南砺市民病院は富山県南砺市で地域医療の提供や若手医師の育成に力を入れています。また、臨床倫理委員会をはじめ、医療安全や感染症対策に院長自ら舵を取り、院内での体制を整え、患者さんによりよい医療を提供するために多くの取り組みを行っています。同院について、南砺市民病院 院長 清水幸裕先生にお話を伺いました。
当院のつよみといえる特徴的な取り組みは3つあります。1つ目は総合的に診療ができる医師の育成。2つ目は臨床倫理委員会での倫理検討。3つ目に地域包括ケアシステムへの積極的な取り組みです。
地域包括ケアシステムの構築が叫ばれている中、患者さんを全体的に診療していくことや、訪問看護ステーションや訪問診療との連携の必要性が増してきています。
さらに、地域包括ケアシステムを構築していくうえでは、臨床倫理の考え方が重要になってくると考えています。この治療は患者さんにとって本当によりよいものなのか、患者さんの希望にそった医療を提供できているのかなど、客観的な視点で考え、さまざまな可能性をみつけていくことで医師としての経験も積み重なっていきます。
3つの柱を支え、地域に貢献していくためには院内の意識改革はもちろん、さまざまな部門でサポートしていかなくてはなりません。たとえば、患者さんの入退院の手続きや地域の医療機関から紹介で受診した患者さんの予約サポート、地域と連携をとる部門などです。
当院の地域医療連携科が地域との連携のためのサポートを担い、患者さんによりよい医療を受けてもらえるように活動しています。
地域医療を提供するかたわら、若手医師の育成に力を入れています。近年は医師の専門性が求められるケースが増えているように感じますが、地域では、患者さんを総合的に診療する力が求められます。
総合的な診療を任される医師は、患者さんを最初に診療し、適切な診療科での受診につなげるファーストタッチを担います。そのため、患者さんの病状に対してどの診療科が適切なのか、合併症はないのかなどを総合的に判断する力が必要です。
当院は、総合的に診療ができる医師も、臓器別診療を提供している医師も、どちらもひとりのスペシャリストとして尊敬しています。それぞれの医師がスペシャリストですから、互いに尊重し、補い合い、そして高めあう雰囲気があります。
そういった雰囲気のある病院ですので、意欲のある若手医師が当院に研修にきてくれています。若手医師がいることで、病院全体に活気がわき、先輩医師たちも若手医師に自分たちの知識や手技をていねいに教えられるように改めて勉強しています。先輩医師の更なる自己研鑽にもつながり、互いが刺激しあう環境が作られていると感じています。
若手医師には、ときには厳しく指導することもあります。しかし、先輩医師たちは若手医師へ情熱を持って指導していますから、将来的には、先輩医師に認められ、地域に求められる医師になってほしいと思います。
また、総合的に診療ができる医師の育成についての具体的な取り組みは、富山大学と協力して医師育成プログラムを作り、実施していることです。研修プログラムとして始動したのはここ数年のことですが、今後、南砺市民病院出身の医師が総合的な診療もできる医師として、地域医療を担っていくことを期待しています。
総合的な診療をするためには、患者さんの持っている病気だけでなく合併症や、生活背景を考慮して診療する必要があります。患者さんの病状だけを診るのではなく、その患者さんの生活を支える、という視点が必要です。
しかし、生活を考慮し総合的に診療をしていても、中には判断に困る状況もあります。そういったときには臓器別診療を行ってきた医師にも診療に加わってもらい、生活面や医学的な観点から患者さんにとってより良い医療を探します。
このような総合的な診療と臓器別診療の協力が当院の特徴です。臓器別診療を行ってきた医師も、総合的に診療ができる医師と同じ視点から患者さんの診療にあたるマインドを持つことになっていくことを期待しています。
提供している医療が本当に患者さんにとってよりよいものなのか、自問自答している医師は多いと思います。私もその中の一人です。そんなときに臨床倫理という学問に出会いました。臨床倫理を学んでいくうちに、この考え方を院内に取り入れ、スタッフと意識を共有していくことが重要だと気付きました。
臨床倫理とは、患者さんにとってよりよい医療の提供をするうえで、その医療行為が倫理的な配慮のもと行われているか客観的に考え、よりよい医療提供につなげていくひとつの学問です。
