腹腔鏡下手術を希望する女性は増加していますが、腹腔鏡を用いた手術がどんな時にも最善の治療法ということはなく、場合によっては、開腹術がベストだということも少なくありません。福岡山王病院 産婦人科部長の福原正生先生に、良性の婦人科疾患における低侵襲手術についてお話を伺いました。
腹腔鏡手術は確かにからだに負担の少ない手術ですが、低侵襲というのは、ただ単に傷が小さいことを意味しているわけではありません。福岡山王病院でも腹腔鏡を用いた手術を数多く行っていますが、場合によっては開腹手術の方が最善の治療となることもあるのです。
腹腔鏡下手術は、おなかに3か所ほど穴をあけ、そこから腹腔鏡を挿入して内視鏡カメラの映像をモニターに写し出しながら行う手術です。簡単そうに見えますが、かなり技術を要する手術法です。
腹腔鏡を用いた手術ができるのは、子宮筋腫の大きさでいうと、おへその高さあたりまでが適応の範囲です。というのも、腹腔鏡手術では、おへそにカメラのついた内視鏡を挿入するため、筋腫がおへそより上にあるような場合は、全体像の把握が難しくなるからです。また、筋腫の個数に関しては10個前後くらいまでが許容範囲となります。
子宮筋腫のコブをとる手術(筋腫核出術)は、いまでこそ安全を確保しながらできるようになりましたが、昔は出血を伴うことが多く、輸血覚悟で行っていた時代がありました。
腹腔鏡手術にしろ、開腹手術をするにしろ、出血のリスクというのは、切開してから縫合するまでの間の時間となります。大きな筋腫や20個も30個もある筋腫を、無理をして何時間もかけて腹腔鏡を使って手術するよりも、開腹で短時間に行う方が、麻酔時間も短くてすみますし、出血量も少なくてすみます。何より、患者さんにとってのメリットが大きいと考えます。これらのことを総合的に判断して、患者さんにとって何がもっとも低侵襲な治療法となるのかを、ご本人とも相談しながら選択します。
福岡山王病院には、腹腔鏡下手術を目的に来られる方も少なくありません。しかし検討した結果、腹腔鏡は無理という場合でも、傷の仕上がりをよりきれいにできる「メーラード法」という横切開による開腹術を行っています。せっかく当院に来てもらったわけですから、できる限り小さく、なおかつ、きれいな傷で手術を行うようにしています。
「低侵襲」といえば「腹腔鏡下手術」といった宣伝をよく見聞きしますが、良性の婦人科疾患において、もっとも時間が短く、低侵襲な術式は「腟式手術」です。子宮の全摘をする場合は、おなかにはまったく傷はできません。
米国産婦人科学会が出した意見書(ACOG Committee opinion)では、子宮摘出術においては、 腟式子宮全摘術 (TVH)を術式の第一選択に推奨しています。 腟式子宮全摘術が適応とならない場合に腹腔鏡下手術や開腹手術を検討するよう意見書として公表しています。しかし、下記の表に示すように、フランスやドイツでは子宮全摘術の半数ほどを腟式子宮全摘術で行っているのに対して、日本やアメリカにおいては、20%台とそれほど普及していないのが現状です。
%
TAH
腹式子宮全摘術
TVH
腟式子宮全摘術
LAVH
腹腔鏡補助下腟式子宮全摘術
TLH
全腹腔鏡下子宮全摘術
実施年
アメリカ
66
22
12
0
2003
フランス
24
48
8
19
2004
ドイツ
31
55
6
6
2005-6
日本
62
22
8
9
2008
(「良性子宮疾患に対する手術療法の変遷について」より )
腟式子宮全摘術を行うには、「経腟分娩の経験がある」「おなかの中の癒着が軽い」「子宮の大きさが400グラム程度以下」といった条件があります。そのため、癒着があるようであれば腹腔鏡補助下の子宮全摘術(LAVH)となりますし、自然分娩の経験がなければ全腹腔鏡下子宮全摘術(TLH)となります。
最近はお産経験がない方で、全ての操作を腹腔鏡下で行う全腹腔鏡下子宮全摘術を希望する方も増えています。福岡山王病院では私が担当していますが、全腹腔鏡下子宮全摘術は非常に高度な技術を伴う手術法です。
いずれにしても、腟式子宮全摘術は他のどの術式と比較しても、もっとも低侵襲で、合併症も少ない術式です。しかも、コスト的にも低いため、日本においてもさらに普及することを願っています。
福岡山王病院 副院長・産婦人科 部長
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