院長インタビュー

高度急性期医療を担い、地域完結型医療をつくる日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院

高度急性期医療を担い、地域完結型医療をつくる日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院
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愛知県名古屋市は、230万を超える人口を擁する大都市です。そのなかで日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院は、852床の病床数を有し、名古屋西部の高度急性期医療を担っている病院です。医療設備や高度な診療技術を備えつつ、地域のみなさまから親しまれています。また、京都大学iPS研究所・CiRA(サイラ)の活動である細胞ストックプロジェクトと協力関係を結んだり、東海地区における造血幹細胞移植の推進役になるなど、多くの患者さんの役に立つことが期待される新しい医療技術の発展にも貢献しています。同院ではほかにどのような取り組みを行っているのか、院長である錦見尚道先生にお話を伺いました。

外観

当院は、1937年4月に日本赤十字社愛知県支部名古屋病院として100床で開設しました。開院以来、時代の流れや医療技術の向上とともに、病院建物の拡充や高度で先進的な医療技術を導入してきました。また、地域で安心して出産ができるよう助産師による正常分娩を取り扱うバースセンター棟や、がん患者さんやご家族のケアを図る独立家屋型の緩和ケアセンターを併設しています。

当院は名古屋市北西部に位置し、一日平均外来患者数約1,400名、年間の救急車搬送数は約7,700台(2022年度)と、愛知県でも有数の規模を誇ります。

バースセンター、総合周産期母子医療センター、小児医療センター、造血細胞移植センターでは、複数の診療科が連携し、患者さんに最適な診療ができるようにセンター制を導入しています。それ以外の神経疾患、循環器疾患、消化器疾患、呼吸器疾患などの診療でも専門科間の垣根を越えた医療を実践するシステムが整備されています。

当院の心臓血管外科は、年間約400例、開設以延べ6,000例以上の心臓および胸部大動脈手術を行っています。大動脈の壁が突然裂けてしまう急性大動脈解離は、一刻も早い手術が必要となるため当院は24時間当直体制で速やかに対応しており、他院から依頼される患者さんの手術も断りません。

2014年という、全国的にもかなり早い段階で導入した導入したハイブリッド手術室は、手術室とカテーテル室(レントゲン透視ができる部屋)を同じ場所に設置した施設です。この手術室の配備により、患者さんの容態の変化や不測の事態にも瞬時に対処できるようになりました。当院は、このハイブリッド手術室でしか実施できない「経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)」の認定施設です。これまで外科手術を受けるのが難しかったご高齢の患者さんや、合併症のある患者さんに対しても手術が実施できるようになりました。

また、MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery)と呼ばれる心臓の内視鏡手術を実施しています。患者さんの負担が大きな開胸手術ではなく、当院心臓血管外科の伊藤敏明先生が開発した3cmほどの3つの穴から内視鏡で心臓の手術をするもので、患者さんの負担を大幅に減らすことが可能です。

当院では、心臓血管外科、循環器内科、麻酔科、看護師、診療放射線技師などによるハートチームを構成し、患者さんに最適な治療を日々検討しています。これからも、一人でも多くの患者さんの命を救うため、ハートチームは日々努力しています。

当院の呼吸器外科では、常勤専門医師による最適で迅速な手術の実施により、肺がんをはじめとする呼吸器疾患の患者さんの外科診療に貢献してきました。2008年に地域がん診療連携拠点病院となり、肺がん診療により重点をおいてスタッフの充実を図りました。それ以後の総手術件数は5,700件、うち肺がん手術件数は3,000件を超え、2023年の手術件数は477件、うち肺がんは258件でした。毎週7~10件の手術を行える体制を構築しています。最近では低侵襲手術の一環としてダヴィンチXiを使用したロボット手術も積極的に行い、2019年から2023年までの5年間で470件の手術を施行しました。呼吸器外科だけではなく、呼吸器内科・放射線科・病理部で毎週カンファレンスを開催し、最適な治療を迅速に提供し、患者さんが早期に復帰できるよう協力しています。

迅速な治療を実施するとともに、治療に不安を覚える患者さんに対し、丁寧な説明をするようにしています。手術の実施を決めたら、これから実施する手術の様子がわかるような画像説明システムを使い、患者さんの不安を少しでも取り除くよう努力しています。

造血幹細胞移植は、これまで完治が難しいとされた白血病だけではなく、悪性リンパ腫多発性骨髄腫再生不良性貧血に対しても効果が認められている治療法です。

当院は造血幹細胞移植を必要とする患者さんに最適な状態で移植を受けられる医療施設と認められ、2013年に全国ではじめて造血幹細胞移植推進拠点病院として認定された3病院の1つです。当院の造血細胞移植センターは、無菌治療室21床を含む45床をベースとして、医師、看護師、造血細胞移植コーディネーター、歯科医師、薬剤師、理学療法士、臨床心理士、管理栄養士など多職種で構成する造血細胞移植チームを中核に運営しています。センターを率いているのは造血幹細胞移植の研究、治療のトップランナーの1人である血液内科の西田徹也先生で、白血病悪性リンパ腫などさまざまな疾患で造血幹細胞移植を実施しています。また当院は東海ブロックの造血幹細胞推進拠点病院として、東海地区の人材育成やコーディネート支援も進めています。

