2019年2月23日(土)、横浜市立大学 福浦キャンパスにて、横浜市立大学による「2018年度 YCU病院経営マネジメントプログラム」の最終発表会が開催されました。本プログラムは、病院経営に携わる方・興味を持たれている方を対象に、医療経営学や政策学などの理解と考察のトレーニングを行うことを目的として開設されたプログラムです。
最終発表会では、受講者たちが1年間かけて研究した各自のテーマの結果や課題などを発表しました。各発表の後は全員でディスカッションを行い、新たな課題を見出した受講者もいらっしゃいました。
本記事では、プログラムの最終発表会の様子(前編)をお伝えします。
本プログラムの後編はこちらをご覧ください。
本プログラムの最終発表会に参加された受講者のインタビューは、こちらをご覧ください。
はじめに、横浜市立市民病院 臨床工学部部門長 相嶋一登さんによる発表が行われました。
相嶋さん:
現在の医療には、チーム医療が必要不可欠です。チーム医療は多職種によって構成されますが、医業収益は診療科のみに計上されるため、医師以外の職種は支出のみの計算となり、生産性の評価ができていません。
そのため、診療プロセスの中で、評価や改善をすることが経営にとって重要なことは以下の2つだと考えました。
アメーバ経営とは、診療行為を支えた関連部門に院内協力対価として収益を配賦し、部門別に収支計算を行うことで生産性を評価する方法です。すべての部門をプロフィットセンター(収益部門)と位置付けることで、職員全員が経営参画意識を持つことができ、より自律的な経営改善が可能だと考えます。
アメーバ経営は、管理者の視点から、各部門を平等に比較するためのものです。そして、経営上の改善点を明確にしたり、人員配置や設備投資を全体的に判断したりすることに使います。そのため、部門ごとの部分最適に陥ることを防ぐために、ミッションや責任に対する考え方を職員にしっかり共有することが大切です。
実際にアメーバ経営を実施している施設では、各部門に他部門の情報は提供されず、自身の部門の支出などを情報提供して、改善後に評価をするという方法で実施しています。この方法によって、他部門との競争によって収益向上を目指すのではなく、自身の部門の収益向上や経費削減の成果だけが可視化されるため、現場のモチベーション向上につながったという報告もあります。
最終的に、各部門に配賦する院内協力対価は、関係するスタッフと話し合ったうえで配賦比率を決め、一度決めた比率は基本的に変更せず運用します。
生産性を数字として出すためには、「時間当たりの付加価値」を算出します。算出方法は、月額収入から各部門の月額経費を引いた「月額付加価値収益(円) 」を所属人員の1か月総労働時間で割ることで、1時間あたりの生産性を算出できます。
この式を構成しているのは売上、コスト、時間という三要素です。
このなかで、付加価値向上のために臨床工学技士が主体的に行えることは、時間とコストの節約です。時間とコストの節約には、業務プロセスの改善が必要ですから、どの職種がタスクを担うのがもっとも質が高く効率的なのかを考察することが重要でしょう。これによって、より効率的な無駄のない医療を行うことができ、結果として在院日数の減少など質の高い医療の実現が可能であると考えています。
つぎに、横浜市立大学 小児科学教室(発生成育小児医療学) 教授の伊藤秀一先生による発表が行われました。
伊藤先生:
近年、少子化や急性疾患の減少が進み、小児科・新生児科の経営は厳しいものになってきています。また赤字の地方自治体では、働き方改革や人口減少によって税収が減少してきており、小児医療の維持が難しくなってきています。
そのような現状と本学での経験を踏まえ、今後の小児医療に向け次の3点を提言します。
まず、横浜市における本学の使命を鑑みると、NICUの増床は社会的な要請度が高いといえます。そのため、回収費用や増床後の運営交付金の増額を市にはたらきかけ、増床を実現する必要があると考えます。
また、小児科の維持と日本の未来のために、機能評価係数Ⅱに小児入院医療を新たな項目として組み入れるなどの抜本的改革が必要になると考えます。
さらに、若年層が増加している地域では、保育・教育を含む子育て支援、および小児医療が充実している傾向にあるといえます。その観点から、小児科・産婦人科医療政策の社会経済環境へのインパクトなどの政策的な価値を、今後いっそう研究すべきだと考えます。
つぎに、医療機器メーカーに所属している金井悠介さんによる発表が行われました。
金井さん:
私は、「医療機器メーカーは医療資源の最適化に貢献できているか」という疑問から、心房細動におけるアブレーション治療を事例に研究しました。その結果、医療機器メーカーが地域社会に貢献できるような、医療機器・治療の提案をするためには、以下の2つの解析が必要であると分かりました。
これまで医療機器メーカーは、治療の有効性、安全性、病院収益へのインパクトを提案していました。しかし、今後はエリアごとの推計患者数や治療実施状況を調査したうえで、適した医療機関に医療機器・治療を提案する必要があります。これによって、医療資源の最適化に貢献ができるだけでなく、社内資源の最適化にもつながると考えます。
今回の研究を通して、多様なデータを用いて地域ごとの治療ニーズなどを調査することができました。現在は、今回調査したデータを医療機関に持っていき、医療機器・治療の提案を始めています。
つぎに、横浜市立大学附属病院 地域連携課 福祉相談担当 SW 入野飛鳥さんによる発表が行われました。
入野さん:
患者さんが退院される際、医療機関側からケアマネジャーに対し、書面で情報提供を行うことは少なく、介護支援専門員に十分な情報提供ができていないのではと考えていました。そこで、退院時情報提供書の運用をすると、「退院時情報提供書で情報共有をすることで、ケアマネジャーと患者さんの双方にメリットがある」ということが分かりました。
退院時情報提供書の運用後にヒアリングした結果、介護支援専門員からは「患者さんに退院時情報提供書を共有して話し合うことで、話で聞いていたことと相違があり、その点を訂正できた」という声があがりました。
