2019年3月1日〜3月3日、国立京都国際会館・グランドプリンスホテル京都にて、第46回日本集中治療医学会学術集会が開催されました。本学術集会は、初日朝、メインホールで行われた橋本悟本学術集会会長(京都府立医科大学附属病院集中治療部)による会長講演で幕を開けました。会長講演に続いて、第6会場では、本学術集会における優秀論文賞講演および表彰式が開催されました。今回は、会長講演ならびに優秀論文賞表彰式の様子をレポートします。
私はこれまでに、京都府立医科大学附属病院の2つの集中治療室(ICU)設立に関わってきました。
私自身が京都府立医科大学医学部を卒業した当時には、同大学附属病院内には集中治療室が存在しない状況でした。そのように、集中治療という分野が発展途上にある環境だったからこそ、2つの集中治療室の開設に携われたのだと考えています。
京都府立医科大学附属病院集中治療部では、医師や看護師からなる集中治療チームが、成人ICUと小児ICUの2つのユニットを管理しています。
集中治療室開設当初は、予定手術後に入室される患者さんがほとんどでしたが、最近では予定手術以外の救急入室や重症患者の受け入れも増えてきています。
当院集中治療室は、大学病院としては何の変哲もない一般的な集中治療室ですが、西側には京都御苑があり、東側には鴨川が流れていて、とても穏やかな環境です。
集中治療室内のスタッフ同士はとても仲がよく、私は今でも皆さんから「悟先生」とファーストネームで呼ばれています。集中治療室では、医師を中心にチームが形成されていますが、チームの中で医師が一番偉い存在というわけではありません。医師はあくまで、さまざまな立場・職種・役割の方々から出る多様な意見をまとめ上げて、全体を調整する役だと考えています。
ここで、1980年代における成人ICUの状況を振り返ってみたいと思います。
当時は、集中治療室に入室するにあたりスリッパとガウンの着用が義務付けられていました。さらに、滅菌精製水を用いた手洗いや消毒薬を用いた床清掃、落下細菌検査、術後の抗菌薬投与など、徹底的に菌を排除するための処置や作業が多数行われていました。その一方で、手袋を使用せずに患者さんに処置を施している面もありました。患者さんに対する治療の説明も不十分だったと感じていますし、患者さんがご家族と面会する時間にも厳しい制限がありました。
もちろん、現在ではこのようなことはありませんが、当時の集中治療室は、現在では考えにくいような状況だったのです。
集中治療室は、一般的に「クローズドICU」「セミクローズドICU」「オープンICU」の3種類に分類されます。
クローズドICUとは、専任の集中治療医を中心にして、他科連携・多職種連携による集学的治療を行うタイプの集中治療室です。これに対してオープンICUとは、集中治療医が診療に関与せず、各診療科の主治医を中心に患者さんを診るタイプのICUを指します。
集中治療では、特定の人物の指示で治療方針を定めるのではなく、さまざまな診療科・職種の専門家の知恵と技術を結集させる体制が理想的だと考えています。
さまざまな診療科・職種の方々からの情報共有を欠かさないために、私はいつも携帯電話を2台持ち歩いて、いつ・どの時間でも・どの診療科にも連絡を取り合えるように心がけています。
『小児ICUマニュアル』の執筆・監修にも携わりました。臓器の構造から薬剤の投与濃度、シリンジポンプを設置する位置の注意点に至るまで、小児集中治療において必要とされる知識がまとめられています。
『小児ICUマニュアル』は、2019年3月現在、第7版まで発刊されています。初版発刊当時から現在に至るまで、質・量ともに著しい発展を遂げ、改訂第7版では、現在の集中治療室の現場に沿った内容へと情報がアップデートされています。
『ARDS*診療ガイドライン』は、一般社団法人日本呼吸器学会、一般社団法人日本呼吸療法医学会、そして一般社団法人日本集中治療医学会の3学会合同診療ガイドラインです。私は本ガイドライン作成委員会の委員長を務めました。
集中治療医、呼吸器内科医、救急医、麻酔科医、放射線科医、病理医、総合診療医などの幅広い診療科の医師や、看護師、薬剤師、臨床工学技士、理学療法士といった医療従事者など、さまざまな立場の方の意見を集め、議論を重ねたことによって完成しました。
ARDS:急性呼吸促迫症候群。敗血症や肺炎、誤嚥などが原因で肺胞や毛細血管の細胞がダメージを受けて肺水腫が起こり、呼吸不全をきたす。
最後に、三宅廉先生という小児科医についてご紹介します。
三宅先生は、1956年1月に神戸パルモア病院を開院された小児科医です。また、周産期医療を開拓した医師の1人でもあります。
当時、小児科は新生児医療の対象外とされており、小児科では生まれたばかりの赤ちゃんを診療することができませんでした。そのため、生後間もなく亡くなってしまう赤ちゃんは少なくありませんでした。この状況の中、赤ちゃんを救いたいという思いでパルモア病院を開院し、小児科と産婦人科が連携して新生児医療を行う体制を作り上げました。三宅先生は、集中治療室が誕生する前からチーム医療を実践した、チーム医療の先駆者ともいうべき医師です。
