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公開日 : 2017 年 07 月 06 日
更新日 : 2017 年 11 月 30 日

かつて、神聖な臓器として触れることが許されなかった心臓の外科手術は、今から約60~70年前に始まりました。1965年に心臓外科医として歩み始めた国立循環器病センター名誉総長・北村惣一郎先生の医師人生は、まさに心臓外科の進歩と共にあったといえます。川崎病の子どもに対する『小児冠動脈バイパス手術』を世界で初めて行い、あらゆる心臓外科手術の開発と発展をその目でみてきた北村先生は、心臓移植や再生医療以上に、補助人工心臓の改良に強い期待を抱いているといいます。心臓移植の限界と補助人工心臓の進歩により補える領域、現在日本で進められているiPS細胞を用いた心疾患治療への期待についてお話しいただきました。

心臓外科の歴史-他の領域よりも遅れて発展を遂げた

心臓

心臓は、今から70年ほど前まで、医師であってもメスを入れてはいけない神聖な臓器と考えられていました。そのため、心臓外科の進歩の歴史は世界的にみても遅く、心臓停止・再開とその間の人工心肺装置の開発は難題となっていました。私が医学部を卒業した1965年頃の心臓外科は、いまだ発展途上の段階にありました。

私の医師としての人生は、心臓外科の発展の歴史とちょうど重なっており、心臓外科医としては最も面白い時期に医師としての生活をスタートできたのではないかと考えています。

今日につながる心臓外科手術がはじめて行われたのは1938年です。この年、アメリカのグロス医師により動脈管開存症の結紮術が行われ、これを契機に心臓外科手術は急速な進歩を遂げ始めました。それまで触れることさえ躊躇われていた「動いている心臓」に対する様々な手術法が開発され、ついに心臓の機能を機械や他者の心臓で代替する補助人工心臓や心臓移植の時代が到来しました。

急速に進む補助人工心臓の改良

心疾患に対する再生医療の研究や開発も進められていますが、今なされるべきは心臓移植と補助人工心臓(以下、人工心臓)の革新であると考えています。このうち、後者の人工心臓は、現在めざましい進歩を遂げています。

心臓の構造や機能は、当然ながら数年で突然に変わることはありません。そのため、加齢現象のある心臓移植の進歩には一定の限界があるといえます。動物実験レベルではブタの心臓をサルに移植するといった異種移植も行われており、年単位の生存も確認されています。しかし、人間を対象として異種移植を行えるかと考えると、当然ながらまだまだ難しいといわざるを得ません。一方、人工心臓は、飛行機から宇宙船へ、計算機からコンピュータへと比較的短い時間で進歩していったと同じように、ある意味無限の可能性があります。

人工心臓を装着しつつ、自宅で生活を送ることができる時代に

人工心臓は日進月歩で改良が進み、限界と考えられてきた5年生存の壁を超えつつあります。これまでの人工心臓装着術は、心臓移植を待つ患者さんに対して行われる治療とされてきました。しかし、人工心臓の高機能化により、アメリカでは装着後ご自宅に帰り、仕事はもちろん、運動や趣味にも大きな制限のかからない生活を送り、移植を受けることなく天寿を全うされる方も増えています。これをデスティネーションテラピーといいます。プールで泳ぐことやトランペットなどの楽器を演奏して生活をエンジョイしている患者さんも増えています。

日本でも植込型補助人工心臓認定施設は43施設にまで増えました。患者さんのなかには人工心臓の装着後ご自宅に戻り、3年や4年といった長期にわたって日常生活を送りながら移植を待つ人も増えています。

心臓移植後、入院回数が増えてしまう患者さんもいる

心臓移植後には、拒絶反応の有無の確認や、生涯にわたる複数の免疫抑制剤の内服など、様々なデメリットも生じます。生体組織検査(心筋バイオプシー)が必要になり、移植前よりも入院回数が増えてしまったと漏らされる患者さんもおられます。

一方、人工心臓の装着後にも機械への血栓付着を防ぐワーファリンと血小板凝集抑制剤の服用が必要になり、出血や脳血栓症などの合併症と感染症の対策が重要になります。

今後、ペースメーカーのように完全に体内に埋め込まれ、電力も10年単位で保たれ、制限の少ない生活を送ることができる人工心臓が開発されれば、これまで心臓移植を待つほか選択肢がなかった患者さんにとっては大きな希望になるでしょう。

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