インタビュー

あらゆる検査情報をベースに診断に役立てる「Radiomics」の可能性

あらゆる検査情報をベースに診断に役立てる「Radiomics」の可能性
酒井 晃二 さん

京都府立医科大学放射線診断治療学先端的磁気共鳴画像研究講座 准教授

酒井 晃二 さん

この記事の最終更新は2016年03月20日です。

「Radiogenomics」では医用画像・データと遺伝子解析のデータとをマッピングしますが、検査では遺伝子解析の情報以外にさまざまなデータが得られます。これらのデータも含め総合的に情報をマッピングし、解析、学習、推論につなげることができます。「Radiomics」の考え方について、京都府立医科大学放射線診断治療学先端的磁気共鳴画像研究講座特任准教授の酒井晃二先生にお話を伺いました。

 

前回は肺がんの例を示しましたが(参照:「『Radiogenomics』の例」)、患者さんが病院に来られたときに検査によっていったいどのようなデータをとるかをもう一度見てみることにします。血圧を測ったり、血液を検査したり、CTやPETで撮影したり、生検をして病理を見たり、毒性の検査をしたりもします。また、生検で取ったものから遺伝子やタンパクの状態を見たりもします。

現在はこれらの情報に基づいて、それぞれの医師が習得してきた方法や培ってきた経験、診断ガイドラインなどから総合して、おそらくこういう病気だろうという診断を出しているわけです。「Radiomics」が最終的に目標としている理想は、これらの膨大な情報についてあらゆるパターンを解析、学習することによって、医師の意思決定をサポートできるようになることです。

IBMが開発したWatson(ワトソン)という、言語を理解・学習し人間の意思決定を支援するコンピュータは有名です。Watsonなどのようなコンピュータに上に挙げたようなあらゆる検査の情報と一緒に、例えばその患者さんは「肺がんのⅢ期」であるという診断情報を合わせて教え込みます。このようなデータを何千人、何万人と蓄積していきます。そうするとある病気に対するデータセットが出来上がります。

蓄積されたデータを使用して、コンピュータの中では機械学習が行われます。例えば、犬と猫を分類したい場合、犬と猫の顔のデータをできるだけ集めて、鼻と目の位置関係がこういう状態になっていれば犬だろう、または猫だろうという「推論モデル」を生成します。この「推論モデル」をコンピュータの中に保存しておき、次に未知のデータが来たときにその特徴を抽出して、保存してある「推論モデル」を利用して、犬に近いのか猫に近いのかを判別します。一般的に、データが集まれば集まるほど、精度よく判別できるようになっていきます。

今は医師が画像を見て、病変がどの位置にあるのか、辺縁は不整なのか、周辺を圧排しているのかなどという特徴を画像から所見として拾い上げています。その過程においては、これまでに蓄積した画像診断学の成果を利用して、鑑別疾患名を推論しています。もちろん現在は実現されていませんが、おそらくAI等を搭載した究極のコンピュータは、そのように人間が行ってきた特徴の抽出もパラメータの組み合わせ方もすべて自動で決定してしまうかもしれません。もちろんそのような究極のコンピュータが製造されるプロジェクトは現在のところ公表されていませんが、Watsonの取組みのように、可能性としては全くない話ではないかもしれません。

では、現実に医療現場においてどのようなかたちで「Radiomics」を活用していくことができるのでしょうか。もし「Radiomics」によってある程度の精度でそれらしい答えを出してくれるコンピュータができれば、放射線診断医が画像を見る前に、コンピュータに事前の画像処理、データ処理をさせて診断をサポートするという使い方が考えられます。実際にアメリカでは、そのような利用方法に対して、「iRad」という名称を提案している団体もあります。

 

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