私は1956年6月15日、パルモア病院開設の5か月後に神戸で生まれました。母親から聞いた話ですが、頭からではなく手から出てきてしまい、出産直後は仮死状態だったそうです。そして仮死状態の私は、パルモア病院で集中治療を受けたのだといいます。当時のカルテはもう残っていないそうですが、私自身もパルモア病院でのチーム医療で命を助けていただいたということになります。
多くの新生児の命を救った三宅先生を、これからの集中治療を担う皆さんに知っておいていただきたいと考えます。
このようにして、橋本悟先生ご自身のご体験と集中治療への思いが語られた会長講演「For the next generation 次世代のために」は終了しました。
会長講演終了後、第6会場において「優秀論文賞講演/Journal of Intensive Care Reviewer of the Year 表彰式」が行われました。
今回は、以下の4部門で受賞論文が選出されました。
受賞論文の筆頭著者の方々には、日本集中治療医学会 西村匡司理事長より、表彰状と記念品が贈呈されました。
“Decrease in histidine-rich glycoprotein as a novel biomarker to predict sepsis among systemic inflammatory response syndrome” Crit Care Med 2018;46:570-6.
研究代表者:黒田 浩佐先生、他5名(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科麻酔・蘇生学)
“Effect of administration of ramelteon, a melatonin receptor agonist, on the duration of stay in the ICU:a single-center randomized placebo-controlled trial” Crit Care Med 2018;46:1099-1105.
研究代表者:錦見 満暁先生、他8名(名古屋大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学分野)
“心臓外科術後にICU-acquired deliriumを発症した患者の術前身体機能特性” 日集中医誌 2017;24:619-24.
研究代表者:土川 洋平先生、他4名(名古屋大学医学部附属病院リハビリテーション部)
“Treatment of patients with sepsis in a closed intensive care unit is associated with improved survival: a nationwide observational study in Japan” J Intensive Care 2018;6:57.
研究代表者:小倉 崇以先生、他5名(前橋赤十字病院高度救命救急センター集中治療科・救急科)
続けて、Journal of Intensive Care Reviewer of the year 2018でEditorial Board Member(編集協力委員)1位に輝いた鈴木武志先生と、一般査読者1位の藤田智先生が表彰されました。
授賞式の後、西村理事長から、今回の優秀論文賞授賞について総評がありました。
西村匡司理事長:
今年も理事長として審査をさせていただきましたが、“Critical Care Medicine”を中心とした著名な海外の雑誌に当学会から多くの論文が掲載されている印象を受けました。いずれの論文も素晴らしく、欧文雑誌・邦文雑誌ともに、今年度も当学会の方々による論文が多数掲載されました。また、論文投稿に伴い、査読者の方には非常に的確で丁寧な査読をしていただきました。
当学会の先生方には、これからも積極的に欧文雑誌・邦文雑誌へ論文を投稿していただきたいと考えています。ぜひ、今後ともよろしくお願いいたします。
西村理事長による総評の後、各研究グループの研究結果について、代表者による発表が行われました。
受賞者によるすべての発表が終了し、「優秀論文賞講演/Journal of Intensive Care Reviewer of the Year 表彰式」は閉式しました。
第46回日本集中治療医学会学術集会については下記の記事も併せてご覧ください。
会長インタビュー「第46回日本集中治療医学会学術集会を終えて」
日本集中治療医学会広報委員会企画「臨床工学技士座談会―多職種連携としての学術集会のあり方」
日本集中治療医学会広報委員会企画「初めての学術集会参加―若手看護師の場合」、「密着!学術集会初参加の若手看護師の1日―受付から聴講まで」
橋本 悟 先生の所属医療機関
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