臨床研究は医療の質をより向上させるためになくてはならないものです。しかし臨床試験と治験の違いなど、多くの方にとってはわかりにくい部分もあります。この記事では、世界でももっとも優れているといわれる日本の治験に関するお話を中心に、東京大学医学部附属病院臨床研究支援センター “CresCent” センター長の山崎力先生に解説していただきました。
臨床研究とは、疾患の診断・治療・予防などの方法を改善するために「人」を対象にして行う研究のことをいいます。臨床研究は「観察研究」と「臨床試験(介入研究)」に大きく分かれます。臨床試験の中でも新薬や新しい医療機器の製造承認を得るために行う試験のことを「治験」といいます。ちなみに、治験というのは日本独特の用語で「治療試験」の略です。英語では「治験」も「臨床試験」も ”Clinical Trial” であり、区別がありません。
医薬品・医療器具は、病院・医院で医師が処方箋(しょほうせん)を書いて使うことができるものを指しますが、これらについて厚生労働省が製造を認可するに値するものであることを示すデータを提出することが治験の目的です。海外の製品を輸入・販売する場合は、海外でのデータを一部転用することはありますが、日本におけるデータがまったくないということは原則として認められず、日本人のデータを提示する必要があります。
たとえば、最近では小児用補助人工心臓の例があります。すでに海外では安全性が認められ広く使われていた製品が日本では未承認だったため、2014年1月には他の機器で治療を受けていたお子さんが血栓(血のかたまり)によって脳の血管が詰まり、残念ながら亡くなってしまったという事例が報じられました。
これまでに亡くなられた患者さんのご遺族からの要望もあり、厚生労働省としても早期の認可を目指していましたが、それでもやはり治験は必要です。そこで東京大学を主幹施設として大阪大学と国立循環器病研究センターで小児用補助人工心臓の医師主導治験を実施し、9人がこの補助人工心臓をつけて問題がないことを確認しました。
(参考リンク:「小児用補助人工心臓 Berlin Heart Excor:東京大学における治験成績と承認後について」)
本来ならば、たとえば既存の補助人工心臓と新しい補助人工心臓をそれぞれ10人ずつに装着して比較し、どちらがより生存期間を延長するかなどを調べる臨床試験を実施するところですが、今回はシングルアーム(新しい補助人工心臓だけの群)での臨床試験(治験)のみを行いました。このように、たとえ人数は少なくても日本国内で治験を行う必要があります。
医薬品をはじめとする医療費は、大まかにいえば全体の8割以上が税金でまかなわれており、個人の負担は10数%に過ぎません。そうしたなかで国がお墨付きを与えているのが医薬品であり、医療機器です。これは言ってみれば国が統制して販売しているようなもので、テレビや車のように個人の判断で自由に購入できる品物とは違います。ですから、一般に売られている消費財などと比べてより高い品質が求められるというのが、厚生労働省の基本的な考え方です。だからこそ事業者は正しいデータを持つようにという指導がなされます。
治験はGCPという法的に強制力のある省令(規則)の下で行なわれます。GCPはGood Clinical Practiceの略で、日本と米国、欧州の三極合同で定められた共通の規則です。この世界基準は国際会議の名称である ”International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use” から、ICH-GCPと呼ばれます。一方、日本で運用されているGCPのことをJ-GCPと呼ぶことがありますが、J-GCPがもっとも縛りが強い厳格な規則であるともいわれています。したがって日本の治験は、その質において世界でもトップクラスであるといえます。
国際医療福祉大学 大学院 医学研究科 医学専攻・公衆衛生学専攻 教授
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。