日本の治験が世界のトップクラスといわれている一方で、臨床試験に携わる医師やメディカルスタッフに対する教育や環境整備はまだ十分とはいえません。治験と臨床試験が区別され、未だ発展途上にある日本の臨床研究の現状は、社会からどう受け止められているのでしょうか。東京大学医学部附属病院臨床研究支援センター “CresCent” センター長の山崎力先生にお話をうかがいました。
日本における臨床研究の歴史はまだ日が浅く、臨床研究に関する教育は十分行われてきたとはいえません。もちろん、われわれ医師がもっと勉強することが一番良いのでしょうが、臨床試験や治験には臨床検査技師や薬剤師、看護師など、医師以外のメディカルスタッフが中心となって関わっていますので、その人たちがきちんと対応できるシステムづくりが重要であると考えています。
これまでは教育ツールもありませんでしたし、特に医師に対する教育は皆無であったといってもいいでしょう。私自身も医師になって十数年はそういった教育を受ける機会がありませんでした。臨床研究に携わるようになってから周囲のメディカルスタッフの皆さんに教えてもらいながら進めてきたという部分があります。
ただし、日本ではがんの治療薬を筆頭に、治験に関しては非常にしっかりと行われています。新GCPという法律ができた1997年をターニングポイントに、日本の治験のレベルは急速に向上したといわれています(GCPについては関連記事「臨床研究とは何か、治験はなぜ必要なのか。」を参照)。同時にその頃から教育が始まったという面がありますが、それは主に医師以外のメディカルスタッフを対象としたものでした。
国が政策として臨床研究の教育に力を入れるようになり、いくつかの拠点となる大学や施設を中心に整備をしてきた結果、ここ十数年で臨床試験の質は飛躍的に向上してきました。しかし、全国には国公立・私立合わせて100カ所前後の医学部附属病院があります。それらのすべてを均等に底上げすることはできていないという状況があります。
治験は、環境やスタッフが潤沢でなくても規模に応じてきちんと行うことができます。それは先に述べたGCPというルールに則って実施するからです。しかし治験以外の臨床試験では、2003年に定められた「臨床試験に関する倫理指針」というマナーが存在するだけなので、むしろそちらのほうが問題であるといえます。
治験に近いレベルで実施できればいいのですが、そうするとお金も非常にかかりますので、臨床試験の質に支障のない範囲で、ある程度簡略化・効率化することも必要です。しかしそこで疎かにしてはならない部分というものがあります。そのさじ加減、メリハリのつけ方を間違えると、不適切な介入や不正を許してしまうといったことが起こりうるのです。
一般社会の視点では、製薬企業からお金をもらって臨床試験を実施することや、そもそも研究費をもらっていること自体が良くないという認識があると感じています。それはわれわれ研究者が社会からの信頼を失ってしまったことによる部分もあり、ある意味仕方のないことでもあります。
社会から認められる形でお金をもらって研究を行うというのが、あるべき姿であると考えます。しかしお金(研究費)をもらうこと自体が悪であるという風潮があるのは、それだけ利益相反に対する社会の見方が厳しくなっているということの表れでもあります。
利益相反(Conflict of Interest; COI)とは、利益がぶつかり合っていることを指します。たとえば私がA企業からお金をもらって研究をしているということに対して、私の患者さんが「山崎医師はA企業から研究費をもらっているから、A企業の薬しか処方してくれないのではないか」と考えれば、研究者の利益と患者さんの利益がぶつかるということになります。しかしそのこと自体が悪いわけではありません。利益相反状態をオープンにして、なおかつ社会に認めてもらえるようにしていくことが求められます。
日本の治験はGCPというルールで厳格に縛られていますが、治験に対する考え方やコンプライアンス(法令遵守)という点では、外資系製薬企業のほうがしっかりしているという印象を持っています。先に問題となった高血圧治療薬の件では印象を悪くしてしまったところがありますが、実際には非常にフェアな業務委託のあり方を提案している企業もあるのです。
国際医療福祉大学 大学院 医学研究科 医学専攻・公衆衛生学専攻 教授
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