インタビュー

市中肺炎とは─初期症状は風邪と同じ?

市中肺炎とは─初期症状は風邪と同じ?
石田 直 先生

倉敷中央病院 呼吸器内科 主任部長

石田 直 先生

この記事の最終更新は2017年11月28日です。

肺炎にはさまざまな種類があります。なかでも健康で若い方や医療機関への受診の頻度が低い高齢者などが発症した肺炎を「市中肺炎」といいます。市中肺炎の原因はいくつか考えられます。

原因にはどのようなものがあるのか。また、市中肺炎の定義は健康な方だけに適用されるのでしょうか。肺炎の症状と合わせて倉敷中央病院呼吸器内科、主任部長の石田直(いしだただし)先生にご解説していただきます。

市中肺炎は自宅で生活をしている一般生活者がかかる肺炎のことを指します。ここでいう一般生活者とは、健康な若年者や、中高年、高齢者、軽度の基礎疾患(慢性呼吸器疾患や糖尿病など)を持っていても在宅生活している方などのことをさします。

市中肺炎の対義語に院内肺炎があります。院内肺炎の定義は、何らかの疾患で入院した患者さんが入院後48時間以上経過してから肺炎を発症したものになります。

従来、肺炎の定義は前述の「市中肺炎」と「院内肺炎」に大別されていました。しかし2011年に呼吸器学会のガイドラインを作成するにあたって、市中肺炎と院内肺炎の中間とする「医療介護関連肺炎」を新しく定義しました。医療介護関連肺炎とは、入院はしていないが、医療機関と密接に接触している方々が発症した肺炎のことです。これは、高齢者の増加や入院はしていないが介護が必要な方の医療機関にかかる頻度が増加したことを背景に追加されました。

先ほど医療介護関連肺炎は入院をしていないが医療機関と接触のある方が発症した肺炎と定義しましたが、具体的には下記のような方々に分類されます。

  • 3か月以内に入院歴がある
  • 介護施設に入所している
  • 透析治療をしている
  • 化学療法を受けている
  • 在宅で介護を受けている など

市中肺炎は原因が細菌なのかウイルスなのかで「細菌性(定型)肺炎」と「非定型肺炎」に分類されます。原因を分類することで適切な治療を行うことができます。治療に関しては記事2『市中肺炎の検査と治療方法─原因によって抗菌薬が違う?』にて解説しています。

肺炎球菌やインフルエンザ菌などの細菌によるものが分類されます。なかでも肺炎球菌による市中肺炎の罹患率は、数ある原因菌のなかで最も多いとされています。

また細菌性(定型)肺炎は定型肺炎(ていけいはいえん)ともいわれています。インフルエンザ菌は名前に「インフルエンザ」とあるのでインフルエンザウイルスと混同されがちですが、細菌としてのインフルエンザ菌は、気管支炎中耳炎を発症することがある細菌です。また、肺炎の原因にもなります。

マイコプラズマやクラミジアなどによる非細菌性の病原体による肺炎です。特にマイコプラズマは非定型肺炎の代表的な病原体です。また成人で水痘水ぼうそう)にかかり、悪化することで水痘肺炎(すいとうはいえん)をきたすことがあるなど、ウイルスによる肺炎もみられます。

寝込んでいる人の素材画像

風邪症状を引き起こすウイルスの先行感染から細菌性肺炎をきたすことが多くあります。

初期症状は咳や痰(たん)、発熱などの症状です。

市中肺炎を疑う際には下記の症状が続く場合やよくみられる場合には市中肺炎の可能性があります。

  • 3日以上熱が続く
  • 黄色や緑などの色の付いた痰が多い
  • 息切れ
  • 咳が出る など

市中肺炎の咳は細菌が原因の場合には痰を伴う咳(湿性咳嗽・しっせいがいそう)がみられます。また、非細菌性の病原体が原因の場合には痰を伴わない空咳、乾性咳嗽(かんせいがいそう)がみられます。

肺炎の原因として代表的な肺炎球菌は主に、集団生活が始まったお子さんののどの奥や鼻に存在しているとされる常在菌です。そのため肺炎球菌保有者やマイコプラズマ肺炎の患者さんの咳やくしゃみなどにより菌が飛び散り、他者へ感染する飛沫感染(ひまつかんせん)*1によって広まります。

また、保菌者と濃厚に接触することにより接触感染(せっしょくかんせん)*2することもあるのではないかといわれています。たとえば、家庭内にマイコプラズマに感染している家族がいて、その看病などで濃厚接触している場合にこの可能性が考えられます。

*1飛沫感染……咳やくしゃみで病原体を含む飛沫が口や鼻などの粘膜に直接触れて感染すること

*2接触感染……感染源に皮膚や粘膜が触れることによって感染すること

また特異な感染経路として、ミストが発生するようなものから「レジオネラ菌」に感染するケースがあります。レジオネラ菌とは空調設備の冷却塔や水筒、温泉水などのなかに生息している肺炎の原因菌です。レジオネラ菌は、それが生息している水に触れたり、口や鼻からその飛沫が入ってしまったりすることによって人に感染します。人から人に感染することはありません。

レジオネラ肺炎とは、水環境に生息しているレジオネラ菌に感染することで発症します。レジオネラ菌を原因とした肺炎は重症化することが多く、注意が必要です。

高齢者や新生児のほかにも基礎疾患を持っている方や免疫の能力を落とすような治療を行っている方は注意が必要になります。基礎疾患を持っている方は感染しやすいほか、重症化するおそれがあるからです。

空調設備やミスト、サウナなど水が循環している設備を持つ施設はレジオネラ菌の有無について点検・管理が必要です。倉敷中央病院ではレジオネラ菌が発生しやすいとされる空調設備の定期点検を行っています。レジオネラ菌を検出した場合には、殺菌することで菌の繁殖や感染を予防しています。

市中肺炎はときに重症化することもあります。特に重症化する頻度が高いものは肺炎球菌が原因の市中肺炎です。これは、肺炎球菌が原因の市中肺炎が起こる頻度が高いためともいえます。

レジオネラ肺炎も感染の頻度は低いですが重症化することが多くあります。また、子どもの頃に水痘水ぼうそう)や麻疹はしか)のワクチン接種をしていても年数が経過し、免疫が低下してしまい成人してから水痘(水ぼうそう)や麻疹(はしか)が重症化して水痘肺炎や麻疹肺炎をきたすことがあります。

市中肺炎のガイドラインでは市中肺炎の重症度は5つの指標で診断されます。

<市中肺炎 重症度の5つの指標>

  • 男性70歳以上 女性75歳以上
  • 脱水の有無
  • 呼吸不全の有無
  • 意識障害の有無
  • 循環障害

通常上記の5つは入院で検査をしなくても、外来の診察で検査診断ができます。

記事2『市中肺炎の検査と治療方法─原因によって抗菌薬が違う?』では市中肺炎の検査と治療についてお話いたします。

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