京都府立医科大学放射線診断治療学先端的磁気共鳴画像研究講座特任准教授の酒井晃二先生は「Radiomics」の実用化が期待できる分野としてがんを真っ先に挙げられます。またご自身は今後認知症分野における研究を進めていかれるそうです。実用化に向けた道のりと、日本における「Radiomics」の現状についてお話をうかがいました。
実用化できそうな症例を考えると、症例数が多ければ多いほどよいという「Radiomics」の性質からやはり、がんは最も実用化に近いターゲットだと思っています。特に進んでいるのは乳がんです。乳がんの場合、ほぼ網羅的に遺伝子発現異常のタイプが決まっているということと、生検を必ず行うためにデータ量が豊富でマッピングしやすいという背景があります。さらに、病変位置を特定するCAD装置はすでにFDAの認可を得て市販されています。
もうひとつ画像特徴と画像所見がマッピングできる症例として、認知症は大きなターゲットになると考えています。アルツハイマー型認知症は、正常の状態から認知症の初期段階であるMCIを経て、認知症へと進行していきます。その過程で脳の状態がどのように変化していくのか、また同時に行われる認知機能検査などから、今患者さんがどういう状態にあるのかという情報とマッチングさせることができます。
私どもが今後進めていこうとしている研究では、MRIの撮像・記録する方法を工夫して細かいデータを積み上げていくことを目指しています。アルツハイマー型認知症の場合、ある場所の神経束が傷んで脳が委縮していくのですが、その傷んでいく度合いをほぼ定量的にとらえていこうとしています。この取り組みにより、アルツハイマー型認知症に進んでしまうかもしれないという状態を把握すること、また認知症がどのように進行し、どのようなスピードで進んでいくのかをRadiomicsの手法で捉えようとしています。
このタイプの研究は、今年、おそらく今までの数十倍の単位で増えていくだろうと予測されています。今後は、データ量、解析力を競う段階に入ってきています。現状では、画像診断医と工学者がタッグを組んで取り組んでいるところが多いようです。我々のような情報・ソフトウエアを専門にしている者は、実働部隊として役立つと思われます。ただし、医学部に籍を置いて私のように研究をしている人は、日本ではまだまだ名前を挙げて数えられるほどです。画像の特徴を数値化する部分や、画像データと遺伝子データの相関分析、データベースの管理・利用などを担当すべき仕事は山済みです。画像診断医、病理医、専門医に加えて情報、システム工学、統計解析等の専門家が如何にチームを組んでプロジェクトを進めることができるかが非常に重要なポイントになります。
酒井 晃二 さんの所属医療機関