2019年3月1日〜3月3日、国立京都国際会館・グランドプリンスホテル京都にて第46回日本集中治療医学会学術集会が開催されました。京都府では5年ぶり2回目の開催となる本学術集会では、医師や看護師、臨床工学技士、理学療法士、作業療法士など、さまざまな職種の医療従事者が集い、盛況のうちに終了しました。
第46回日本集中治療医学会学術集会会長である橋本悟先生(京都府立医科大学附属病院集中治療部)に、日本集中治療医学会や学術集会にかける思いをお伺いしました。
第46回日本集中治療医学会学術集会を終えた今になって、学術集会当日までの日々を振り返ると、本当にあっという間でした。「今年の学術集会に参加してよかった」と思っていただけるようにしたい一心で準備に勤しんだ毎日は瞬く間に過ぎ去り、気がつけば、本学術集会当日を迎えていました。
開催のためのあらゆる計画と準備、会長講演を終えてしまえば、本学術集会における私個人の役目はほとんど終わったようなものでした。会長講演後は、参加者の方々と共に、大いに学術集会を盛り上げることに尽力しました。
本学術集会には、集中治療の次世代を担う方々に、集中治療の誕生と歴史、そしてこれからの展望を伝えていきたいという思いを込めました。集中治療の歴史を語るにあたり、まずは私自身のことについて少しだけお話ししましょう。
これまでに、私は2つの集中治療室(ICU:Intensive Care Unit)の設立に関与しました。ひとつ目は京都府立医科大学小児疾患研究施設における小児集中治療室開設のサポート、ふたつ目は京都府立医科大学附属病院における成人対象の集中治療室の新規設計・運営です。
私が1981年に京都府立医科大学医学部を卒業した当時は、京都府立医科大学附属病院にはまだ集中治療室が存在しませんでした。そのような環境であったからこそ、若手医師である私が集中治療室の立ち上げという貴重な機会に携わることができ、また重要な役割を担い、全うすることができたのだと思います。さらに、今こうして集中治療医学会学術集会会長を任せていただけるのも、このご縁があってこそのことだと感じています。非常に幸運でした。ただ、その当時は、まさかその後の医師人生のほとんどを集中治療室内で送ることになるとは思ってもいませんでした。
集中治療室では、「大きなことはできないけれど、小さなことからコツコツと」を信条に、地道に医療に取り組み続けてきました。この間に、ARDS診療ガイドラインやJIPAD(重症患者レジストリ)の作成などにも関わりました。
集中治療に取り組む中で、医師、看護師、臨床工学技士、理学療法士、薬剤師など、職種を問わずたくさんの仲間と共に仕事ができたことは、私の財産です。また、自分自身が集中治療室に長くいたこの30年間で、集中治療の中身は、確実に進歩を遂げていると実感しています。
会長講演でも、集中治療医としての人生についてお話ししましたが、私の例を通じてこれまで集中治療医学がどのように歩んできたのか、これからどのような発展が求められるのかが、次世代を担う医師や医療従事者に伝われば嬉しいです。
集中治療は、私が集中治療室を開設した当時に比べて、飛躍的に進歩を遂げていると感じています。次世代の集中治療の担い手に、集中治療をより一層発展させていただくためのバトンを渡したいという思いから、今回の「For the next generation 次世代のために」というテーマを決定しました。
将来的には、集中治療医学をひとつの独立した学問として確立させ、集中治療科を標榜可能な診療科として築き上げたいと考えています。私の世代では、この目標は達成できませんでした。集中治療に携わる次世代の方に、ぜひ実現していただきたいと考えています。これからの集中治療を大きく発展させるであろう次世代への期待を込めて、「For the next generation 次世代のために」と名付けさせていただきました。
日本集中治療医学会では、集中治療に携わる医師の知識・技術の向上のため、集中治療専門医・研修施設の認定、セミナーや学術集会の開催、ガイドライン・雑誌の刊行、データベース構築、臨床治験などを通じて集中治療の現場を支えています。このほか、看護師向けの教育セミナーや臨床工学技士向けの研修なども実施しています。
重症な病気で搬送されてきた患者さんを救命し回復させるには、これまでのデータに基づいて的確に状況を判断し、多職種連携で診療・処置を行うチーム医療が不可欠です。また、集中治療のさらなる発展のためには、集中治療を行う医師の育成が重要になります。集中治療を行う若手医師を育成するために、医学生向けの集中治療の教科書作成など、これまで集中治療の発展に関わってきた先生方がさまざまな計画を立てている段階です。
今回の学術集会にとどまらず、2020年以降も集中治療および日本集中治療医学会学術集会は発展を続けていくでしょう。もちろん、私も引き続き力を尽くしていきたいと思っています。
また、2019年3月7日から10日にかけて、集中治療医にとってもうひとつの重要なセミナーである「Datathon-Japan」を開催しました。日本国内で第2回の開催となる今回のDatathon-Japanでは、世代・国籍を問わず専門家たちが交流し、集中治療の現場を発展させるためのネットワークづくりにも貢献できたのではないかと考えています。
Datathon-Japanでは、医師、データサイエンティスト、統計学者、エンジニアなどがチームとなり、重症患者に関するビッグデータの分析、その分析に基づいた議論を行います。分析と臨床質問および議論を通じて、集中治療室(ICU)における諸問題や課題を見つけ出し、解決法を見出すことが目的です。
現在DatathonはSociety of Critical Care Medicine, Europe Society of Intensive Care Medicineなどとも提携しており世界各国で開催されています。日本でも今後開催を継続していきたいと考えておりますのでぜひご協力いただければと存じます。
今回の学術集会では、医師はもちろん、看護師、理学療法士、薬剤師の方々にも多くお越しいただきました。臨床工学技士や看護師向けの演題も多く、幅広い職種の方々に楽しんでいただけたのであれば、これほど喜ばしいことはありません。
本学術集会に参加することで、医師の価値観に頼らない、多職種からみた集中治療を学ぶことができるのではないかと考えています。
今回は日本救急医学会、日本循環器学会、日本リハビリテーション学会など6つの学会との合同シンポジウム、パネルディスカッションを企画しました。2020年に名古屋で開催予定の第47回日本集中治療医学会学術集会でも、次期会長の西田修先生はますますその輪を広げてくださると思います。
今後、日本集中治療医学会学術集会はさらに充実した学会になっていくでしょう。次世代の集中治療の担い手となる皆さんには、毎年の学術集会の変化と、集中治療の発展を見届けていただきたいと考えます。そして学術集会の中で学んだことを、集中治療の現場で存分に生かしていただければ幸いです。
第46回日本集中治療医学会学術集会については下記の記事も併せてご覧ください。
日本集中治療医学会学術集会レポート「会長講演と優秀論文賞講演・表彰式」
日本集中治療医学会広報委員会企画「臨床工学技士座談会―多職種連携としての学術集会のあり方」
日本集中治療医学会広報委員会企画「初めての学術集会参加―若手看護師の場合」、「密着!学術集会初参加の若手看護師の1日―受付から聴講まで」
橋本 悟 先生の所属医療機関
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