インタビュー

カテーテル治療の適応拡大とリスク

カテーテル治療の適応拡大とリスク
坂井 信幸 先生

シミズ病院 病院長

坂井 信幸 先生

この記事の最終更新は2016年02月13日です。

カテーテル治療のおもな対象は脳卒中ですが、すべての脳卒中の患者さんにカテーテル治療が行われるわけではありません。しかし、神戸市立医療センター中央市民病院の坂井信幸先生は、より多くの脳卒中の患者さんがカテーテル治療を受けられるよう、また、より多くの専門医がカテーテル治療を行えるよう、日々チャレンジしています。専門医の育成、治療適応の拡大についてお話をうかがいます。

急性脳卒中に対してカテーテル治療を行う際には、「発症から6時間~8時間以内である」という決められた条件があります。しかし、その条件の範囲をもっと広げるためにチャレンジが続けられています。たとえば、朝起きたときに脳卒中になっていた場合、発症した時間は「前の晩」としかカウントできないことがあります。このような場合は、画像診断を組み合わせて発症時間を分析するなど、今まで適応できなかった症例でもカテーテル治療が可能になるよう臨床データを積み重ねています。

脳動脈瘤への血管内治療も大きな変貌を遂げつつあります。離脱型コイルを脳動脈瘤内に詰め込んで破れなくするために、入り口を柔らかいステントで支える治療に続いて、今度は目の細かいステント(フローダイバーターと呼ばれます)を留置してコイルを入れずに脳動脈瘤を閉塞させようとする治療が始まりました。これによりこれまで治療ができなかった大きくて不規則な形状の脳動脈瘤もカテーテル治療の対象になってきました。

現在、脳のカテーテル専門医は年間およそ100人誕生しています。さらに、できる限りその技術を均霑化(きんてんか=地域格差なく全国どこでも医療を受けられるようにすること)できるよう、専門医は日々トレーニングを積んでおり、学会や指導的立場の医師がセミナーをあちこちで開催しています。現在では、技術によるリスクの差は以前ほどはないといっても過言ではありません。

また、医療器具が進歩することの利点として、特別なドクターだけでなく、多くのドクターが同じ治療を行えるようになることもあげられます。本来治療には「誰がやるか」という問題がないことが理想です。今後は、カテーテル治療をどのような場合に行うか、どのような患者さんに行うかの選択が重要になっていくでしょう。

以前は、カテーテル治療において一番問題視されていたのが脳出血(治療をしたことによって患部の血管が破れること)のリスクでした。TPA(※)とカテーテル治療を組み合わせることによって実際に脳出血は増えましたが、これは治療の延長上で起こる現象で、診断が正確になった今では激減しました。医療器具が進歩し血管を痛めなくなったためと血栓を溶かす薬を使わなくなったためです。CTやMRIで脳のダメージを事前にチェックし、血栓を機械的に回収するようになったためです。治療法の進歩によりリスクが大幅に軽減されたため、「TPAを使わずにカテーテル治療を試みるべき」、「予後の見込みにかかわらず積極的なカテーテル治療を推奨するべき」という極端な意見もあるほどです。

※TPA…血栓溶解剤。できた血栓を溶かす薬。新鮮な血栓を溶かして血流を再開させることで機能障害を残さずに回復することが期待できるため、脳梗塞などで使用されることが多い。

治療に伴うリスクは、どんな選択肢をとっても「ゼロ」になることはありません。たとえば、専門医が未破裂脳動脈瘤に経過観察(血圧管理、禁煙指導などを含む)・開頭手術・カテーテル治療のどれかを選択するとき、いずれもリスクはほぼ同等という場合が少なくありません。どの治療法にも、同じ程度のリスクの可能性はあると考えるべきです。それに、もしどれかが格段に優れていてその他が格段に劣っていた場合は、ひとつの治療法だけが採用され発展してきたはずです。つまり、動脈瘤が見つかった場合「経過観察で何も治療しないリスク」と「治療をして合併症が発生するリスク」の2つはいつも同等に存在するということです。

さらにいえば、動脈瘤が見つかったことが患者さんにとって本当によかったかどうかは、実は哲学の問題とさえいえます。見つかったことを悩まなければなりませんし、見つかったがために予防的医療を受けて合併症が起こるかもしれません。知らないほうがよかったかもしれないのです。そもそもその人にとって検査が必要だったのか、そこまで立ち戻って考える必要があるかもしれません。アメリカのガイドラインでは、無症状の患者さんが頚動脈超音波検査を受けて頚動脈狭窄症が見つかって、頚動脈内膜剥離術という外科手術を受けるきっかけになり、脳卒中を予防するメリットより手術で後遺症を背負うデメリットが多く、検査を受けることは勧められないと記載されているほどです。

