インタビュー

脳卒中のリハビリテーションと就労支援

脳卒中のリハビリテーションと就労支援
荒井 好範 先生

社会医療法人財団仁医会 牧田総合病院 理事長

荒井 好範 先生

この記事の最終更新は2016年04月04日です。

脳卒中は高齢になるほどリスクが高くなるとされています。しかしその内訳をみると、脳梗塞を発症する方が高齢者中心であるのに対して、脳出血は30代、40代の方が発症する例も珍しくありません。働きざかりの方が社会復帰するためには、日常生活のリハビリテーションだけでなく、その先にある職業復帰が大きな壁となっています。牧田総合病院の理事長であり脳神経外科部長の荒井好範先生にお話をうかがいました。

脳卒中による脳の損傷や障害の程度は人それぞれですが、リハビリテーションの内容は一人ひとりの患者さんでまったく違うというわけではありません。ただし、障害された脳の部位が右か左かによって、失語があるかないかなどの違いがあります。

麻痺の程度にも個人差はありますが、重要なのはその方のADL(日常生活動作)がどれくらい良いのか、それとも悪いのかという点です。どの程度動けるのか、たとえば膝立ちができるなど、その度合いによって負荷をどれくらいかけていくかということを個人に合わせて判断していきます。

そのプランを作っていくのは理学療法士・作業療法士・言語療法士などのセラピストの役割となります。リハビリテーションの専門医も交えて行ってはいますが、あくまでも中心はセラピストであり、我々医師は主にリハビリ中のリスクや血圧の管理などに関わっています。

もちろん、歩いたり訓練したりすることだけがリハビリではありません。着替えやトイレの動作など、日常のちょっとしたことがすべてリハビリの一環です。そういった場面では看護師の役割も非常に大切です。また、服薬指導においては薬剤師もかかわってきます。リハビリテーションはまさに「チーム医療」の最たるものかもしれません。

脳卒中の後遺症では、麻痺など目に見えるものだけでなく、高次脳機能障害も大きな問題です。麻痺は頑張ってある程度改善しても、高次脳機能障害が社会復帰するうえで問題になる場合は少なくありません。外見上わかりにくい部分であるだけに、早めに察知するよう注意を払っています。

高次脳機能障害は脳卒中だけではなく、交通事故や外傷で起こることもあります。現在、社会的にも大きな問題になりつつあり、「高次脳機能障害を考える会」など、家族会の活動も活発になっています。牧田総合病院でも私が「高次脳機能外来」を実施しており、企業の産業医から高次脳機能障害の状態を診断してほしいといった依頼が来ることもあります。

家庭での日常生活もひとつの社会復帰ですが、その一歩先には職業復帰という課題があります。特に脳出血脳梗塞に比べて若い方の発症が多いため、職業復帰は重要な問題です。血圧が高い状態で治療をせず放置した結果、30代や40代で脳出血を起こす方もいるのです。

それまで働いていた方が職場に復帰するためには、どのような働き方であればその方が復帰できるかという、会社側との細かい調整や折衝も必要になります。雇用する企業側にもそれぞれ事情があり、職場復帰に消極的な場合も当然考えられます。そこで牧田総合病院ではトータルケアの一環として、就労支援コーディネーターによるサポートを行っています。

リハビリテーション部門の職員が就労支援コーディネーターとして行政の各部署との橋渡しをするほか、患者さんご本人が何をどうすれば復帰できるかといった部分に関わってサポートしています。これは牧田総合病院が民間病院として独自で行っているサービスですので、行政からの補助などは受けていません。ですから、患者さんと時間をかけて就労支援のためにお話し合いをしても、診療報酬の加算などはしていません。無償のサポートとして行っています。

また、元の職場への復帰だけでなく、新規に身障者枠で就職するためのサポートとして、東京都の就労支援窓口に行き、就職するためのレクチャーなども行っています。たとえば片麻痺(かたまひ:体の片側だけで麻痺が発生する症状)だけならばパソコン入力はできるなど、障害の種類や程度によってできる仕事が異なります。その内容に応じて東京都に仕事を斡旋してもらうという役割もあります。

脳卒中は決して急性期だけでは終わらない病気です。脳がどの程度損傷を受けるかによって、本当にその方の人生が変わってしまうのです。そういったところまでしっかりとサポートしていくことがトータルケア・システムの役割なのです。

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