パーキンソン病は神経の難病として知られていますが、症状の改善に有効な薬剤も数多く存在します。また最新の研究報告では、ビタミンDのサプリメントがパーキンソン病の進行を抑制するという結果が示され、大いに注目を集めています。パーキンソン病の最新治療について、東京慈恵会医科大学葛飾医療センター神経内科診療部長の鈴木正彦先生にお話をうかがいました。
パーキンソン病の薬物療法で主に使われている薬には、減少したドパミンの働きを補う目的のものと、ドパミンが減ったためにバランスが悪くなった他の神経細胞の働きを助ける目的のものがあります。
その他、抗うつ薬・睡眠薬などのほか、副作用を軽減する薬などを必要に応じて使います。
現在、パーキンソン病治療に用いられる薬剤は非常に多くの種類がありますが、それだけに適切に使用して十分な長期的視点に立脚した処方を提供することが専門医には求められます。患者さんの身体状態は日々変化しています。体重の増減もありますし、体調にも波があります。それに加えてパーキンソン病に特徴的な症状としての便秘があるため、薬の吸収が日によってかなり変わります。健康な方とできるだけ変わらない生活を目指し、よりよい療養生活を送っていただくためには、患者さん一人ひとりの状態に合わせて使用する薬剤を細かく調整する必要があります。
パーキンソン病は難病ではありますが、私たちが担当している患者さんの中には、発症から15年経ってもゴルフやテニスができる方たちが多数おられます。それはなぜかというと、このようなきめ細かい治療と正しいリハビリテーションを含めた療養生活を行なっているからです。現実にこの葛飾医療センターに通っている患者さんは、非常によい状態で過ごしている患者さんが多いのです。
外科療法はそれほど一般的には行われません。パーキンソン病の進行にともなって現れる諸症状や、長期の服薬で起こる別の症状(ジスキネジアやウェアリング・オフ現象など)を軽減して、薬物治療をより効果的に継続するために行います。したがって以下の手術で完治することはありませんが、極めて有用な手段であることは間違いありません。
脳の中でパーキンソン病の症状に関わる神経活動を抑制して症状をおさえます。頭蓋骨に小さな穴を開け、局所麻酔下で行います。
定位脳手術で電極を埋め込み、パーキンソン病の症状に関係する領域を電気的に刺激する方法です。電極と繫がった刺激装置を胸に埋め込み、専用の装置で着衣の上から調整します。
からだの機能が衰えないように、リハビリテーションで運動機能を維持します。これはパーキンソン病の進行がいずれの段階にあっても、QOL(生活の質)を低下させないために極めて重要なことです。
関連情報:パーキンソン病治療ガイドライン2011(日本神経学会)
私たち慈恵会医科大学 葛飾医療センターの研究グループは、ビタミンDのサプリメントがパーキンソン病の進行を抑制するという研究結果を報告しました。これは米国の医学雑誌「アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション(The American Journal of Clinical Nutrition)」2013年Vol. 97 No.5に掲載され、多くの論文に引用されています。
パーキンソン病の患者さんのうち、ビタミンD受容体にある種の遺伝子多型(遺伝子配列の個体差)を持っている方がビタミンD3のサプリメントを摂取すると、高カルシウム血症を起こすことなく、パーキンソン病の進行が抑制されることがわかりました。特に有効なのはビタミンD受容体遺伝子のタイプがFokI TT あるいはCTの患者さんでした。
ビタミンD3サプリメントの投与量は1日あたり1,200 IU(インターユニット)で、通常摂取する量よりは多くなっていますが、サプリメントの消費が多いアメリカなどでは、2,000〜3,000IUほどの量を摂取している方も珍しくありません。
この研究結果に基づき、関連記事「パーキンソン病の症状」「パーキンソン病の検査と診断」でお示ししたように、核医学検査による発症前診断でドパミン神経細胞の減少が認められる方にビタミンD3を投与することで、運動症状を発症する前に進行を食い止められる可能性があるかもしれません。
東京慈恵医科大学 内科学講座脳神経内科 教授、東京大学医科学研究所 非常勤講師
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