概要
良性脳腫瘍とは脳の細胞や神経、脳を包む硬膜などに発生する良性の腫瘍のことです。
脳に発生する腫瘍は、悪性度(転移や再発のしやすさ)によってグレード1~4に分類されますが、良性脳腫瘍のほとんどはグレード1に分類されるものです。また、脳腫瘍は組織のタイプによって150種類以上に分類されますが、その約半数を良性脳腫瘍が占めるとされており、代表的なものでは髄膜腫、下垂体腺腫、聴神経腫瘍などが挙げられます。
現れる症状は腫瘍が発生する部位や大きさ、組織のタイプによって異なります。基本的な治療は手術や放射線治療ですが、良性脳腫瘍は通常、急激に大きくなったり転移したりすることはないため、脳の機能を温存することを最優先にして治療が行われます。また、特に症状がなく健康診断などで偶然発見されたケースでは積極的な治療を行わず経過観察を続けていくケースも少なくありません。
原因
良性脳腫瘍の発症メカニズムは明確には解明されていませんが、遺伝子の変異などによって脳や神経、硬膜などの細胞が異常増殖を生じることで発症すると考えられています。環境やストレスなどの要因は発症に関与していないとされていますが、ごくまれに脳腫瘍に対する放射線治療が新たな脳腫瘍を引き起こす可能性があることも報告されています。
症状
良性脳腫瘍によって引き起こされる症状は、全ての良性脳腫瘍で共通して生じる可能性のある症状と発生部位や大きさ、組織のタイプなどによって異なる症状に分けられます。
共通する症状
脳は硬い頭蓋骨に囲まれているため、脳に腫瘍が形成されると体積が大きくなり、頭蓋骨内の圧力が高くなります。このような状態を“頭蓋内圧亢進”と呼びます。進行すると頭痛(特に朝ひどくなる)や吐き気・嘔吐、視野・視力の異常を引き起こすことがあります。
異なる症状
腫瘍が発生する部位や大きさ、組織のタイプによってそれぞれ異なる症状のことを“局所症状”と呼びます。たとえば、脳の言葉を司る部位に腫瘍が発生してダメージが加わると言語障害が引き起こされ、運動を司る部位に腫瘍が発生すると運動神経麻痺が引き起こされます。そのほか、認知機能や性格の変化、目や耳の異常、平衡感覚や呼吸の異常が引き起こされることも少なくありません。
また、さまざまなホルモンの分泌を行う下垂体に良性腫瘍ができると、視力が落ちたり視野が狭くなったりして眼科を受診する方もいます。下垂体に生じる腫瘍の大半はホルモン異常が生じない“非機能性下垂体腺腫”ですが、ホルモン分泌に異常が生じる下垂体腫瘍が生じることもあります。ホルモンに異常が生じる下垂体腫瘍のなかでも頻度が高いのはプロラクチン産生下垂体腺腫で、女性の場合には月経異常や不妊、男性の場合には性欲減衰などの症状が現れることがあります。
検査
良性脳腫瘍の検査は頭部CTやMRI検査によって行われます。
特に血管を描出しやすくなる“造影剤”を投与しながら撮影を行う造影MRI検査は、良性腫瘍の組織のタイプをある程度推測することが可能なため、造影剤にアレルギーがある・腎機能が悪いといったケースを除いて良性脳腫瘍の診断に必須の検査といえます。
そのほかには、貧血の有無など全身の状態を調べるための血液検査などが行われるのが一般的です。
また、血流が豊富と考えられる良性脳腫瘍の場合は、カテーテル(医療用の細い管)を血管に挿入し、造影剤を注入して血管の走行や太さ、血流などを調べる“血管造影検査”が行われることも少なくありません。
治療
良性脳腫瘍は通常、急激に大きくなったり他部位や他臓器に転移を生じたりすることはありません。近年では脳ドックなどを受ける人が増えてきたため、それらの機会に偶然発見されるケースも多々あります。このようなケースで特に症状がない場合は、治療を行わず定期的に検査を行って経過を見ていくことも少なくありません。
一方、何らかの症状がある場合は治療を行うのが一般的で、多くは手術による良性腫瘍の摘出が行われます。しかし、体力的に手術に耐えられないケース、脳の奥にできた腫瘍で手術を行うと周辺の脳や神経にダメージを与えてしまう可能性があるケースなどでは、放射線治療が行われることもあります。また、近年では脳内に内視鏡を挿入して腫瘍の切除などを行うことができる“神経内視鏡”も普及しており、良性腫瘍に対しても広く用いられています。
良性脳腫瘍の治療において大切なことは、脳の機能温存を最優先に考えて治療方針を検討することです。良性脳腫瘍は全摘出により完治することが期待できますが、必ずしも安全に全摘出ができるとは限りません。全摘出によって脳の機能が障害される恐れがある場合には手術治療では部分的な摘出に留め、残った腫瘍を放射線で治療するなど、集学的治療が検討されることもあります。
なお、良性脳腫瘍は一度摘出すると再発することはほとんどありませんが、まれに取り切れなかった腫瘍の組織が大きくなって再発することもあるので、治療後も経過観察が必要です。
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