インタビュー

IVRを広めるためにはエビデンスが必要-IVRの今後の展望とは

IVRを広めるためにはエビデンスが必要-IVRの今後の展望とは
荒井 保明 先生

国立研究開発法人 国立がん研究センター 理事長特任補佐(前中央病院長)/ 中央病院放射線診断科...

荒井 保明 先生

この記事の最終更新は2016年04月14日です。

IVRセンターは他の病院からの患者さんを受け入れると同時に、がん領域におけるIVR治療のエビデンスをつくる活動を行っています。エビデンスをつくることでどのようにIVR治療が世の中に普及していくのでしょうか。国立がん研究センター理事長特任補佐(前中央病院病院長)ならびにIVRセンター長の荒井保明先生にお話しいただきました。

 

がん領域においてIVRがあまり用いられてこなかった要因としては、そもそもIVRの存在が知られていなかったということもありますが、がん治療におけるIVRの有用性に関する正しい情報がなかったことも挙げられます。つまり、IVRの良い面だけでなく、悪い面も含めた正しい情報がなければ、医師もIVRを行うべきかの判断ができません。すなわち、エビデンス(科学的な根拠)を示す必要があります。ですから、臨床試験によってエビデンスを示すことがIVRを広める上でどうしても必要なのです。

2002年に、このような考えに賛同する全国約90の施設とともにIVRの多施設共同臨床試験組織(JIVROSG)を立ち上げました。2016年現在までに30もの臨床試験を行い、はじめはIVRの安全性や有効性を確認する試験を行い、現在では一部のIVRについては、標準治療と比較する試験を行う段階にまできています。世界中をみても、がん領域におけるIVR治療の臨床試験をしっかり行い、結果を次々と出しているのは私たちのグループが一番であるようです。

 

先述したとおり、IVRを必要とする患者さんにIVRを提供するとともに、臨床試験を行ってエビデンスを示すことが国立がん研究センター中央病院IVRセンターの役割であると考えています。エビデンスを示すことで、がんに対する標準治療としてIVRがガイドラインに記載されることになります。この結果、どこの病院でもIVRを行える医師が必要となり、この現場におけるニーズの高まりがIVR医師を育てる環境を整えることに拍車をかけます。

さらには、その医師たちが各地でIVR治療を行い、ますますIVR治療が認知されニーズが高まるという好循環がうまれると考えています。そのような、IVRが知られ活用されるようになるための起点となることがIVRセンターの使命であると考えています。

 

がん領域でのIVR治療には主に次の2つがあります。(参考記事:「IVRとは何か-がん領域におけるIVR(画像下治療)の有用性」)

  • がん自体の治療(局所治療):局所にとどまるがんを治すための治療
  • 症状や処置などにともなう苦痛の緩和(緩和治療)

近年は腹腔鏡手術のような鏡視下手術も大きく進歩し、外科治療(手術)も少ない侵襲で精度の高い手術が行われるようになってきています。このため、がんを治すための治療としては、外科治療に比べ侵襲が少ないというIVRのメリットは必ずしも大きいとは言えなくなりつつあります。

反面、外科手術が踏み込み難い領域である緩和治療においては、今後ますます活躍の場が広がっていくと考えています。緩和治療においても薬物療法が大きく進歩していますが、緩和のIVRには辛い症状そのものをなくしてしまうものが数多くあり、少しでも早くIVRによる緩和治療が多くの方に行われるように広めていきたいと考えています。

また、IVRは上記の2つ以外にも「生検」という領域での活躍が期待されています。大腸や胃などの場合には内視鏡でがんの組織を採取することが可能ですが、内視鏡で採取できない部分についてはからだの外から針を刺して組織を採取しなくてはなりません。

からだの外から針を刺して採取することが危険であれば、全身麻酔で外科的に切開して生検せざるを得ませんが、最近のIVR技術を駆使すれば、からだの外から生検できない部位はほとんどありません。画像を見ながら局所麻酔のみで生検するわけですので、患者さんの負担もとても少なくてすみます。

生検自体は昔から行われていますが、近年は遺伝子診療が行われるようになり、生検の重要性がますます増しています。がんの組織を採取できてはじめて治療のスタートラインに立つことができることを考えれば、これからのがん治療におけるIVRによる生検の重要性をご理解頂けると思います。

ちなみに、国立がん研究センター中央病院では2016年1月に遺伝子診療部を立ち上げ、採取したがん組織の遺伝子解析の情報に基づき、がんの予防や治療につなげていく取り組みを始めています。

※参考:国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院 遺伝子診療部門