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脳腫瘍の手術治療−術前から術後の流れについて

脳腫瘍の手術治療−術前から術後の流れについて
メディカルノート編集部 [医師監修]

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目次
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脳腫瘍の治療では、手術による腫瘍の摘出を行います。その際は腫瘍の全摘を目指すと同時に、術後に麻痺や言語障害などの合併症が起こらないように、脳の機能を温存させる必要があります。

本記事では脳腫瘍の手術治療について解説します。

脳腫瘍の治療は、基本的に手術によって腫瘍をできるだけすべて摘出することを目指します。

しかし、腫瘍がある場所によっては、腫瘍を摘出することによって、術後に麻痺や言語障害などの重い障害が残る恐れがあります。それではせっかく腫瘍をすべて摘出できたとしても、患者さんは不自由な生活を余儀なくされてしまいます。そのため、腫瘍の摘出量と神経機能の温存のバランスを図ることが重要です。

また、患者さんの職業などを把握し、術後の社会復帰も考慮することも重要です。たとえば、バスの運転手を仕事としている患者さんの場合、術後にてんかん発作(けいれん)を起こしやすい体質になる可能性が少しでもあると、仕事を失ってしまう恐れがあります。

このような理由から、脳腫瘍の手術の際には、“脳の機能”と“摘出による治療効果”を天秤にかけて、摘出範囲を決定する必要があります。

術中迅速病理診断を手術中に行って、脳腫瘍の種類や悪性度について、確定診断を行います。その結果によって、腫瘍の摘出方法を決めたり、術後の治療計画を立てたりします。確定診断の結果、悪性脳腫瘍だったときには、手術だけで完治を目指すことは困難です。その場合は、術後に抗がん剤治療や放射線治療を行うこともあります。

MRI検査で脳腫瘍がみつかった場合であっても、自覚症状がなく、小さな良性腫瘍と考えられる場合には、手術に伴うリスクを考慮し、腫瘍の摘出手術は行いません。腫瘍が大きくなっていないかどうかを確かめるために、半年や1年に1回くらいの頻度で、定期検診を受けていただき、経過を観察します。

ただし、今すぐ摘出する必要がない場合であっても、患者さんの年齢などによっては手術を検討することがあります。たとえば、73歳で脳腫瘍がみつかり、5年後には手術が必要になると予測される場合は、高齢になればなるほど手術に伴うリスクが高まるため、早い時点で手術を行うことを提案します。

検査入院には、大きく2つの目的があります。その1つが、他臓器のがんの転移によってできた転移性脳腫瘍でないかどうかを確認することです。その確認のために、胸部や腹部の画像検査、胃や大腸の内視鏡検査を行うことがあります。

さらに、もう1つの目的は、脳のカテーテル検査(脳血管造影検査)を行い、腫瘍の周りに異常な血管がないかどうかを確認することです。脳腫瘍は血液から栄養をもらって成長しているため、脳腫瘍の周りに異常な血管が発生していることがあります。この異常血管があると、腫瘍を摘出する際の出血量が多くなる恐れがあります。その場合には、輸血の準備をしたり、可能であれば自己血貯血(輸血が必要な場合に備えて、自身の血液を事前に採っておくこと)を行ったりすることもあります。

手術前に、患者さん自身に行っていただく準備は特にありません。患者さんのなかには、手術に備えて髪の毛を切ったり、剃ったりしてこられる方もいらっしゃいますが、その必要はありません。髪の毛があったからといって手術がやりにくくなることはありませんし、髪の毛によって傷口を隠すことができると、術後の社会復帰の面でも、患者さん自身の気持ちの面でもよいためです。

脳腫瘍の手術では、できるだけ大きく腫瘍を取り除くと同時に、脳に重い障害が残らないように注意する必要があります。

そのために、さまざまな手術支援装置を駆使しながら、腫瘍を摘出します。本章ではそれらの手術支援装置についてご紹介します。

ニューロナビゲーションシステムとは、患者さんの術前のMRI画像を読み込ませておくことで、術者がいま脳のどの部分を操作しているかをリアルタイムで写し出す装置です。ナビゲーションという名前が示す通り、車のカーナビと同じ原理です。

ニューロナビゲーションを使用することで、腫瘍に対してどれくらいの距離まで到達しているのか、正常な脳を傷つけていないか、などを確認しながら手術を行うことが可能になります。

手術用エコー装置は、手術中にエコー検査(超音波検査)を行う装置です。

腫瘍を摘出すると実際の脳の形は徐々に変わっていきますが、先述したニューロナビゲーションシステムの画像は、術前のMRI画像に基づいているため、実際の脳との差が出ます。そこで、術中の脳の変化を捉えることができる手術用エコー装置を併用することで、ニューロナビゲーションシステムが写し出す脳の状態との差を埋めることが可能になります。

