独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター(以下、久里浜医療センター)は、東京湾に面し、遠く房総半島も見渡せる自然豊かな場所にある、依存症や精神科医療、内科診療などに従事する医療機関です。
同センターは、アルコール依存症に対して多くの知識を持つことから、世界保健機関(WHO)のアルコール関連問題研究・研修協力センターに指定されており学会発表や情報発信にも尽力しています。同センターの取り組みや提供している依存症治療について、院長の樋口 進先生にお話を伺いまいした。
久里浜医療センターは、元は横須賀海軍野比分院として創立しました。当センターがさまざまな依存症に対する治療を行うようになったのは、1963年にわが国で初めてアルコール依存症専門の病棟を設置したことがきっかけです。それ以降は依存分野ではアルコール依存症の治療を中心に診療を行っており、2017年より、国の依存症対策全国センターに指定されています。2020年4月現在は、アルコール依存症に加えて、ゲーム依存やギャンブル依存などの治療も行っています。
またこれら依存症の治療だけでなく、うつ病や統合失調症の治療や認知症の診断など一般的な精神科の診療と、内科の内視鏡検査などにも幅広く対応しています。
当院近辺から関東まで幅広いエリアのアルコール依存症の患者さんを受け入れて診療しています。また、診療だけでなく依存症に対する研究や専門家育成など、包括的な活動を行っています。
国内でもいち早くアルコール依存症の治療病棟を設置した経緯もあり、アルコール依存症の治療や研究面を牽引していくとともに、国際的な研究や活動にも積極的に貢献していきたいと思います。
ギャンブル依存の診療も行っているため、当院近辺から関東まで幅広いエリアから患者さんが治療のために来院しています。本邦では2018年7月にIR整備法が成立したこともあり、ギャンブル依存に対する診療を充実させる必要性を感じています。この法案の成立によってギャンブル依存の方が増加していくとは一概にいえませんが、治療・研究・専門家育成を充実させていくことも当センターの使命のひとつであると考えています。
依存症の患者さんの特徴として、本人には「自分は依存症だ」という自覚がなく、ご家族や周りの方々に説得されて来院する、というケースが多いです。アルコール依存症やギャンブル依存の患者さんは大人が大多数を占めていることから、社会的に求められる振る舞いをある程度理解されていることが多いと感じています。
ゲーム依存は、数ある依存症の中でも治療が難しいと感じています。
ゲーム依存の患者さんは若年層が多く、インターネットやゲームにひどく依存していて、ご家族が付き添いながら来院されます。未成年のゲーム依存の方だと、ご家族のいうことをきかない、ゲームができる環境から遠ざけようとすると暴言を吐いたりします。ひどいときには暴力を振るったりするなど、周囲の方々を傷つけてしまうこともあります。
まだ世界が狭く、子どもたちだけの世界で完結していることが多く、いわゆる大人の世界の「こうしなくてはいけない、ああしなくてはいけない」といったことが通じないこともあり、ゲーム依存の治療が難しいと感じています。
依存症治療に強い病院というイメージがある当センターですが、統合失調症やうつ病などの精神科医療も提供しています。
精神科診療では、外来治療のほかにも入院治療ができる病棟を設置して、患者さんそれぞれの状態に合わせた治療が提供できるような体制を整えています。
当センターは三浦半島の海沿いに面しており、療養病棟からは東京湾や房総半島を見渡すことができます。自然に囲まれた療養環境で治療に専念していただけると思います。
認知症の早期診断や治療に努めており、主に診断の部分を担いご紹介いただいた患者さんをかかりつけ医の元にお返しするようにしています。また入院での治療が必要と診断した患者さんには、認知症の入院治療を実施している医療機関をご紹介しています。
2006年4月に医療観察法病棟を設置、心神喪失または心神耗弱状態で重大な他害行為を犯してしまった方への治療を行っています。
精神疾患の影響で患者さんが重大な他害行為を犯してしまった場合、ほかの精神疾患に対する入院治療を受けている患者さんと同じようなサポートでよいのか、という問題があります。医療観察法病棟は、医療観察法で入院治療が必要と審決された方専用の病棟で、精神疾患の治療を行うと同時に、社会復帰調整官による退院後の生活環境の調整を実施し社会復帰を目指す場所でもあります。
依存症に対する治療を中心に行っていることから、どのようなセンターなのか具体的なイメージを持つのは難しいと思います。
当センターは、オープンなセンターとして患者さんを受け入れ治療しています。グラウンドや体育館なども併設しており、これらの施設を地域に開放して皆さまが利用しやすい場所になればと思います。
アルコール依存症やギャンブル依存に加えて、ゲーム障害(依存)が、WHOが策定しているICDと呼ばれる国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)に2018年6月に追加され、2019年5月に正式に承認されました。
こうした近年の動向もあり、ゲーム障害はひとつの依存症だと一般の方にも認識していただけるよう『スマホゲーム依存症(内外出版社)』の執筆や『心と体を蝕む「ネット依存」から子どもたちをどう守るのか(ミネルヴァ書房)』の監修をいたしました。ご自身もしくは周りの方が依存症かもしれないと感じたときに、こうした書籍での情報発信が依存症の症状の把握に役立つと同時に受診を促すきっかけになればと思います。
当センターは、国の依存症対策全国センターやWHOのアルコール関連問題研究・研修協力センターに指定されているため、依存症の診療や研究を専門としている医療従事者にも多くの情報を発信していくことを目指しています。そのためにも、国内外問わず学会発表や研究を行い、国際的な活動や貢献を積極的に行ってまいります。
独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター 院長、依存症対策全国 センター長、WHOアルコール関連 問題研究・研修協力センター長、藤田医科大学医学部 客員教授、慶應義塾大学医学部 客員教授
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