突然手や首、体全体などが自分の意思通りに動かなくなる。それが難治性の脳神経疾患であるジストニアです。最近ではミュージシャンで発症された方がおり、話題にもなりました。繊細で繰り返し同じ動作を長期間行い続ける人に多く発症します。現在でもその原因が不明とされているジストニアについて東京女子医科大学 脳神経外科の平孝臣先生にお話し頂きました。
脳や神経系統の何らかの機能異常により、筋肉が異常に緊張してしまった結果、無意識に異常な姿勢や動きをしてしまう症状のことをいいます
例えば、顔・頭・首などの体の一部がさまざまな方向にねじれる・口が開閉できない・体全体が歪んでしまう・手足が震えるなどの症状が持続して現れます。しかし、知能が侵されることはありませんし、生死に関わる病気ではありません。
現在では原因不明となっています。ジストニアのみを症状とし、約20もの遺伝子異常(DYT1~DYT20)によるジストニアが発見されています。また、一次性ジストニアの中でも発症する部位により分類されます。
脚も含む体幹部や体の広範囲にわたって発症します。体がねじ曲がったり、反り返ったりする症状が見られます。多くは小児期に発症します。
体の一部分に発症します。通常は30代~40代の女性に多く起こります。症状は不規則に、ストレスを感じた時、あるいは繰り返し同じ動作を長期間行い続けた時に引き起こされます。
首・肩の周りの筋肉が異常に緊張し、頭の位置が正常ではなくなってしまう症状。
まぶたの痙攣のこと。無意識にまぶたの筋肉が収縮する症状。
声を出そうとすると声帯が異常な動き方をしてしまい、声がかすれたり、声が出なくなったりする症状。
字を書く時にだけ力が入り、字が書けなくなる「書痙(しょけい)」、楽器を演奏する時に指や手首が曲がったり伸びたりこわばったりする「音楽家ジストニア」などがある。管楽器奏者などでも口のジストニアが発症することがある。他には、美容師・大工・ゴルファー・タイピストなど、繊細で熟練した動きを必要とする職業に多い。
上記の局所性ジストニアが、隣接する別の部位に広がった状態の症状。
脳の病気(脳卒中・脳炎・脳性麻痺など)・脳への外傷・抗精神病薬の副作用として二次的に生じるジストニアです。
一次性ジストニアには、遺伝子異常によるジストニアもあると申し上げましたが、2015年7月に厚生労働省に難病指定された「遺伝性ジストニア」の患者さんは非常にわずかです。しかし難病指定されたにも関わらず、現在では遺伝性であるかどうかを調べる検査には保険が適用されません。さらに特殊な検査なので大多数の病院では検査ができず、検査システムや技術が確立された、限られた特別な施設でのみで行うことができます。
検査には一人当たり30万~50万位とかなりの費用がかかります。保険診療を併用しながら検査を行おうとしても、混合診療(健康保険の範囲内の分は健康保険で賄い、範囲外の分を患者さん自身が費用を支払うことで、費用が混合すること)になってしまうので、それもできません。
ですから、患者さんにかかる費用負担も考え、我々はあくまで「研究用」として無償採血検査をしていますが、その検査費用は我々が負担しています。実際は、検査を希望される方全員に行いたいのですが、医師が「遺伝性ジストニアである」と疑う十分な理由がある場合にのみ検査を行っています。
難病指定の疾患でありながら、その検査は保険適用されず、高額な検査費用は我々が負担をする。私はここに日本の医療の仕組みの矛盾・問題があると思います。一貫して保険適用されることでこそ、難病認定された意味をなすのではないでしょうか。
もし、遺伝子検査に保険が適用されたとしたらどうでしょう。我々の負担も軽減され、かつ検査・診察できる施設も増えるでしょう。そして患者さんも難病認定を受けられ、高額な医療費の負担も軽減されますし、医師・患者にとって本来あるべき最適な関係が築けるのではないかと思います。
三愛病院 脳神経外科
平 孝臣 先生の所属医療機関
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