インタビュー

Radiomicsが抱える課題

Radiomicsが抱える課題
酒井 晃二 さん

京都府立医科大学放射線診断治療学先端的磁気共鳴画像研究講座 准教授

酒井 晃二 さん

この記事の最終更新は2016年03月21日です。

「Radiomics」は医用画像診断の可能性を大きく広げる一方で、コンピュータによる解析、学習、推論ならではの問題点もはらんでいます。「Radiomics」が実用化された場合、どのような問題が顕在化するのでしょうか。京都府立医科大学放射線診断治療学先端的磁気共鳴画像研究講座特任准教授の酒井晃二先生にお話を伺いました。

「Radiomics」は、医師がこれまで積み上げてきた知識とは全く別のやり方を加えて答えを出します。答えは出せるけれど、なぜその答えに到達したのかを医師の思考プロセスに沿って説明するというところが完全に抜け落ちています。そこがコンピュータによる機械学習の欠点であり、現状では臨床現場に受け入れられないであろう大きな理由の一つでもあります。また、画像ビューアの機能として、データベースの中に入っている画像の中から、当該画像に近い画像を検索して並べる機能を提供している会社もあります。

ただし、画像診断の医師は、画像が似ているだけで診断を決め付けるようなやり方はしません。画像だけで鑑別できるほど病態は単純ではないのが現実です。予断にとらわれずさまざまな情報を総合して判断するために、画像情報の近似性だけで特定する考え方はそもそも受け入れられません。複雑な診断プロセスについてどうルール作りをし、そのルールを整理し、今後現場で受け入れられるにはどのようしてゆくべきかについても、あわせて考えていかなければなりません。

また、コンピュータは鑑別診断を挙げることしかできません。あくまでもその鑑別診断から責任を持って最終診断を下すのは医師であるということです。人間の手を介さないで運転できるGoogle自動車が万一事故を起こしたときの過失責任の所在はどこにあるのかというのと同じ問題です。画像診断医の仕事は、画像を検索し、鑑別診断を行い、レポートを自分の名前で、自分の責任で発行していきます。そのように考えると、「Radiomics」がすんなり現場に入っていくには、まだまだ医師に役立つ機能を充実させるための時間を要することでしょう。

また、より精緻な情報提供を行うには症例数をいかに多く集められるかがカギを握ります。というのも一つの施設から得られる患者さんのデータは非常に限られているからです。しかも、病院ごとに使っている画像診断装置が異なる場合、画像そのものやデータの取り方の標準化がなされていないと同じように比較できないという問題もあります。北米放射線医学会ではこの問題を解決するため、QIEBAという組織を立ち上げ、MRIやCTなどのデータを標準化して取り込む方法の研究に取り組んでいます。日本からも大学や企業の関係者が少しずつ参加し始めているところです。また、日本磁気共鳴医学会なども対応を協議し始めています。