一方、患者さんからは、「自身の病名や注意事項が記載されており、コピーして自身でも所有している」というお声をいただきました。
こうした情報提供はケアマネジャーのケアプラン作成の一助となることに加え、患者さん自身の病状理解にも役立つことがわかりました。
退院時情報提供書を浸透させるためには、運用をシステム化して業務時間を短縮し、定期的な効果測定によってブラッシュアップしていくことが、今後の課題となると考えます。
つぎに、横浜市立大学附属病院 産婦人科 講座講師 医局長 産科主任 倉澤健太郎先生による発表が行われました。
倉澤先生:
昨今の日本の分娩件数は毎年100万件を切っており、横浜市の分娩件数も3万件を切りました。このような状況ではありますが、産婦人科医は幅広い診療をしており、労働基準法に準じた働き方をすると仮定すると、産婦人科医の数は全く足りない現状があります。
そこで、Greater Yokohamaを構想するために解決すべき課題を3点提言します。
まず、持続可能な働き方には、子育てなどで離職された医師などの勤務時間に制限がある医師を存分に活用することが必要だと考えます。
これまで医師は長時間労働をしていましたが、今後は8時間で終了する程度の労働コストにまで減らす必要があります。そして結果的に浮いた労働コストに対して、勤務時間に制限がある医師に働いていただいたり、交代制やチーム診療を実施したりすることで、持続可能な働き方を考える必要があります。
つぎに、産婦人科医の業務のスリム化が必要だと考えます。リスクのない分娩の管理を助産師が行う、事務的な仕事を看護師や事務員が行うなど、タスクシフトを行う必要があるでしょう。
それから県立や市立の病院が、連携して1つの法人グループとなり、一人の新生児が産まれるまでに必要な、妊娠健診や分娩などの仮想的な総合病院をつくることで、各病院の過不足を補い合い、機能分化した仮想的な総合病院となると考えています。そうすることで、Greater Yokohamaを構想することができると考えます。
つぎに、横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター 助教である小西正紹先生による発表が行われました。
小西先生:
医師の時間外労働の割増賃金は膨大な金額であり、病院財務を揺るがしかねない問題です。
このような問題を受け、医師の働き方改革に関する検討会のなかでは、複数主治医性の導入が議題にあがっています。
今回の研究では、複数主治医性を実際に導入することで時間外勤務時間の減少を図れるかについて試算・考察を行いました。
本研究において留意しておいていただきたい点は、患者層、疾患の多様性、スタッフの専門性は施設ごとに大きく異なるため、各医療機関で試算を行う必要があるという点です。また当院の場合、11人中5人が当直であり、当直明けも通常業務の仮定で計算していることもご留意ください。
結果、複数主治医制にすると、ある週の時間外診療の合計時間は27%の削減となりました。今回の調査をスタッフ数の少ない期間に行ったことや、グループ回診参加人数の確保の可否などを加味しても、実現可能であると考えます。
複数主治医制のメリットは、時間外勤務時間の減少だけではありません。たとえば、主治医が常に病棟にいるため、看護師への指示や、患者や家族への説明といった病棟業務が滞りなく実施できる点や、ダブルチェックが可能となる点も大きなメリットといえるでしょう。
一方、デメリットとしては、医師1人当たりの受け持ち患者数が増えることで、患者の病状把握が広く浅くなったり、責任の所在が曖昧になったりすることなどがあげられます。しかし、グループ長を置き、決定権と責任を明確にすることで、このデメリットは払拭できると考えます。
つぎに、横浜市立大学附属市民総合医療センター 管理部 地域連携課 医療相談支援担当である杉本彩さんによる発表が行われました。
杉本さん:
現在、医療機関と在宅医療・介護サービスとの橋渡しを行う入退院支援体制の強化が進められており、当院では入退院支援加算1の件数が増加しています。しかしながら、件数だけでは「支援の中身が不透明ではないか」「件数が業務を評価する指標なのか」などといった声がスタッフからあがっており、モチベーションが上がりにくい体制となっています。
そこで、私たちの支援や取り組みを評価する視点をみつけたいと考えました。今回の研究では、入退院支援部門の支援実績から、 退院支援を行うことで不要な長期入院に変化があったかどうかを調査しました。
具体的には、「退院困難*なケースへの入退院支援部門の介入率の比較」と「介入有無の違いによるDPC入院期間の比較」を行っています。結果、以下の4点が分かりました。
本研究における「退院困難」の定義は、入退院支援加算1の算定要件
2)については、介入によって適正な入院期間で退院できた患者さんの割合が増加していると考えています。3)については全体の介入率があがり、今まで非介入だった方々にも関わるようになった結果、「DPC入院期間Ⅲ+Ⅲ超」も増加したのだと考えます。また、4)についてはこれまで「DPC入院期間Ⅲ+Ⅲ超」であったケースの背景に、何らかの共通点があったのではと考えます。
また入退院支援加算1の算定要件上、「退院困難」といわれていても、すべての方に介入とする必要はないと考え、私たちの病院なりに「退院困難の定義」を考える必要があると考えました。
これらの結果を受け、さらに多くの課題がみつかりました。その課題のなかでも「私たちのモチベーションにつながる、入退院支援のあり方、目標設定・アウトカムの検討」を重点において、引き続き分析していこうと考えています。
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本プログラムの最終発表会に参加された受講者のインタビューは、こちらをご覧ください。
横浜市立大学附属病院 病院長
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