脳腫瘍を摘出する際には、まず腫瘍を破壊する必要があります。しかしその際、手術によって破壊した腫瘍が脳内に散らばってしまうと、それが悪性脳腫瘍だった場合、ほかの組織に転移してしまう恐れがあります。

それを防ぐために、腫瘍の破壊と同時に、破壊した腫瘍を吸引することができる、超音波吸引装置を使用します。

悪性腫瘍の取り残しは、術後の再発につながる恐れがあります。そこで、腫瘍の取り残しを防ぐために、術中蛍光診断(化学的ナビゲーションシステム)を用います。

術中蛍光診断では、“5-アミノレブリン酸(5-ALA)”という悪性腫瘍に取り込まれる薬剤を、手術前に患者さんに内服していただきます。そして、手術中に特殊な顕微鏡を用いると、5-アミノレブリン酸を取り込んだ悪性腫瘍だけが赤く光ります。これによって摘出すべき範囲が明確になり、意図せぬ取り残しを防ぐことが可能となります。

脳室内腫瘍に対する診断・治療には、神経内視鏡が有用です。脳室内腫瘍は脳の深部に存在することが多く、開頭手術では腫瘍に到達するために大きな侵襲が必要です。そこで、神経内視鏡を使用することによって、直径1cmほどの小さな孔からの低侵襲な手術が可能となります。

ただし、腫瘍の種類によっては開頭手術のほうが、メリットが大きいこともあるため、腫瘍の種類によって手術方法を柔軟に検討します。

手術にかかる時間は、脳腫瘍のタイプや発生場所によって異なります。患者さんによっては、他の臓器に病気を抱えていたりして、手術にかかる負担が大きくなることがあります。

脳腫瘍の手術にかかる費用は、非常に高額ですが、公的医療保険制度の高額療養費制度を利用することで、患者さんの年齢や所得によって定められた限度額以上の費用を負担する必要がなくなります。

ただし、70歳未満の患者さんが退院時のお支払いで高額療養費制度を適用させるためには、事前に「限度額適用認定証」を病院の窓口に提示していただく必要があります。それをしないと、いったん費用を全額支払い、あとで払い戻しを受ける流れになります。

退院後、どれくらいで社会復帰できるかは、脳腫瘍の発生場所やタイプによって大きく異なりますが、術前からご自身の力で歩行できていた方であれば、退院後2週間〜1か月くらいで社会復帰されていることが多いです。

術後は、十分な睡眠をとる生活を心がけていただきたいと思います。術後数年間は、てんかん発作が起こりやすい場合があります。てんかん発作を防ぐためには、睡眠で脳をきちんと休ませることがとても重要です。

脳腫瘍のタイプによって退院後の通院の頻度は異なります。

良性脳腫瘍で完全に摘出できた場合には1年に1回くらいの通院ですが、悪性脳腫瘍の場合には、追加で行う治療のために2週間に1回くらいの頻度で通院が必要です。

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東京都立多摩総合医療センター 脳神経外科 部長

おおた たかひろ

内科、血液内科、リウマチ科、外科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、緩和ケア内科、感染症内科、消化器内科、内分泌内科、代謝内科、膠原病内科、脳神経内科、血管外科、頭頸部外科、精神神経科、総合診療科、病理診断科

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国立健康危機管理研究機構国立国際医療センター 元副院長・元脳卒中センター長・非常勤、順天堂大学大学院 医学研究科客員教授

はら てつお
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内科、血液内科、リウマチ科、外科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経外科、呼吸器内科、呼吸器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、小児外科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、歯科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、乳腺腫瘍内科、膠原病科

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東京警察病院 脳神経外科 部長、脳卒中センター副センター長

よしの まさのり

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ふくだ あたる

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西武新宿線「田無」北口 徒歩3分、西武池袋線「ひばりヶ丘」西武バス 境03、境05、田42系統 田無駅下車 徒歩3分   バス、JR中央線(快速)「武蔵境」西武バス 境03、境04、境07系統 田無駅下車 徒歩3分 バス

東京医科大学病院  脳卒中センター長、東京医科大学 脳神経外科学分野 主任教授

こうの みちひろ
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東京メトロ丸ノ内線「西新宿」2番出口またはE5出口 徒歩1分、JR山手線「新宿」西口 その他JR複数線、小田急線小田原線、京王電鉄京王線、都営新宿線なども利用可能 徒歩10分

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