インタビュー

ストレスチェック制度を活かすために

ストレスチェック制度を活かすために
山本 晴義 先生

独立行政法人労働者健康福祉機構横浜労災病院 勤労者メンタルヘルスセンター長 兼 治療就労両立...

山本 晴義 先生

この記事の最終更新は2015年10月17日です。

平成27年12月1日から義務付けられる「ストレスチェック制度」で、職場のメンタルヘルスへの取り組みはどう変わっていくのでしょうか。新制度が職場改善につながるようにしていくために、私たちが知っておくべきポイントについて、横浜労災病院 勤労者メンタルヘルスセンター長の山本晴義先生にお話をうかがいました。

ストレスチェック制度は、うつなどのメンタルヘルス不調を未然に防ぐための仕組みです。労働安全衛生法の改正にともない、従業員50人以上の事業所では毎年1回、全員にストレスチェックを実施することが義務付けられました。主なポイントは下記の通りです。

  • 労働者が自分のストレス状態を知る(セルフチェック)
  • ストレスをため過ぎないように対処する
  • ストレスチェックの結果、ストレスが高い人は面接指導を申し出て、医師からアドバイスを受けることができる
  • ストレスチェックの結果を集団分析し、職場の環境改善に役立てる

参考リンク:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」改正労働安全衛生法のポイント(ストレスチェック制度関連)

私が産業医として年間100ほどの事業所を回っている中で、特にIT系企業や大企業の本社などを中心に、隣の席の人ともメールを介してやり取りをするような社会になってきているということを感じます。

たとえば、私が横浜労災病院の産業医として長時間労働をしている人をみていく場合、1ヶ月前のデータをチェックするのですが、本来ならば昨日当直をしたかどうかの方が重要な問題なのです。本人と対面していれば、顔色を見て脈をとり、疲れているようだから早く帰りなさい、と言うことができます。しかしパソコンに向かってデータを探しているだけではそれができません。こういう時代であればこそ、対面による直接の人間関係が重要であると考えます。

厚生労働省が「労働者の心の健康保持増進のための指針」で定めた4つのケアのひとつに「ラインによるケア」というものがあります。

  1. セルフケア:労働者自身のストレスへの気づきと対処
  2. ラインによるケア:管理監督者の役割。職場環境などの把握と改善、労働者からの相談対応
  3. 事業場内産業保健スタッフ等によるケア:産業医・保健師・人事労務担当者などによる上記セルフケアやラインによるケアへの支援
  4. 事業場外資源によるケア:医療機関・地域のメンタルヘルス対策支援センター・産業保健センターなど、事業所外の支援機関や専門家の活用

このうち「ラインによるケア」で特に重要なのは、上司による日頃の気配り・声かけ、そして変化に気づくことです。これらは書類上のチェックだけではできないことです。今回のストレスチェック制度で重要なのはまさにその点です。書類上の○×チェックでは本当のことを答えない可能性もあります。だからこそストレスが高い人への面接指導が大切です。

今回の制度では医師の持つ責任が大きくなるともいえますが、ストレスが高い人への面接指導は何も治療の責任を負うということではありません。様子を見てアドバイスをし、医療機関の受診を促すといったことができればよいのです。産業医にとって従業員と直接面談の機会を持てるということはチャンスだととらえ、積極的に取り組んでいただきたいと考えます。

そして、医師ひとりが責任を負うのではなく、衛生委員会も重要な役割を担うことになります。衛生委員会の下で医師が働き、それをサポートするのが事業主となります。従来は人事や労務管理担当の業務として行われていたものが、今や企業のCSR(corporate social responsibility)すなわち社会的責任と位置づけられるようになります。余計な負担や責任を負わされるという受け身の考え方ではなく、企業や組織をより良いものにしていくための機会にしていただきたいと考えます。

1990年代に起きた「電通事件」は、長時間労働によるうつが自殺を招いた痛ましい事例ですが、その事件を教訓にこれまで労働安全衛生法の改正など、さまざまな対策が講じられてきました。しかしながら、目に見える成果が上がっていたとは言いがたい現実があります。今回のストレスチェック制度は、今度こそ本腰を入れて取り組まなければならないという、厚生労働省の意気込みのあらわれでもあります。

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