院長インタビュー

ブランディング戦略によりポストアキュートの担い手としての活路を見出した大野浦病院

ブランディング戦略によりポストアキュートの担い手としての活路を見出した大野浦病院
曽根 喬 先生

医療法人社団明和会 大野浦病院 理事長・院長

曽根 喬 先生

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この記事の最終更新は2018年11月26日です。

広島県にある大野浦病院は、医療をつうじて地域社会に貢献したいという思いを持った久保明氏と、精神科・心療内科の診療を続けてこられた現理事長の曽根喬先生の出会いにより誕生した療養型病院です。

2018年10月現在は、曽根喬先生と現会長である久保隆政氏が医療、経営面において互いの専門性をいかし、地域医療への貢献と医療の提供を行っております。

食べるための支援を同院の特徴としてブランディングした結果、食事・口腔ケアとリハビリテーションが得意な病院として地域に親しまれるようになりました。

同院の来歴とターニングポイント、診療体制の特徴、職員教育の秘訣について、曽根先生に詳しくお話しいただきました。

病院外観 大野浦病院よりご提供

当院は、医療をつうじて地域社会に貢献したいと考えていた明和会初代会長の久保明氏とその思いに共感し集った多くの方の支援をもとに、1994年に開院しました。

2000年には、指定介護療養型医療施設への転換と医療法人社団明和会の設立、2003年5月には、認知症対応型共同生活介護「ラ・メール大野」を開設しました。2006年には、地域貢献をさらに促進するため理学療法士・言語聴覚士による訪問リハビリと訪問看護を開始しました。

ラ・メール大野の外観 大野浦病院よりご提供

特にここ数年は高齢化などにより医療ニーズが変化してきたことを受けて、2015年12月にサービス付き高齢者向け住宅「さくらす大野」を開設。季節ごとの行事や犬を飼い入居者と触れ合う時間をもうけるなど楽しんでいただくためのさまざまな取組みを実施しています。2016年9月にはより地域に開かれた法人を目標に訪問看護ステーション「さくら」を開設し訪問看護を担う看護師を増員しました。2018年3月には介護療養病床(31床)を医療療養病床へ転換し、地域の医療ニーズに対応できるよう体制を充実させました。

さくらす大野の外観 大野浦病院よりご提供

こうした変遷を経て、明和会では、医療事業(病院)、介護事業(在宅系サービス・施設系サービス)、地域に向けた医療介護予防事業と幅広い活動を行っております。

病院運営を進めるうえで、当院ができること・得意なことを打ち出したブランディングが重要になると考えて、地域の医療体制の特徴や当院の強みなどの再確認を行いました。

当院のある廿日市および周辺地域には急性期医療を手がける医療機関が複数あり、救急医療に代表されるような一刻を争う患者さんを受け入れて治療する体制は、比較的充実しています。

そのため当院は、急性期機能ではなく、病状などが急変しやすい時期を脱したものの、医療や介護などの手助けが依然必要なポストアキュート期の患者さんを受け入れて治療する病院として活躍する道を選びました。

当院では、医療、看護、介護、リハビリを単に提供するのみではなく、患者さんとご家族の心も含めた心身のケアに力を入れています。

高齢者やポストアキュート期の患者さんは、身体機能の低下などにより低栄養状態に陥りやすく、また、口腔内環境悪化から歯周病を発症するケースも多く、食べる力が失われやすい状態といえます。そのような方々に適切なケアを行い、少しでも口から食べられることができるようになっていただくことを病院の目標とし、全職員で取り組むようにしました。目標達成のために、食事ケアと口腔ケアに詳しい言語聴覚士や歯科衛生士を増員し、医師、看護師、介護士、リハビリ職員など全職種で食事・口腔ケアを実施し、口から食べる力や身体機能、栄養状態の改善とそれに伴うQOL(生活の質)の向上を目指しています。

口から食べる力をつけるには食事の時間以外の過ごし方も重要です。例えば、寝たきりの患者さんであっても、健康管理を行ったうえで、ベッドや車いすでの姿勢づくり・離床活動などのケアを継続して行うことで、食べる力を取り戻す基礎づくりになります。このような取り組みを日々継続した結果、実際に自分の口で食事ができ、話せるようになる姿を目の当たりにすることができ、私たちの行った食事ケア、口腔ケアが患者さんのQOL向上に役立つことを実感しました。この経験をとおして、職員のモチベーションがさらに高まり積極的に食事ケアや口腔ケアに取り組むようになりました。ポストアキュート期に重視される医療を手がける病院というスタンスを明確にし、病院全体の取り組みとして食事ケアと口腔ケアをいち早く導入したことによるブランディングの成功は、当院の歴史のなかでも特に大きな転機だったといえるでしょう。

スタッフステーション 大野浦病院よりご提供

リハビリは身体機能の回復のみにとどまらず、その人らしさの回復や社会復帰などさまざまな意味を持ち合わせており、目標は患者さんによって異なります。

当院では、医師、看護師、介護士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等が患者さんの状態を把握し専門用語を極力使わず患者さんやご家族と十分に話し合ったうえで目標を設定、リハビリをご提案します。

