インタビュー

子どもの耳の感染症に対する抗菌薬-抗菌薬が必要な場合と、必要ではない場合

子どもの耳の感染症に対する抗菌薬-抗菌薬が必要な場合と、必要ではない場合

筑波大学附属病院 水戸地域医療教育センター  

梶 有貴 先生

徳田 安春 先生

群星沖縄臨床研修センター センター長 、東京科学大学 臨床教授、獨協大学 特任教授、琉球大学 ...

徳田 安春 先生

Choosing Wisely

この記事の最終更新は2016年05月12日です。

耳の感染症にかかる子どもは多くいますが、これは鼓膜の内側にある中耳に感染が起こる場合がほとんどで、細菌やウイルスによって引き起こされます。細菌感染の場合は、抗菌薬を使って治療を行います。抗菌薬は細菌を殺すことのできる強力な薬剤です。

幼児はもちろん、乳児や小児の中にも抗菌薬が必要となる場合はありますが、抗菌薬を投与しすぎると害になる可能性もあります。以下にその理由を示します。

・抗菌薬は、ウイルスによって引き起こされる耳の感染症には効果がありません。

・痛みを和らげる効果はありません。

・通常、ウイルス感染と多くの細菌感染は2~3 日で軽快します。特に子どもが2歳以上の場合ではよく見られます。

子どもが耳の感染症にかかった疑いがある場合は、かかりつけ医に電話して症状を説明しましょう。通常、主治医は、「2~3日待っても改善しないようであれば、子どもを連れてくるように」と指示をするはずです。耳の感染症における主症状は痛みであり、特に初日に起こります。また、熱が出る場合もあります。

子どもに市販の痛み止めを使用してみましょう。例えば以下のようなものがあります。

・アセトアミノフェン(幼児または小児用タイレノール®またはそのジェネリック薬品)

・イブプロフェン(小児用モトリンまたはそのジェネリック薬品)

抗菌薬では、最初の24時間は痛みを和らげることができません。その後続く痛みにわずかに効果を発揮するに過ぎません。そのため、痛み止めは非常に重要ですし、通常、唯一必要な治療とも言えます。

抗菌薬が本当に必要なのかどうか、あるいは「経過観察」でも良いのか主治医に尋ねてみましょう。耳の感染症を起こした子どもは、経過観察をした場合と抗菌薬を投与した場合どちらでも同様に回復します。しかし、2~3日経っても症状が改善しない、もしくは悪化している場合には医師の診察を受けましょう。

子どもが耳の感染症を起こしてすぐに抗菌薬を投与すると、嘔吐、下痢、アレルギー反応を引き起こしやすくなります。また、抗菌薬は体内に共存している細菌も殺してしまい、下痢など他の症状を引き起こしてしまいます。

抗菌薬の投与で、耐性菌を増やしてしまうことがあります。こういった耐性菌を殺すことは通常の菌よりも難しいことが多いです。治りにくい病気になってしまい、治療に更なる費用が掛かってしまうといったことも起こり得るのです。そうなると更に合併症や副作用の危険性が高まります。また、耐性菌が他人に移ってしまうこともあります。

中程度の耳の感染症を患った2歳前後の子どもに抗菌薬を処方すると、11ドル~52ドル(日本円で約1100円〜5500円)の費用がかかります。耐性菌の場合は医師の診察を受ける回数や薬剤も増え、更に費用がかかります。

感染による痛みが強く、2~3日続く場合には細菌感染が原因になっている可能性があります。この場合、すぐに治療しなければならないこともあります。

以下の様な子どもに対しては、抗菌薬を直ちに投与しなければならないことが多いです。

・6ヶ月以内の乳児

・6ヶ月~2歳の赤ん坊で、中程度以上の痛みがある場合

・2歳以上の小児で、熱が華氏102.2度(★39℃)以上ある場合

治療が困難な病態を有する小児

口蓋裂

・ダウン症

・免疫不全症

・人工内耳装着

<小児の耳感染症における予防と管理方法-子どもが耳の感染症に罹ってしまう危険性を減らす>

・子どもを煙草の煙から遠ざけましょう

・母乳を6ヶ月、またはそれ以上の期間与えて育てましょう

・生後6ヶ月以上の赤ん坊には、おしゃぶりを与えないでおきましょう

・哺乳瓶を与えたまま赤ん坊を寝かせるのは止めましょう

・頻繁に手洗いを行い、周囲に病原菌を広げないようにしましょう

・具合が悪い人に子どもを近づけないようにしましょう

・子どものデイケアを6人以下で行ってくれる所を探しましょう

・毎年インフルエンザワクチンを子どもに接種させ、他の医師が推奨するワクチンも接種するようにしましょう

<小さい子どもに、以下の様な感染の兆しがあれば主治医に連絡しましょう>

・発熱

・耳を引っ張る

・泣く

・耳から液体が垂れている

・寝付けない

・耳の聞こえが悪い

<耳痛を軽減する>

・温かい布(ただし熱いものは避ける)、温かい水の入ったボトルや加温パッドを痛みのある方の耳に当てておきましょう。

抗菌薬を服用しているかの有無に関係なく、痛み止めが必要になることが多いです。子どもに適切な薬剤と服用量を主治医に聞いてみましょう。

 

※本記事は、徳田安春先生ご監修のもと、米ABIMによる “Choosing Wisely” 記事を翻訳し、一部を日本の読者向けに改稿したものです。

翻訳:Choosing Wisely翻訳チーム 大阪医科大学医学部医学科 前田広太郎

監修:梶有貴、徳田安春先生

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  • 群星沖縄臨床研修センター センター長 、東京科学大学 臨床教授、獨協大学 特任教授、琉球大学 客員教授、筑波大学 客員教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of Hospital General Medicine 編集長

    徳田 安春 先生

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  • 筑波大学附属病院 水戸地域医療教育センター  

    日本内科学会 認定内科医日本感染症学会 会員

    梶 有貴 先生

    初期診断能力、初期治療能力に加え入院患の急性期・亜急性期の診断・管理も請け負う「病院総合医」の能力をもった、「日本型病院総合医」を目指すべく筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター・水戸協同病院に勤務。若手医師をリーダー的立場から牽引している。Value Based Medicineを推進する立場から、この度Choosing Wisely翻訳プロジェクトに参画。

  • 群星沖縄臨床研修センター センター長 、東京科学大学 臨床教授、獨協大学 特任教授、琉球大学 客員教授、筑波大学 客員教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of Hospital General Medicine 編集長

    日本内科学会 総合内科専門医日本プライマリ・ケア連合学会 指導医・プライマリ・ケア認定医

    徳田 安春 先生

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