司法精神医学とは聞き慣れない言葉であり、多くの方がはじめて耳にしたのではないのでしょうか。司法精神医学は「精神医学の中で、法との接点を扱う分野。したがって最も広義には精神医学のすべてを包含するが、一般には刑事・民事の法と直接の接点を有する分野を指す。」(南山堂医学大辞典2014)と定義されています。実は、精神鑑定や刑事責任能力など、ニュースによく出てくる用語がこの分野に含まれています。
司法精神医学とは、いったいどのようなものなのでしょうか。この南山堂医学大辞典で司法精神医学を定義されたのは慶應義塾大学医学部精神神経科准教授の村松太郎先生です。村松先生ご自身に、司法精神医学についてお話をお聞きしました。
司法精神医学には、法との接点がある精神医学すべてが含まれます。刑事事件や民事事件との関わり、刑事事件においては「精神鑑定」や精神鑑定における重要なテーマである「刑事責任能力」が主になります。民事事件においては遺言能力や医療訴訟もその範疇に含まれます。また、診断書に関する部分も司法精神医学に含まれます。さらに、虐待防止、薬物規制、道路交通法、少年事件などにも広がっています。
冒頭に述べたように、司法精神医学には精神鑑定や刑事責任能力という裁判の結果にも直結する重要な要素が含まれます。そのため、「厳密に中立・公正な立場が要求されることから、臨床医学に比して科学性が高い医学であるといえる。」(南山堂医学大辞典2014)とされています。また、常に社会的な価値観と関係することが避けられません。
2005年に「心神喪失者等医療観察法」(リンク:厚生労働省ウェブサイト)が施行されて以降、日本の司法精神医学においてはこの法律がクローズアップされてきましたが、本来の司法精神医学の対象は非常に広い範囲に広がっています。定義のとおり、広義には社会と関連する精神医学、つまりすべての精神医学が司法精神医学に含まれるのです。
前述のとおり、遺言能力なども司法精神医学の守備範囲に含まれており、これは近年の高齢化社会にともなって注目されるようになってきました。つまり、「遺言者はこの遺言書を記載可能な認知機能を持っていたのか」という法的な問いにかかわる医学的判断も司法精神医学の範疇になります。
また、労働訴訟や労災においても司法精神医学が深く関わります。近年の我が国では特に「うつ病」が大きなテーマになります。うつ病の診断書も議論となります。つまり、「このうつ病は仕事を休む必要があるのか・ないのか」「働けなくなった原因はパワハラだと言えるのか」などといったことです。たとえ労働訴訟にまで発展しなかったとしても、司法精神医学が関わるシーンは大いにあるのです。
今回、村松太郎先生には司法精神医学のうち、刑事事件において非常に重要である「精神鑑定」について「精神鑑定とはなにか」で、「刑事責任能力」について「刑事責任能力とはなにか」でお話し頂きます。また、「心の病とはなにか―司法精神医学、神経心理学の観点から村松太郎先生と考える 」「心の病は社会との接点が出たときに問題になる」ではさらに幅広い視点で心の病について村松先生と一緒に考えていきます。