1977年に当院の第一例目の骨髄移植が実施されて以来、現在まで行われた移植数は約1,500件を超えます。当院の小児血液・腫瘍科は、小児白血病の新規患者数が愛知県屈指となっており、造血細胞移植件数も現在までに700例を超えます。現在は全国から治療のため長期入院される小児患者さんのご家族のため、当院から徒歩3分の場所に宿泊施設「めばえ」を用意し、ご家族が治療に専念できるようサポートしています。

当院は、心臓病・糖尿病などのある妊婦さんや、妊娠高血圧症候群切迫早産の妊婦さんなど、リスクの高い妊婦さんに適切な治療を行い、母子ともに元気に退院していただくことを目的として、1998年に愛知県ではじめて総合周産期母子医療センターを開設しました。同センターはNICU(新生児集中治療管理室)18床と、MFICU(母体・胎児集中治療管理室)9床を擁しています。

現在、愛知県内外より切迫早産や、多胎、重症妊娠高血圧症候群など、年間約250~300件の妊婦さんが母体搬送されています。分娩の際には新生児部門の医師と事前に情報を共有し、スムーズに出生後の新生児治療に移行できるように努めています。また産後大量出血など産後の救急疾患における搬送患者さんに対しては、当院の各診療科と連携しながら治療を進めています。

当院は、愛知県でもっとも歴史のある総合周産期母子医療センターとしての責務をまっとうし、患者さんの搬送依頼については原則全例応需を心がけています。地域における出産を守る最後の砦として、地域のみなさまからの信頼にお応えできるよう、全力を挙げて周産期医療に力を入れていきます。

当院の病理部には、5名の病理医が在籍しています。また、各診療科の医師と連絡を取り合い、正確で質の高い医療を提供できるように努力しています。病理医の診断に基づき、治療方針や予後が決定されるため、病理は医療のなかで大変重要な位置を占めています。当院の病理部は非常に高い実績をあげており、とくに骨髄移植や造血器疾患の病理診断では全国からの相談を多数受け入れています。

近年、分子標的薬の開発に伴い個別化医療の導入が進められてきています。当院では肺癌、乳癌などのコンパニオン診断を院内で施行することにより、迅速に結果報告を行い、早期の治療法選択に寄与できるよう努めております。また病理診断も形態診断と分子遺伝学知見に基づく統合診断の導入が進められており、脳腫瘍や子宮体癌などでは統合診断の体制を整えています。

当院は高度急性期病院であり、緊急性が高い重篤な病気にかかられた患者さんに高度な治療を施した後は、ご自宅の近くのかかりつけ医にみていただくというのが基本的な流れです。

一方で当院は地域がん診療連携拠点病院の指定を受けており、がん患者さんとそのご家族に対して専門的緩和医療も提供しています。がん患者さんのなかには症状の進行にともない痛みやストレス軽減するための緩和ケアが必要な方がおり、当院ではこれらの方のために独立家屋型の緩和ケアセンター棟を建てました。全室個室でどの病室からも広い庭園を眺めることができ、ベッドのまま病室から庭に出ることが可能です。

当院がもつ医療技術でなるべく痛みを取り除き、その方が望む場所に送り出し、人生を自分らしく生きていただきたいという思いで運営しており、地域の他の医療機関との連携のもと、患者さんに必要な緩和ケアを選択し、在宅での緩和ケアへの道筋を付ける構想の中核的な施設になると期待しています。 

当院は、地域のみなさまの健康な暮らしを守るため、名古屋市西部の高度急性期医療を担っています。しかし、当院だけでは急速に進む高齢化社会に必要な医療サービスのすべてをご提供することは困難です。そのため、これまで取り組んできた地域医療機関との連携の強化を目指しています。

たとえば2017年に始まった、高度急性期や、回復期、慢性期、在宅医療、介護などに範囲を拡大した連携を実現するための会議体「名古屋西部・海部東部地域包括ケア推進協議会」(尾陽包括ケアの会)で当院はその一翼を担っています。
この会では、COVID-19が広がっていた時期に、さまざまな施設に勤めている方に安全なPPE(防護服)の着脱方法を習得して戴く講習会を、名古屋市も一緒になって当院で行いました。
また名古屋市西部は一人暮らしの高齢者の方がとても多く、とくに在宅医療や介護の領域まで含めた医療の提供が求められています。「地域にとって、当院はどのような役割を担うべきか」という視点を持ち、高度で質の高い医療を継続的に提供していく仕組みを、地域全体で考えてまいります。

当院には、医師が307名、看護師(職)992名、そのほかの職員も含めると合計1,700名を超えるスタッフが働いています。どの診療科においても、ひとつの科だけでは医療は成り立ちません。医師や看護師、薬剤師、管理栄養士、放射線技師や理学療法士など、さまざまな分野のプロフェッショナルがそれぞれの専門性をいかし、患者さんにとって最適な医療を日々検討しています。COVID-19の感染が広がった時期は、直接コミュニケーションを取る機会が激減しましたが、現在は会食なども復活しつつあり、以前のように仲良いなかにも気付いたことを伝え合う雰囲気が多職種の職員間で戻ってきており、活気ある病院になっています。

錦見先生

地域のみなさまへ

 我々は地域の中核病院として、皆さまのかかりつけ医療施設の先生からのご紹介で当院を受診していただき、身体の不具合の原因を調べ、必要な治療を行います。退院時には、最終診断した病名や当院での治療内容をかかりつけの先生に報告して連携を取り、必要に応じて定期的に診させていただきます。

今まで通り、地域の皆さまに急性期医療を提供し続けて、地域の医療機関が頼れる砦としての“中村日赤”として皆さんに貢献します。

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