インタビュー

自閉スペクトラム症の治療や研究にかける思い──山末英典先生のストーリー

自閉スペクトラム症の治療や研究にかける思い──山末英典先生のストーリー
山末 英典 先生

浜松医科大学 医学部精神医学講座 教授

山末 英典 先生

目次
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精神科の医師である山末英典先生は、研究に携わった経験をきっかけに、自閉スペクトラム症の薬物治療の研究と診療に尽力しています。「今の医学では治せない症状を治す」という目標をもって取り組むことで、その価値を患者さんと共有し、研究者も目標に向けて邁進することができると、山末先生はおっしゃいます。

今回は、自閉スペクトラム症の治療や研究にかける思いについて、浜松医科大学精神医学講座教授の山末英典先生にお話を伺いました。

私は、医学部1年生の頃にはもう、精神科の医師になることを考えていました。医学部に入ってみてすぐ、体や臓器よりも、精神や心理のほうに関心を持っていたからです。精神医学に関連する本を自分で探しては、講義が始まる前に読んでいることも多かったです。実習が始まってからも、精神科を第一志望としていました。

医師になって東大病院に勤めていた頃は、うつ病(そう)うつ病など、さまざまな精神疾患の診療を行ってきましたが、特に心的外傷後ストレス障害自閉スペクトラム症の方を対象とした臨床研究で成果をあげた後は、これらの診断がつく方の紹介や受診が多く集まるようになっていました。現在は、浜松医科大学医学部附属病院を中心に、やはりさまざまな精神疾患の方の診療にあたっていますが、心的外傷後ストレス障害や自閉スペクトラム症の方を診る機会が特に多いと思います。

一方、自閉スペクトラム症の研究に関しては、2019年現在にかけてさらに専門性を深めており、国内では、日本医療研究開発機構 脳科学研究戦略推進プログラム融合脳 発達障害統合失調症等の克服に関する研究チームのチームリーダーを務め、欧米の研究者から講演に招かれることも多くなっています。記事2『自閉症の治療薬候補「オキシトシン」の研究について』でもお話ししたように、治療法の確立を目指して研究に取り組んでいます。

大学時代や研修医の頃は、自分が研究をするとは全く想像していませんでした。今思えば、2年間の研修を受けたあと、東大の精神科に入局した際、脳画像研究を担当することになったことがターニングポイントでした。脳画像研究は、症状や行動パターンなど、普段の診療でみていることの背景のように思えて、関心を持ちやすい分野でした。そこで研究に没頭するようになったことがきっかけで、現在も継続して研究に取り組んでいます。

浜松医科大学医学部の精神医学講座は、私が東京大学に赴任していたときからすでに、脳画像研究や自閉症関係の研究で国内の研究をリードする講座として知られていました。たとえば、診断ツールを使うときには、同講座の許可が必要で、その依頼をするためにここ浜松医科大学を訪れたこともありました。それが、縁あって自分自身がこちらの講座主任として、研究をするようになりました。浜松医科大学医学部附属病院の精神科は、臨床をしっかりと行っていることが特徴です。とくに、いわゆるカウンセリングのことである、心理療法や精神療法が充実していることは驚くほどでした。多くの豊富な訓練を受けた臨床心理士が在籍し、心理検査のみならず、医師と連携して治療にも携わっています。薬物療法だけでは治療が難しい患者さんもいらっしゃるので、臨床心理士と協力して治療に取り組めることは、より多くの患者さんの診療につながっていると実感しています。

山末先生

自閉スペクトラム症は、現在の状況について診断を受けて、何が得意で何が不得意かということを、両方とも把握することが大切です。社会生活においてうまくいかないことがあって病院を訪れたときには、あれもこれもできないと思い、自信を失って落ち込んでしまっているかもしれません。しかし、病院にかかったうえで、なるべく客観的に、得意なことも理解できるようにしていき、両方とも受け入れることで、適切な対処方法や、自分の能力の活かし方が見えてきます。また、周囲の方にも理解してもらいやすくなるでしょう。周囲の方にとっては、「これはできないけれど、これはできます」と言われると、自閉スペクトラム症の方を支えやすくなります。

精神症状のメカニズム解明や、原因解明については、私たち研究者は関心を持って取り組んでいますが、脳の機能不全などが精神症状の原因だと分かるとがっかりする患者さんもよくいらっしゃいます。実のところ、こうした研究の成果だけでは、あまり患者さんの役には直接は立たないということを感じてきました。

一方、私たちが今取り組んでいるような、これまでは治療できなかったような症状を治療できるようにする研究は、患者さんやご家族のご理解を得やすいと感じています。今の医学では治せない症例を治せるようにするという目標は、とてもシンプルであり、普遍的です。普遍的な目標は、さまざまな異なる時代の、さまざまな異なる立場の人が共有できるものです。普遍的な目標を持てれば、私たち研究者や医師も10年20年と長くモチベーションを持ち続けられますし、患者さんや政府や製薬機関などの違う立場の方とも一緒に共有することができます。

それに対して、自分自身の価値を高めたい、能力を評価されたいといった個人的な目標は、多くの人と共有することができませんし、長くモチベーションを維持することも難しいと思います。医療についても研究についても、「今の医学では治せない症状を治す」といった普遍的な目標を立てることの意義について、ぜひ、医療関係者の方々に広く伝えていければと思っています。

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