当院が行うリハビリには、入院、外来患者さんに行うリハビリと利用者が通ってこられる通所リハビリと職員が患者さんのもとに出向いて行う訪問リハビリがあります。

カープごはん 大野浦病院よりご提供

食事ケアと口腔ケアは、両方とも口の機能改善に関わるケアで、これらを重点的に実施することで全身状態の改善を目指します。

食事ケアとは、食べることに関する訓練の総称です。歳を重ねると、活動量や食への関心の低下などから食事量が減少するため、タンパク質やミネラル不足など栄養バランスが乱れることがあります。また、ものを噛んだり飲み込んだりする機能が衰えて嚥下障害などを招くことも多いです。

食事ケアでは、食事によって五感を刺激することで食べる喜びを再認識してもらうと共に、噛むことで脳や筋肉への刺激を促したりします。また、栄養指導や視覚的にも食欲をそそるような献立の紹介なども行っています。

口腔ケアとは、歯や歯肉、舌などの口腔内の汚れを取り除いてきれいな状態を保つためのケアです。口腔内が不衛生だと、虫歯や歯周病になるだけでなく、心筋梗塞など心臓の病気を起こしやすくなり、雑菌が気管支をつうじて肺に到達して肺炎などを発症することもあります。特に、高齢者や病気による後遺症などを有している方は自力でケアを行うことが難しい方も多く、口腔内環境悪化から疾患発症といった負のスパイラルを起こしがちです。

そのため、ブラッシング指導や歯石除去のほか、唾液分泌量が低下していれば必要に応じて唾液腺マッサージなど一連のケアを行って口の中をきれいにすることで、全身状態の悪化を防ぎます。

ご自宅など、できるだけ住み慣れた環境での生活を希望される患者さんのもとを職員が訪問して、各種医療介護サービスを提供することも可能です。訪問事業には、医師が診療を行う訪問診療、看護師による療養上のサポートなどを行う訪問看護、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が訓練などを行う訪問リハビリがあります。

病気や患者さんの状態などによりご提案できるサービスが変わります。詳しくは当院までご相談ください。

「病院は病気以外のときには行きにくい場所」というイメージを払拭してより身近な存在として「健康について相談する場所」となるように、廿日市市と提携して地域公開講座を定期開催し、各種ケアの重要性などを中心にお伝えしています。

ほかにも、地域のイベントに参加して子どもさん向けに医師・看護師体験を実施、また、中学生の職場体験を受け入れるなど、若い人にも医療への興味を持ってもらえるような機会を提供しています。

ここから先は、病院経営とマネジメントの観点からお話をさせていただきます。

職員向けに行う入職時のオリエンテーションで「医療とはサービス業です。目の前の患者さんとご家族の方に対する思いやりの心を忘れないでください」と、全ての職員にお願いしています。

どの仕事にも共通していえることですが、手を抜こうと思えばいくらでも抜けるし、反対にとことんやりきろうと思えば、今度は終わりなき道を歩むことになります。

思いやりの心は「自分はこの患者さんのためにできることは何だろう。今の自分に足りないことは何だろう」と考えるきっかけをもたらし、ここで得た気づきは、患者さんへの対応、やる気、情熱の維持だけでなく、ひいては技術の向上にもつながります。

また当院では病院全体でのレベル向上を図るため、食事ケアや口腔ケアのほか、接遇、認知症の方への対応などで独自のマスター制度を導入しています。

医療は現場の仕事、病院経営はトップの仕事と思われがちですが、当院では経営や金銭面などシビアな情報もあえて職員と共有しています。

これは、思いやりの心をきっかけに自分にできることを考えてもらうように、職員一人ひとりに病院の置かれている状況を客観的に把握してもらい、多少なりとも経営を意識してもらうための仕掛けでもあります。

それぞれの業務に積極的に取り組んでもらうためには、組織側が一方的にお願いばかりするのでなく、職員のモチベーション維持への配慮も非常に重要です。

当院では能力や希望に応じた配置を進めて、年功序列からやる気や実力を重視した人材登用へ変え、これまで看護の第一線で働いてきた職員を病院全体のマネジメントに抜擢するなど、やる気を引き出すための改革を行いました。

ほかにも、先にご紹介したマスター制度に合格した職員に対して手当をつけています。こうした技術は普段の仕事にも役立つものが多いのですが、毎月の給与に反映させることで職員のモチベーション維持にもつなげました。

病院のブランディングは、経営における重要な要素の1つであると同時に、病院の強みやできることをより多くの方に知っていただくためのツールでもあると考えています。

当院は、1人でも多くの患者さんに医療を提供するため、自身の強みや特徴を全面に打ち出したブランディングを行い、職員の意思を尊重したマネジメントを取り入れ、経営陣のみでなく全職員で病院のことを考え行動する仕組みづくりを進めました。その結果、リハビリや各種ケアに強いポストアキュート期の医療を担う病院として、地域の医療機関や住民の皆さんから信頼を得ることができました。

全国的に少子高齢化が進行しています。特に当院のある廿日市市と周辺地域はその勢いが早く、医療のみでなく介護、福祉など多方面からのサービス充実の必要性を痛感しています。

当院は今後も、ブランディングを大切にしつつ自分達には何ができるのか全職員で考えることで、1人でも多くの患者さんのQOL向上に貢献していきます。

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    曽根 喬 先生

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