コンピュータの進化、情報を解析する技術の向上、遺伝子学の進歩などがあいまって「Radiomics」の可能性ににわかに注目が集まっています。まだ耳慣れない言葉ですが、「Radiomics」や「Radiogenomics」がまず何を意味し、どのようなこと目指す学問分野なのかについて、京都府立医科大学放射線診断治療学先端的磁気共鳴画像研究講座特任准教授の酒井晃二先生にお話を伺いました。
つまり「Radiomics」とは「放射線医学の多量の情報を系統的に扱う科学」と説明することができます。具体的に述べると、MRI(磁気共鳴診断装置)、CT(コンピュータ断層撮影装置)、US(超音波診断装置)、PET(核医学診断装置)などの医用画像・データをもとに、画像の特徴と所見の情報を突き合わせたうえで解析、学習を行い、こういう画像の特徴が現れたときはこういう病気だろうと推論、推定を行うことなどのことです。ただし、現時点では研究の範囲にあります。
もともと医用画像を解析し診断に役立てる研究は、Computer Aided Diagnosis(CAD)という分野においてこれまでも国内外で古くから取り組まれてきており、例えばCT画像等から腫瘍を抽出してサイズの変化や場所を自動特定する研究などが進められています。研究が最も進んでいる米国においては数年前から、こうした医用画像・データを、遺伝子やタンパク質、代謝物質などの情報と組み合わせて診断に役立てていこうという機運が高まり、特に2015年末に開かれた北米放射線医学会において、大会長が今後の放射線医学の大きなトレンドとして「Radiogenomics」というキーワードを取り上げたことから注目を集めました。ただし、これまで行われて来た様々な研究の統合が主な目的であり、その概念に改めて命名したというのが正体だと思われます。
遺伝子の代わりにタンパクからアプローチする「Radioproteomics」、代謝物質からアプローチする「Radiometabolomics」などの言葉もあります。「Radiogenomics」という言葉は、もうひとつ違う側面で使われることがあります。患者に放射線治療を行ったときに、放射線が遺伝子改変に与える有害性に着目し、これを研究しようというアプローチから用いられる「Radiogenomics」です。2009年にイギリスで発足した「Radiogenomics Consortium」がその取り組みの中心です。今回扱う「Radiogenomics」はあくまでも医用画像を診断に役立てるためのアプローチで使われるものを取り上げています。
酒井 晃二 さんの所属医療機関