動脈瘤が「一生破れない」かもしれないと考えれば何もしないことが一番です。しかし、破れる脳動脈瘤は確実に存在します。破れるかもしれないから予防的医療を行うのであり、そのために専門医が必要とされます。医師は、どの治療法ならば一番リスクが低いか、どの治療法ならば一番受け入れやすいかを考慮し、患者さんごとに治療方針を決定します。ですから、動脈瘤が見つかったことを前提にいうならば、「あなたのリスク」に関して、標準的なことをわかりやすく説明してくれる専門家を、できるだけはやく見つけできるだけ早く訪れていただきたいと思います。

 

受診について相談する
「メディカルノート受診相談サービス」とは、メディカルノートにご協力いただいている医師への受診をサポートするサービスです。
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。
  • 受診予約の代行は含まれません。
  • 希望される医師の受診及び記事どおりの治療を保証するものではありません。
この記事は参考になりましたか?
記事内容の修正すべき点を報告
この記事は参考になりましたか?
この記事や、メディカルノートのサイトについてご意見があればお書きください。今後の記事作りの参考にさせていただきます。

なお、こちらで頂いたご意見への返信はおこなっておりません。医療相談をご要望の方はこちらからどうぞ。

    実績のある医師

    周辺で脳卒中の実績がある医師

    国際医療福祉大学三田病院 予防医学センター長/神経内科、国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター教授

    かつら けんいちろう
    桂先生の医療記事

    11

    内科、血液内科、外科、精神科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、糖尿病内科、内分泌内科、脳神経内科、血管外科、脊椎脊髄外科、放射線診断科、放射線治療科、頭頸部外科、病理診断科

    東京都港区三田1丁目4-3

    都営大江戸線「赤羽橋」赤羽橋口出口または中之橋出口 徒歩5分、東京メトロ南北線「麻布十番」3番出口 徒歩8分、都営三田線「芝公園」A2番出口 徒歩10分、JR山手線「田町」三田口出口  車5分 徒歩20分

    国立健康危機管理研究機構国立国際医療センター 元副院長・元脳卒中センター長・非常勤、順天堂大学大学院 医学研究科客員教授

    はら てつお
    原先生の医療記事

    7

    内科、血液内科、リウマチ科、外科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経外科、呼吸器内科、呼吸器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、小児外科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、歯科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、乳腺腫瘍内科、膠原病科

    東京都新宿区戸山1丁目21-1

    都営大江戸線「若松河田」河田口 徒歩5分、東京メトロ東西線「早稲田」2番出口 徒歩15分

    国立国際医療研究センター 脳神経内科 科長

    あらい のりとし
    新井先生の医療記事

    2

    内科、血液内科、リウマチ科、外科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経外科、呼吸器内科、呼吸器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、小児外科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、歯科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、乳腺腫瘍内科、膠原病科

    東京都新宿区戸山1丁目21-1

    都営大江戸線「若松河田」河田口 徒歩5分、東京メトロ東西線「早稲田」2番出口 徒歩15分

    東京警察病院 脳神経外科 部長、脳卒中センター副センター長

    よしの まさのり

    内科、血液内科、リウマチ科、外科、精神科、脳神経外科、呼吸器科、消化器科、腎臓内科、循環器科、小児科、整形外科、形成外科、美容外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、麻酔科、代謝内科、膠原病内科、脳神経内科、総合診療科、病理診断科

    東京都中野区中野4丁目22-1

    JR中央線(快速)「中野」北口  バスも利用可(関東バス 東京警察病院正門前下車すぐ) 徒歩10分

    東京警察病院 副院長/脳血管内治療科 部長/脳卒中センター長

    さとう ひろあき

    内科、血液内科、リウマチ科、外科、精神科、脳神経外科、呼吸器科、消化器科、腎臓内科、循環器科、小児科、整形外科、形成外科、美容外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、麻酔科、代謝内科、膠原病内科、脳神経内科、総合診療科、病理診断科

    東京都中野区中野4丁目22-1

    JR中央線(快速)「中野」北口  バスも利用可(関東バス 東京警察病院正門前下車すぐ) 徒歩10分

    関連記事

  • もっと見る

    関連の医療相談が12件あります

    ※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。

    「脳卒中」を登録すると、新着の情報をお知らせします

    処理が完了できませんでした。時間を空けて再度お試しください

    「受診について相談する」とは?

    まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
    現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。

    • お客様がご相談される疾患について、クリニック/診療所など他の医療機関をすでに受診されていることを前提とします。
    • 受診の際には原則、紹介状をご用意ください。

    メディカルノートをアプリで使おう

    iPhone版

    App Storeからダウンロード"
    Qr iphone

    Android版

    Google PLayで手に入れよう
    Qr android
    Img app