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培養鼻腔粘膜上皮細胞シート移植による中耳粘膜再生治療。治療の流れや今後の展望
東京慈恵会医科大学では、真珠腫と癒着性中耳炎の患者さんを対象に、鼻の粘膜から、粘膜細胞シートをつくり、粘膜欠損部位に移植する「培養鼻腔粘膜上皮細胞シート移植による中耳粘膜再生治療」の研究を行って...
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培養鼻腔粘膜上皮細胞シート移植による中耳粘膜再生治療。治療の流れや今後の展望

公開日 2017 年 11 月 29 日 | 更新日 2017 年 11 月 30 日

培養鼻腔粘膜上皮細胞シート移植による中耳粘膜再生治療。治療の流れや今後の展望
小島 博己 先生

東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学教室 教授

小島 博己 先生

東京慈恵会医科大学では、真珠腫と癒着性中耳炎の患者さんを対象に、鼻の粘膜から、粘膜細胞シートをつくり、粘膜欠損部位に移植する「培養鼻腔粘膜上皮細胞シート移植による中耳粘膜再生治療」の研究を行っています。

今回は記事1『近年注目の再生医療とは? 耳鼻科領域でも研究が進んでいる』に引き続き、東京慈恵会医科大学附属病院 耳鼻咽喉科診療部長の小島博己先生に、治療の流れや臨床試験の結果、再生医療の今後の展望についてお話しをうかがいしました。

乳突蜂巣に粘膜を移植することで再発は防げる その方法とは?

記事1『近年注目の再生医療とは? 耳鼻科領域でも研究が進んでいる』でご説明したように、真珠腫・癒着性中耳炎の治療として、鼓室形成術だけを行ったとしても、もともとの原因である乳突蜂巣の空気や粘膜の状態は変わりません。そのため、再発率が高い治療法でした。

乳突蜂巣
乳突蜂巣

そこで、乳突蜂巣の粘膜が欠損している箇所に、新たな粘膜を移植すれば疾患の再発がなくなるという考えが出ました。しかし、もともと患者さんの乳突蜂巣内にある粘膜は少ないため、培養するにも量が足りないといった問題がありました。また、口の粘膜を移植するという方法もありますが、口の中を大きく切ると強い痛みが発生するという障害があります。

鼻の粘膜から取る

我々は、上記の問題を解決するために、鼻から粘膜を採取し粘膜の細胞シートをつくり患者さんに移植するという方法を考えました。培養した粘膜の細胞を耳に移植するという方法は、世界初の医療です。

鼻の粘膜は耳の粘膜と性質が近く、奥まで続いているため安易に必要な量を取ることが可能です。採取時に多少の鼻血は出ますが、電気凝固で止めることができます。

2014年から臨床試験を開始

東京慈恵会医科大学では、培養鼻腔粘膜上皮細胞シート移植による中耳粘膜再生治療の臨床試験を、2014年から開始しました。臨床試験を行うためには、さまざまな審査を通過しなければならず、非常に狭き門です。我々がこの治療について研究を開始したのは2004年だったため、10年かかりやっと臨床試験までたどり着くことができました。

また、耳鼻科領域の再生医療で臨床試験を実施するのは、この治療法が初めてです。治療の対象疾患は、真珠腫と癒着性中耳炎で(真珠腫と癒着性中耳炎の詳しい解説は、記事1耳鼻科領域でも研究が進んでいる再生医療についてをご参照ください)、対象年齢は20歳以上です。

粘膜細胞の採取から移植までの流れ 予後の変化は?

粘膜採取から患者さんに移植するまでの手順

粘膜細胞と血液の採取

まず、外来で患者さんの鼻のなかに麻酔をして、粘膜組織と培養時の栄養素である血清をつくるために、70mlの血液を採ります。細胞シートをつくるためには3週間ほどの時間が必要なため、手術予定日から逆算して約3週間前にそれらを採取します。

鼓室形成術

真珠腫ならば、真珠腫を切除する、癒着性中耳炎ならば、癒着をはがす通常の鼓室形成術を実施します。

小島先生
提供:小島先生
小島先生
提供:小島先生

鼻粘膜上皮細胞シートを移植

その後、培養皿に入った細胞シートの温度を下げ、シートをはがし患者さんの耳に移植します。 

小島先生
提供:小島先生

臨床試験後の患者さんの予後は良好

2014年から開始した臨床試験では、5例ほどの手術を実施しました。手術後約2か月から乳突蜂巣に粘膜がはり空気が入り始め、6か月ほど経過すると綺麗に空気が入った状態となります。手術を行った患者さん全員の症状が改善され、2017年現在、手術から約3年が経過しましたが、再発を起こした方はいません。予後は良好といえます。

2018年には、新たに10例の症例に対して手術を実施する予定です。

粘膜再生治療のリスクは?

