子どもががんや心疾患で入院しなければならなくなったとき、患者さんに付き添うご家族(お父さん、お母さんをはじめその兄弟)には、慣れない土地での生活から子どもの看病、不安など、心身ともに大きな負担が伴います。
パンダハウスは、運営団体「パンダハウスを育てる会」の前身である、安らぎの家(パンダハウス)つくりを進める会が活動を始め、1990年代後半に日本で初めて県内外の寄付金を集めて完成した患者家族の滞在施設です。そして同施設完成後、福島県立医科大学との連携が始まりました。福島県立医科大学小児腫瘍内科教授の菊田敦先生は、パンダハウスの立ち上げから現在まで、パンダハウスのアドバイザーとして関わっています。パンダハウスのお話を踏まえながら、小児がん患者の社会的自立支援について、菊田先生にお話しいただきます。
パンダハウスは、病気の子どもとその家族が同じ場所で、やすらぎ、一緒の時間を過ごすための専用の宿泊施設です。
入院生活を送る子どもは、病院の面会時間だけでは十分に家族と触れ合うことが難しいでしょう。また、遠くから面会に来る家族も宿泊場所の問題などを抱えていることがあります。
パンダハウスは、病と闘う子どもとその家族を支えるために設立されました。
全国各地に病児看護のための宿泊施設は存在しています。しかし、パンダハウスができる以前の各地の宿泊施設は単にアパートを借り上げただけだったり、病院の部屋の一部を貸し出しているだけだったりと、とても病気と闘う患者さんとご家族が心からくつろげるような環境ではありませんでした。
そのような宿泊施設がメインである現状において、パンダハウスが最も大事にしているコンセプトは「やすらぎの場所」です。
上図はパンダハウスの外観です。部屋のなかに入ると、まるで自宅に帰ってきたかのような優しくてあたたかな色合いの内装、実家に近いインテリア、自然光の降り注ぐ室内、周辺に咲く緑の木々など、思わず誰もが「ほっとする」雰囲気が保たれています。
部屋の中ではお母さんが手料理を子どもにふるまったり、兄弟同士が集まって、一緒にくつろいだり遊んだりと、自由に過ごしていただくことができます。
パンダハウスを利用できる方は、患者さんとそのご家族です。パンダハウスはがん患者さんでなくても、何かしらの病と闘う患者さんとそのご家族を応援しています。
また、大人だけの使用も可能で、たとえば奥さんが入院中、ご主人がパンダハウスに宿泊して看病をしている光景もしばしばみられます。
私は1994年のパンダハウスの立ち上げからこの企画に関わってきました。それまでは患者家族の宿泊施設は各地にほとんどなく、遠方からいらした患者さんのご家族が帰れなくなってしまったり、狭い病室に家族が縮こまるようにして泊まったりしている姿をよく目にしたものです。病気に苦しむ患者さんとご家族が、狭い病室に集まって泊まっている――。
たまたまこの光景を目にした、パンダハウスを育てる会の前身である、安らぎの家(パンダハウス)つくりを進める会の代表の方が、家族が泊まれるような支援施設を作ってはどうかと提案をなさったのです。この提案が、パンダハウス設立のすべての始まりになりました。パンダハウスの維持や運営、スタッフの稼働は、すべて福島県内外のみなさんの寄付金とボランティアによって支えられています。営利目的でない完全な患者主体の施設であるからこそ、よりアットホームで温かな雰囲気を持つ施設に仕上がっていると感じています。
パンダハウスはボランティアによる施設ですが、スタッフ連携は抜群です。
パンダハウスでは、病棟看護師、スタッフ、家族、の三者の連携がシームレスに行われています。これは、全員が一体となって施設や患者さんのケアをしているからこそできることです。会の運営担当者や、利用者の方への対応の担当、相談担当者など正規雇用のスタッフもいれば、無償でお手伝いをしてくださっている方もいます。
パンダハウスの運営資金は年間約1,000万円と、決して安価ではありません。またパンダハウスの部屋を増床新設し、新しくスタッフの雇用も行うなど拡大を続けています(2017年春 増築棟完成、2018年春 既存棟の改築完成予定)。増築にはもちろん一定額以上の予算が必要となりますが、増築の資金も寄付で賄われました。維持費も同様に寄付金を使っています。
福島県内外を問わず、難病と闘う子どもとご家族を応援したいと願う方々の優しく温かな思いにより、パンダハウスは運営されているのです。
また、2017年5月より相談事業が始まり、専門の相談員に入院中や退院後の生活を相談できる体制を整えています。
私は、小児がんを専門としています。私が小児がんの治療において病気を治すことと同じくらい重視していることは、学校、就職など、いかにその子どもが退院後に自立した生活を送れるようにしてあげられるかということです。
白血病は重篤な疾患であり、どうしても治療を優先した生活になりがちです。しかしながら、治療ばかりの生活を送っていると、本来その時期に獲得すべき知識や経験を得ることができなくなってしまうおそれがあります。その結果、進級・進学、就職などが難しくなり、その子が歩みたいと願う将来の夢が叶えられないこともあるのです。
この状況をどうにか改善したいと思い、私の在籍する福島県立医科大学病院内に学校をつくりました。学校が付属している小児病院もあるのですが、この場合は併設がほとんどで、一般的には近隣の学校から先生が病院まで出張するかたちで、子どもに勉強を教えるスタイルをとっています。
一方で、福島県立医科大学病院の場合は、院内に支援学級があり、常勤の先生が18名在籍しています。常勤の先生しかいないため、先生の都合に合わせての学習でなく、より子どもの体調や学習のレベルに合わせた教育が可能となっています。
たとえば机に向かうことが難しい体調の子どもに対しても、先生がベッドサイドまで来てマンツーマンで指導をしたり、専用の学習室で教育を行ったりしています。このように、病気を抱える子どもたちが学習を続けやすいスタイルを保つ工夫をしているのです。
この体制によって、将来的な復学もしやすくなることが期待できますし、治療ばかりの生活から抜け出し、社会とのかかわりを持つことができます。
なお、当院の学校には分校長もおりますし、子どもたちがある程度の年齢を迎えていて、かつ外出できる程度の体調であれば修学旅行も実施します。これまでは1泊2日のディズニーランドや日帰りの仙台旅行に行きました。
私が病気の子どもの社会とのかかわりを重視する理由は、何といっても自立の促進にあります。
子どもの人生は長く、これから進学、就職、結婚とたくさんのライフイベントを経験することになるでしょう。長い人生のために、できるだけ健康な子と同じ環境で、同じように勉強して同じように生活できるスキルを身につけることは、生きていくうえで重要なことです。
そのために、パンダハウスの運営で家族とのかかわりを、院内学校で友達や先生とのかかわりや十分な学びを提供できればと考えています。
福島県立医科大学周産期間葉系幹細胞研究講座 教授/小児腫瘍内科 特任教授/小児・AYAがん長期支援センター 特任教授
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