インタビュー

脳深部刺激療法(DBS)の流れ

脳深部刺激療法(DBS)の流れ
大原 信司 先生

国際医療福祉大学准教授 福岡山王病院 脳神経外科部長

大原 信司 先生

字が書けなかったり、食事が摂れなかったり、日常生活に支障を来すような震えの場合には治療が必要になります。薬が効かない、薬の副作用で服用できないときの選択肢のひとつが脳深部刺激療法です。脳内の異常なサイクルを遮断する脳深部刺激療法の治療の流れについて福岡山王病院 脳神経外科部長の大原信司先生にお話を伺いました。

脳深部刺激療法の対象について

脳深部刺激療法の対象となるのは、本態性振戦をはじめとする震え、パーキンソン病、ジストニアなどの疾患です

脳内に電極を植え込んで、神経細胞に電気刺激を送ることで、異常な神経活動を手や足に伝達させない治療法が脳深部刺激療法(DBS)です。日本では2000年頃から行われているもので、これまで国内ではおよそ5000例が実施され、有効性や安全性が示されている治療法です。しかし、脳深部刺激療法についてはまだ認知度が低く、正しく理解されていないのが現状です。脳の中に電極を挿入するため、「危険な手術ではないか?」「効果が期待されるのか?」「副作用が強いのではないか?」といったイメージを持たれていることも少なくありません。一方、病気自体が治ると誤解されていることもあるのです。

脳深部刺激療法の治療の流れについて

脳深部刺激療法は、施設によっても違いますが、福岡山王病院脳神経外科では2回に分けて手術を行っています。まず1回目は脳内にリードと呼ばれる電極を植え込む手術で、局所麻酔で行います。2回目に行う手術で胸部に電気刺激装置を植え込みますが、このときは全身麻酔です。

DBS(Deep Brain Stimulation)のしくみ
DBS(Deep Brain Stimulation)のしくみ
脳の深部に埋め込んだリード(電極)から電気を送り運動神経を刺激する。電気の強さや流れ方は胸の電気刺激装置で調整できる

手術では、手術用のフレームを頭部に装着して頭がズレないように固定したあと、脳の電気活動を記録するための微小電極を挿入します。実際に電気を流して、震えが止まるかどうか確認をしながら座標を決めていきます。

入院期間は、震えだけの場合であれば2週間程度、パーキンソン病の場合は術後に内服薬や刺激の調整などを行わなければならないため、4週間程度となります。

過去3年間のデータから合併症の発生率を報告

震えは、がんや脳卒中などと違って、放置していても命にかかわる病気ではありません。だからこそ、脳深部刺激療法を行うにあたっては、安全であることがとても重要となります。合併症が頻発するようでは、治療法として成立しないからです。

脳深部刺激療法を数多く行っている施設が集まって、過去3年間の脳深部刺激療法における合併症の頻度を調べてデータをまとめたものがあります。私の前任地の施設も入っているのですが、それによると、9施設、457症例での合併症の発生率は6.4%でした。合併症として多かったものは頭蓋内出血(1.8%)と感染(2.8%)です。頭蓋内出血に伴う症状としては、運動麻痺や頭痛、意識障害ですが、いずれも一時的なものでした。最終的に、永続的な障害を伴う合併症を起こしたのは1例のみでした。

日常生活の制限にも注意

MRIは撮れないことがあります

脳深部刺激療法における効果は、症状が震えのみの場合は非常に有効性が高く、9割ほどの症状の改善がみられます。ただ、日常生活上の制限があることも把握しておくことが必要です。基本的にはペースメーカーと同じですが、以前から指摘されていることとしてはMRI(磁気共鳴画像)が撮れないことや、電気を使うリハビリができないといったことが挙げられます。ただし、最近はMRIの撮影が可能な最新の機器も出てきていますので、徐々に制限も減少しつつあるようです。

脳深部刺激療法における効果の持続性に関しては、治療を開始して10年以上経過したため、長期成績のデータも最近報告されるようになりました。それによると、効果が減衰することはなく、周辺の脳への変化などの問題も起きていないといったものでした。ただ、電池が5~6年で切れるためバッテリーの交換は必要になります。