インタビュー

パーキンソン病の症状・診断

パーキンソン病の症状・診断
望月 秀樹 先生

大阪大学大学院 医学系研究科神経内科学 教授

望月 秀樹 先生

この記事の最終更新は2018年01月29日です。

パーキンソン病は、無動症状に加え、振戦(手足などの震え)、筋強剛をおもな症状とする神経変性疾患です。そのほかにも、パーキンソン病の予兆とされるレム睡眠行動異常症や、かなり進行してからあらわれる姿勢保持障害など、さまざまな症状があります。パーキンソン病の症状と診断について、大阪大学大学院医学系研究科神経内科学の望月秀樹先生にお話を伺いました。

パーキンソン病という病名は、英国の医師ジェームズ・パーキンソン氏に由来します。彼は1817年に『An Essay on Shaking Palsy』という、パーキンソン病の症状を細かく記載した小論を発表しました。

 

現存する『An Essay on Shaking Palsy』 NIH Libraryにて 画像提供:望月秀樹先生
現存する『An Essay on Shaking Palsy』 NIH Libraryにて 画像提供:望月秀樹先生

パーキンソン病の患者数は、10万人あたり100〜150人ほどです。50〜65歳でもっとも多く発症し、60歳以上の患者数は100人に1人ほどです。日本では、高齢化に伴い患者数は徐々に増加しています。

パーキンソン病は、アルツハイマー病に次いで、2番目に多い進行性の神経変性疾患(脳や脊髄にある神経細胞のうち、ある特定の神経細胞群が徐々に障害を受けて脱落する)です。2017年時点では根本的な治療はなく、症状を改善する薬を主体として治療を行います。

パーキンソン病のおもな臨床症状は、以下の通りです。

  • 無動症状(動きが遅くなる)
  • 振戦:手足などの震え
  • 筋強剛(歯車様・鉛管様)による

パーキンソン病のおもな症状は、中脳にある黒質という神経核の障害によって起こるといわれています。黒質が障害されるとドーパミン神経細胞の分泌が減少し、手足の震えや筋強剛が起こるのです。

 

脳の構造

パーキンソン病で起こる振戦(手足などが震える)はほとんど場合、左右に差があります。パーキンソン病の振戦は、静止時振戦(安静時に起こる震え)です。姿勢をとるときに震えが起こる本態性振戦や、動作をするときに震えが起こる動作時振戦とは異なります。

  1. 表情がなくなる(仮面様顔貌といいます)
  2. 手足の動きが遅くなる
  3. 運動量が少なくなる

といった症状が出ます。

動作の変換が非常に鈍くなるため小刻みの歩行になり、前傾姿勢になったり、手の振りがなくなったりします。

筋強剛による無動症状は麻痺とは異なる

パーキンソン病で起こる筋強剛(筋固縮)とは、自転車チェーンのオイルが切れている状態で抵抗のある車輪をまわそうとする様子をイメージしていただけるとよいと思います。オイルが切れて抵抗があり、うまくまわらない車輪の状態が、手足などに起こります。

パーキンソン病の無動症状は、脳梗塞などによって起こる完全に動けない麻痺とは異なり、ゆっくりではあるけれども手足を動かすことができます。

パーキンソン病の予兆とされる症状にはいくつかあります。(これらの症状はパーキンソン病の予兆になることがありますが、必ず発症するわけではありません。)

  • うつ
  • レム睡眠行動異常症
  • 嗅覚低下
  • 便秘

レム睡眠行動異常症とは、夜中、レム睡眠期(まぶたの下で眼球が動き、覚醒時と似た脳波を示す眠りの状態)に実際に大声をあげて暴れる、隣に寝ている人を殴る、といった異常行動を起こす症状です。レム睡眠行動異常症の患者さんの一部が、パーキンソン病になることがわかってきました。2017年現在、レム睡眠行動異常症の患者さんを解析することでパーキンソン病の原因を解明しようとする研究が世界中で行われています。

将来的にパーキンソン病が進行した場合、以下のような症状が出ることがあります。

  • 姿勢保持障害(転びやすい)
  • 認知症
  • 幻覚、妄想

姿勢反射障害は体をポンと後ろに倒したとき、体勢を保持できずに倒れてしまう状態を指します。パーキンソン病がかなり進行した状態で出る症状です。

姿勢保持障害については2015年に新しい診断基準が発表された

2015年に国際MDS学会から、パーキンソン病の診断基準が発表されました。姿勢保持障害(転びやすい状態)はパーキンソン病の初期ではなく、進行してから出ることがわかっています。もし姿勢保持障害が初期に出た場合、パーキンソン病ではなくほかの疾患、たとえば進行性核上性麻痺多系統萎縮症を疑います。

多くの場合、パーキンソン病を発症するのは50〜60代ですが、若年層や70代以降で発症することもあります。発症年齢に症状進行の速度は比例する傾向にあり、発症が早いほど、比較的進行はゆるやかです。

近年の研究で、パーキンソン病の症状にはいくつかの段階があることがわかってきました。まず体の片側に症状があらわれ、次に両側の症状、そして姿勢反射障害が出ます。前項でもお話ししたように、姿勢反射障害が出るまでには時間がかかります。

パーキンソン病の診断には、まず無動症状や静止時振戦、筋強剛、場合によってはレム睡眠行動異常症、嗅覚障害や便秘などの臨床症状を用います。

近年の研究で、αシヌクレインというタンパクの過剰が黒質ドーパミン神経細胞の障害を引き起こすことが判明しました。脳内のレビー小体(神経細胞内にみられる円形状の構造物)に多く存在します。現在、αシヌクレインはパーキンソン病の病理診断に用いられています。

記事2『パーキンソン病の研究—αシヌクレインとのかかわり』では、パーキンソン病の原因にかかわるαシヌクレインについて詳しくご説明します。

望月秀樹先生

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