医療機関での治療だけでなく、訪問看護や訪問診療などの在宅医療にも関わる事柄だと強く感じています。そのため、院内でも臨床倫理について考える機会や、考え方を身に着けるために臨床倫理委員会を立ち上げました。
検討している治療方針が患者さんにとってよりよいものなのか、思い悩んだら倫理コンサルテーションで話し合います。ここでは、別の角度から考えられる治療方針や患者さんとのコミュニケーションの取り方を助言します。たとえば、高齢の患者さんのご家族がさまざまな理由から介護が難しい場合や、終末期の患者さんへの治療はするべきなのかなど、医師として患者さんやそのご家族への対応に迷うときがあります。患者さんの意志を尊重するべきなのか、その一方でご家族への負担を考慮した医療の提供はできないのか、よりよい選択をすることがひとりでは難しいこともあります。
このように臨床倫理の世界は深く、勉強すればするほどさまざまな視点から考えることができるようになると実感しています。地域包括ケアシステムの構築が叫ばれ、在宅医療を受けている患者さんも増加している中、臨床倫理の考え方を地域に発信いきたいと強く思います。
南砺市も地域住民の高齢化にともない、受診する患者さんの多くは高齢者になりました。高齢の患者さんでは、加齢による体力の低下などから外科的な治療が適用できない場合もあり、内科的な治療が増えてきています。
そのため、当院でも内科診療に力を入れています。特に、誤嚥性肺炎や化学療法を受けている患者さんに現れることのある肺への合併症などは呼吸器内科で治療します。また、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの1か月以上咳が続く病気に対しての治療も実施しています。
消化器内科では消化管や肝胆膵の病気の治療を実施しています。たとえば、早期胃がんに対する内視鏡を用いた治療や肝炎治療を得意としています。また、肝がんのカテーテル治療やラジオ波焼灼療法も実施し、患者さんの体に負担の少ない医療の提供に努めています。
特に肝がんに関してはカテーテル治療とラジオ波焼灼療法を、患者さんの病状によって選択し、実施することができます。がんの進行度や腫瘍の大きさによってはカテーテル治療が適していることがありますし、ラジオ波焼灼療法のほうが適していることもあります。患者さんの病状や体力、お気持ちなどを考慮して治療にあたっています。
南砺市民病院は、心のある、あたたかい医療を提供し地域の皆さまに信頼される病院を目指しています。そのためには、若手医師の育成や臨床倫理、医療安全に力を入れていく必要があると考えています。今後の地域医療を担う若手医師の育成は病院全体でサポートし、総合的に診療ができる医師として地域に求められるような医師の育成に尽力してまいります。
また、こども医療センターを新たに設置しました。小児の診療体制を整えることは地域包括ケアシステムの構築にもつながると思います。地域包括ケアシステムは、地域で医療や介護、住宅などが包括的にサポートできる体制のことです。私はこのサポートの中に地域の子どもに対するサポートもあるべきだと考えています。
子どもから高齢者まで、医療提供という観点から地域に貢献するために今後も研鑽を積んでまいります。
南砺市民病院 病院長
南砺市民病院 病院長
日本内科学会 認定内科医・内科指導医日本消化器病学会 消化器病専門医・消化器病指導医日本肝臓学会 肝臓専門医・肝臓指導医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医日本プライマリ・ケア連合学会 プライマリ・ケア認定医・指導医
1982年より消化器内科医としてキャリアを始める。富山医科薬科大学、京都桂病院で研修し、米国ピッツバーグ癌研究所および米国スクリプス研究所での2度の留学で肝疾患の免疫学的研究を行い、基礎研究から学んだ肝疾患の病態に関する知識をその後の肝疾患診療に生かしている。急性肝不全、肝移植、肝炎、薬物性肝障害、自己免疫性肝疾患、肝細胞癌など、すべての肝疾患に対する診療を行ってきており、院長である現在も第一線で肝疾患だけでなく消化器全般さらにはプライマリケア診療に携わっている。
清水 幸裕 先生の所属医療機関
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現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。