再生医療は、人体に影響するリスクに応じて、第1種再生医療等(高リスク)、第2種再生医療等(中リスク)、第3種再生医療等(低リスク)に分類されています。第1種がiPS細胞やES細胞を用いたもので、第2種は、体性幹細胞を使用したものです。そして、第3種は体細胞を使ったものとなっています。

今回、臨床試験を行った培養鼻腔粘膜上皮細胞シート移植による中耳粘膜再生治療は、鼻の幹細胞を使用しているため、第2種再生医療等(中リスク)となります。患者さんご自身の細胞を用いているため、腫瘍ができるといった危険性はないと考えてよいでしょう。また、細胞を培養する血清も、患者さんの血液を使用するため、感染症の心配はありません。

しかし、より高い安全性を評価するために、現在、マウスを使い、本当に腫瘍や感染症が起きないのかといったリスクの検証を行っています。

臨床試験の次は治験へ

2019年の春には、臨床試験を終え、治験に進みたいとかんがえています。現在はそのための準備をしています。

細胞シートの輸送は可能なのか 検証を実施

臨床試験は、1つの施設だけで試験を行うものですが、治験は複数の施設で手術を実施しなければなりません。そうすると、細胞シートを作る環境が整っている施設は限られるため、手術を行う施設以外の場所でシートをつくり、手術時に手術場所へ送る必要があります。そのため細胞シートが運送に耐えられるのかを検証する運送試験を実施しました。

シートを運送するための専用容器を用意し、車で5時間ほどの施設へシートを運びました。その結果、シートは十分耐えることができました。次は、九州の施設で手術を行うことを想定し、飛行機で運送する計画も立てています。

再生医療の今後の発展

五感を取り戻す再生治療

耳鼻科で扱う器官は、聴覚や味覚といった感覚器官です。そのため、感覚をつかさどる細胞がダメージを受けた場合は、味覚が落ちるなど患者さんのQOL(生活の質)が低下してしまいます。そのため、細胞を再生させ、患者さんのQOLを上げるための再生医療も、今後は進んでいくと思われます。

器官自体を再生する治療

現在は細胞の再生医療の研究が進歩していますが、将来的には、機関自体を作る再生治療ができると期待されています。たとえば耳鼻科領域の場合、内耳の三半規管ごと再生するといった研究も、基礎の段階ですが進められています。

粘膜上皮細胞を他の疾患へ応用

鼻粘膜上皮細胞からつくられた鼻腔粘膜上皮細胞シートは、さまざまな疾患に対して応用が可能と考えられます。たとえば、喉頭・気管の疾患に対しては、細胞シートを移植することによって、気管粘膜の再生ができます。その他にも、鼻副鼻腔や頭頸部領域、食道といったものの再生医療にも応用すること可能です。

予後がよくなり安全性も高い再生治療 最終目標は商品化

小島博己先生

培養鼻腔粘膜上皮細胞シート移植による中耳粘膜再生治療は、従来の手術である鼓室形成術のプラスアルファとして行うことで、真珠腫と癒着性中耳炎の予後をよくすることが可能です。安全性も高く、患者さんの負担も少ないため、近い将来治験となった場合は、ぜひ多くの患者さんに参加していただきたいと思います。

そして、最終的には、この再生医療を商品化することが私の目標です。理想としては、iPS細胞などで、いくつかの患者さんの型(血液型など)に合わせた細胞シートを冷凍しておきます。そして、パッケージにロゴや患者さんのIDが印字され、より多くの方々に治療を受けてもらえるような状態にすることができれば嬉しいです。

 

再生医療・耳鼻科領域 (小島 博己 先生)の連載記事

主な研究分野は中耳疾患(特に真珠腫、癒着性中耳炎)病態の解明、中耳粘膜の再生医学、アポトーシスの細胞内シグナル伝達。臨床は耳科手術を中心に行っており、真珠腫に対しては内視鏡を併用した外耳道後壁を保存した鼓室形成術を行い、良好な成績を得ている。又、高度感音難聴症例で、中耳疾患を合併した方に対し、人工内耳埋込術も積極的に行っている。錐体部真珠腫などの頭蓋底病変には脳神経外科の協力のもと、頭蓋底手術を行っている。