インタビュー

後遺症と人生を回復する脳卒中リハビリテーション

後遺症と人生を回復する脳卒中リハビリテーション
二瓶 太志 さん

大泉学園複合施設 ねりま健育会病院 リハビリテーション部

二瓶 太志 さん

この記事の最終更新は2016年02月18日です。

みなさんは、「作業療法士」という職業をご存知でしょうか。作業療法士とは、身体に起きた機能障害を回復する手助けをする職業ですが、その仕事内容は幅広く、障害の起きた原因の数だけさまざまなアプローチや治療法が存在します。なかでも、脳卒中による身体機能障害は重篤度が高く、突然の発症に患者さんやご家族は大きな戸惑いを抱えます。ドクターは病気を治療しますが、作業療法士は「ひと」を治療します。戸惑いを抱える患者さんやご家族に寄り添い、日常を回復するための手助けをする作業療法について、大泉学園複合施設 ねりま健育会病院 リハビリテーション部 作業療法士の二瓶太志先生にお話をうかがいます。

作業療法士の役割は、「作業」を用いて「ひと」を治療する専門家であると考えています。「作業」とは、ふだん私たちが深く意識せずに行っている動作のことを指します。たとえば、スーパーの袋を持って歩く、箸を使って食べ物を口に運ぶなど、あまりにも自然で、できないことを想像するのが難しいほど簡単な日常の動作です。そういった、より生活環境により近い能力を高めていくサポートをするのが作業療法士です。

「作業」に変化が起これば「ひと」が変わります。つまり、できないことをできるようになると、患者さんの生活や人生までもが変わるのです。ですから、患者さん自身が自分の力で課題を解決し、目標を達成しながら生活していけるような自己解決能力を高めることが重要です。特に、私たち「作業療法士」という人との関わりや、リハビリ経験を通じて、「その人らしい人生」への復帰や創造を支援するのが作業療法の役割だと考えます。

作業療法の分野は大変広く、治療技法もさまざまです。さらには、「ひと」が「ひと」を治療するので、作業療法士自身の人間性、個性、教養も大変影響します。そのため、どこにどのような作業療法士が所属しているのか、どのようなスキルを持っていてどんな治療が受けられるのか、自分に合うかなどの情報が重要です。しかし、今はまだ残念ながら情報収集する手段が少ないのが現状でしょう。

脳卒中のリハビリがなかなかスムーズにすすまないのは、やはり脳が障害を受けるということの複雑さが要因としてあるからです。そこに脳の状態や病前の人生など個別性が加わるため、複雑さが増してしまうのです。中枢神経系の問題、その先の運動器の問題、心理的な問題、高次脳の問題などが影響し合うため、非常に難しいといえます。

また、相性のよい作業療法士とリハビリをした場合とそうでない場合、治療効果にも違いがあると思います。信頼関係ももちろん重要ですし、患者さんそれぞれに異なる問題点や優先順位を評価して、それを患者さんと共有しながらリハビリを実践しなければ効果が出ないからです。現在、作業療法士協会も認定作業療法士、専門作業療法士の基準を作り、積極的に研修などを行い専門性の確立を図っています。ですから、よりよいリハビリを求める患者さんの指標となるように、多くの作業療法士が専門技術の取得を目指しています。

もっと回復したいというご希望がありながら、なかなかリハビリがうまくいかないというお話もよく耳にします。その場合、原因はさまざまです。薬の内服、リハビリ内容、リハビリの頻度、リハビリ以外の時間の過ごし方(とくに自宅での過ごし方)などどこに問題があるかの見極めが大変重要だと思います。また、体の使い方において過剰に努力しすぎてしまっていたり、周囲からの否定的な声がけなどによって自尊心が傷ついていたり、自信を喪失してしまっていたりすることはよくありません。前向きに、焦らず、じっくりリハビリをすすめていただきたいと思います。

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