放射線科医とは、放射線を駆使して画像診断をしたり、がん細胞の治療を行ったりする専門医のことを指します。しかし内科医や外科医と違い日常的に接することがないため、放射線科医がどのような方なのかはっきりとイメージできない方も多いのではないでしょうか。今回は独立行政法人国立病院機構北海道がんセンター名誉院長の西尾正道先生に、放射線科医とはどのような存在なのかをふまえ、西尾先生が放射線科医を志したきっかけをお話し頂きました。
私が放射線科医を目指した理由は、フェアかつ客観的な指標で診断や治療を行えるからです。
医学部卒業後は大学に頼らずに臨床をやってきており、どちらかというと全国各地を飛び回り、様々な経験を積み勉強をしてきました。
外科や内科など、メジャーな診療科に進みたいと思わなかったという部分もあります。大学病院での勤務も考えにはありませんでした。ですから、卒業後すぐに国立札幌病院・北海道地方がんセンターで放射線医療に携わりました。
学生時代は精神科の病院にも研修に行ったことがあります。
そのときちょうど、アルコール中毒の患者さんが逃げてしまったという事件がありました。
何とかスタッフの方が患者さんを連れて帰ってきて、医療措置としての限界領域ともいえるほどの強硬手段で患者さんに鎮静剤を打ち、保護室に入れていく姿を見ているとき、「アルコール中毒」とはなんという概念なのだろう? と感じたのです。
たとえば、ごく普通のサラリーマンの方が毎日毎晩晩酌を夜中までしていても、次の日きちんと会社に行っていたら、人々はその方をアルコール中毒とは呼びません。つまり、社会的に働いていたら、それは嗜癖であり病気ではないと定義されます。
このように考えると、特に精神疾患の場合、疾病概念そのものが社会的なものを絡めて定義づけられていることが分かります。正気と狂気は紙一重であり、疾病概念の成立が社会経済的な要因や価値観で左右されているのです。この面で、精神医療は課題があると感じます。
上記のようにもともと私は精神医療に興味があり、精神医学を専攻しようと思っていた時期がありました。その意味で、通常の放射線科医とは違った面があるのかもしれません。
繰り返しますが、放射線科を選んだ最大の理由は、理詰めで物事を考えられる点にあります。つまり、全てをロジックで考えられるところです。写真には嘘がありません。
私にとって恩師や医師としての師匠のような存在はいませんが、多くの先輩の良い面は見習いました。しかし、誰よりも患者さんが1番の師匠になっています。
なお、私が医師免許を取った1974年、CTが初めて世の中に出現しました。これにより、画像診断はアナログの世界からデジタルの世界へと大きく変わることになります。CT情報を利用した治療を本格的に始めることになったのです。