあります。
「危険な脳梗塞の前兆「一過性脳虚血発作」(1)」、「危険な脳梗塞の前兆「一過性脳虚血発作」(2)―急性脳血管症候群とは?」の繰り返しになりますが、TIAは起こしたすぐ後ほど危険です。そのため、発症直後は多くの場合入院治療が必要です。しかし、入院期間は原因となる病態の重症度次第で異なるため、「入院期間はこれくらい」ということはできません。
ただし、「一過性脳虚血発作(TIA)の検査―原因を明らかにするために」で紹介した検査を行い、原因がすぐに分かれば数日から1週間での退院も十分可能です。一方で、TIAの発作を繰り返す場合にはさらに長い期間の入院が必要になることもありますし、回復の見込みがなければ外科的治療や血管内治療が必要となり、さらに入院期間が延びることもあります。
「危険な脳梗塞の前兆「一過性脳虚血発作」(2)―急性脳血管症候群とは?」で説明したように、TIAと脳梗塞は「連続した概念」であり、危険因子は同じといっていいです。そこで、TIAを予防するためには、脳梗塞の8つの危険因子を抑えるという観点で行っていくことになります。
脳梗塞の8つの危険因子とは、以下のことを指します。
TIAや脳梗塞のリスクを減らしていくためには、これらの危険因子を取り除くことが大切です。そのためにも食事と運動、必要なら薬を飲んで生活習慣病をきちんとコントロールし、禁煙と節酒に努め、肥満にならないように注意していくことが大切だといえるでしょう。
山王メディカルセンター 脳血管センター長、国際医療福祉大学 臨床医学研究センター教授、東京女子医科大学 名誉教授
内山 真一郎 先生の所属医療機関
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