これまで決め手となる治療法がなかった神経・筋疾患の分野で、新たな治療法の臨床応用がいよいよ現実のものになろうとしています。そのために不可欠な臨床試験および治験のために患者さんの情報を登録するシステムが本格的に稼働し始めています。独立行政法人国立精神・神経医療研究センター神経研究所で疾病研究第一部の部長を務めておられる西野一三先生に、患者登録システムRemudy(レムディ)についてお話をうかがいました。
元々は筋ジストロフィーから始まり、その他の筋疾患に対象を広げて、遺伝子診断が確定した患者さんを登録していくということを行っています。
Remudy(Registry of Muscular Dystrophy)=レムディという患者登録システムがあります。これは国立精神・神経医療研究センター(NCNP)のトランスレーショナル・メディカルセンター(TMC)の木村円先生が中心となって運営しているものです。
元々患者さんの数が少ない筋疾患・神経疾患に対して臨床試験を組むときに、対象となる患者さんに向けてきちんと情報発信をしていくことです。
これは患者さんにとっても、治験を実施する側にとってもメリットになります。このような患者登録は日本だけでなく世界中で行われています。
また、登録された患者さんを経時的にフォローしていくことで患者さんの自然歴(Natural History)を追うことができます。これも非常に重要なことです。元々患者さんの数が少ない病気では、大規模なスタディ(臨床研究)を行うことが難しいという現状があります。そこで、自然歴としてある程度定まった経過をたどる患者さんと比較して、もしも症状の進行を遅らせることができていれば、その薬の効果があったと考えることができます。そうすれば、ある薬の効果をみるために、いわゆるプラセボ(偽薬を投与するグループ)を置く必要がないのです。
この病気の進行を遅らせるという視点は非常に重要です。現在考えられている治療では、残念ながら患者さんが期待する「治る」という状態に持っていくことはできません。それはなぜかというと、仮に遺伝子治療によって全身の筋肉でジストロフィンが正常に発現したとしても、治療開始時点ですでに失われていた筋肉が元に戻ることはないからです。しかし、今残っている筋肉をできるだけ維持していくということはできるかもしれません。それはすなわち「進行を遅らせる」ということです。現在研究されている治療によって、おそらくそれは可能になると考えています。
もちろん、治療によって症状の進行を完全に止めることは難しいでしょう。ですから、現実的には治療をしなかった場合に比べて、どれだけ筋力低下の勾配を緩やかにできるかということが治療の効果ということになります。だからこそ、自然歴を追うことでその経過をきちんとみておくことが非常に重要なのです。
難治性の神経・筋疾患の治療研究はこれからもさらに進化し続けます。そのためにも、患者さん一人ひとりの自然歴を将来にわたって追い続けることが必要です。我々は治療薬の開発に携わる企業や研究者と患者さんとの情報の橋渡しをしていきたいと考えているのです。
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