「精神鑑定」、これはよくニュースで大きな事件が起きたときなどに話題になることがある言葉です。精神鑑定はどのようにして行われているのでしょうか。そして、どのような目的で行われているのでしょうか。
精神鑑定や刑事責任能力の問題が含まれる分野は司法精神医学です。そこで、この記事では司法精神医学において日本の第一人者である慶應義塾大学医学部精神神経科准教授の村松太郎先生に、精神鑑定についてのお話をうかがいました。
「精神鑑定」という場合、通常は刑事事件における精神鑑定のことを指します。精神鑑定は、精神症状が事件に関与していると裁判官や検察官や弁護士が判断したときに行われます。そして精神鑑定の結果は、刑事責任能力(「刑事責任能力とはなにか」参照)が問えるのかどうかを法律の専門家が判断するための参考材料にされるのです。
刑事事件における精神鑑定は検察・裁判のいずれかのシーンで行われるものです。
また、精神鑑定には「簡易鑑定」「本鑑定」の2種類があります。簡易鑑定とは普通は1日で行うものです。一方で本鑑定は普通は2~3か月かけて行われます。
本鑑定にもいくつか種類があり、起訴前本鑑定や起訴後に行われる公判鑑定と呼ばれるものがあります。狭義の本鑑定は公判鑑定のことを言います。2~3か月か、場合によってはもっと長期間にわたって行われます。極端な場合には、1年以上かけて行われることもあります。このように、精神鑑定は十分な時間をかけて厳密に行われるのです。
司法精神医学の範疇が広くなる中で、現在、精神鑑定の専門家だけでなく司法精神医学自体の専門家が少ないことはひとつの問題です。
かつて、犯罪や精神鑑定はすべての精神科医にとって大きな問題であり、重要テーマであるという時代がありました。そのため、昔の有名な精神科医は皆が精神鑑定を行っていました。しかし、やがて精神医学という分野自体の幅が広がる中で、司法精神医学に積極的にかかわろうとする精神科医が少なくなってきました。
一般に、臨床の医療はあくまでも患者さんご本人のために行われるものです。つまり、ご本人の利益を最大化するため、場合によっては厳密な科学性が考慮されないことがもっともよい選択となる場合もあるのです。しかし、司法精神医学はまったく異なり、「ご本人のため」が必ずしも最優先事項とはなりません。そのため、常にきわめて科学的かつ緻密である必要があるのです。これが司法精神医学の大きな特徴であり、専門性の高さが表れる部分といえます。
しかし、司法精神医学の教育を専門的に行える施設は少ないのが変わらない現状です。精神鑑定を担う精神科医の数は十分であるとはいえず、マンパワーが不足している状況にあるのです。
マンパワーが不足している現状にもかかわらず、精神鑑定の需要は大いにあります。起訴前本鑑定も簡易鑑定も増えてきています。特に裁判員裁判制度が開始されたのちは、起訴前に検察官が精神鑑定を依頼するケースが多くなってきました。しかし現在の日本では、その需要に追いつくだけの司法精神医学の専門家がいない点が問題であるといえます。