がんの患者数は年々増加しており、現在では日本人の2人に1人ががんと診断される時代だといわれています。そのため、自分や自分の家族ががんと診断される可能性は決して低いものではありません。
がんの診断はがんが疑われる症状や検診の結果がきっかけとなり、より詳しい検査を経て確定します。診断時には家族が一緒に説明を聞き、診断後の生活をがんと診断された方と一緒に考えることが一般的です。このような一連の流れのなかで、がんと診断された方は大きな気持ちの変化を経験し、そばで見守る家族や周りの方にとってはがんと診断された方の言動に戸惑いを感じることもあるかもしれません。
本記事ではがんと診断された方やその家族の気持ちに関して解説いたします。
がんと診断された本人の気持ちの変化は人それぞれです。がんの治療は日々進歩を遂げており、必ずしも死をもたらす病気ではなくなりつつあります。それでもがんと宣告されることは多大なショックを受ける出来事であり、その現実をすぐに受け入れられる方は少ないでしょう。
以下では、がんと診断された方が向き合うことになる二つの課題についてお伝えします。
がんと診断された方は、今まで当たり前にあった健康で平和な生活が失われた喪失感と向き合うことになります。この喪失感と向き合うためには“悔しい”“悲しい”などの負の感情にふたをしないことが大切です。
がんと診断された方のなかには負の感情にふたをして無理をする方もいますが、無理をしてもその感情はなくなりません。そのため、自分の中に負の感情があることを認め吐き出すことが大切です。
がんと診断されると入院や治療が必要になるなど、これまでの生活が一変することもあります。喪失感を抱えているうちはなかなか現実が受け入れられず、生活の変化に対しても怒りや悲しみを感じることでしょう。
しかし、喪失感による苦しみのなかで“この現実は変えられない”ということに気づくと、今度は少しずつ変化を受け止められるようになり、一変した生活のなかで自分がどのように生きるべきかを考えられるようになります。
がんと診断された方は通常の場合、時間をかけて病気や自分自身と向き合うことにより、病気にかかる前とは異なる新しい世界観を得ることができます。心理学の分野ではこのような変化を心的外傷後成長(PTG:Posttraumatic Growth)と呼びます。
多くの場合は数日から2週間程度で状況を受け入れ、困難を乗り越えようとする気持ちがわいてきますが、なかには不安や落ち込みが回復せずに“適応障害”や“うつ病”といった状態に陥ることもあります。このような場合は、精神科や心療内科などで専門的な心理的ケアが必要になることもあります。
がんと診断された方の心の動きは刻々と変化するため、そばで見守る方にとっては戸惑うこともあるでしょう。まずはがんと診断された方の気持ちを理解する姿勢を大切にしましょう。本人が病気をどのように考え、何に困っているのかを聞いてみることも重要です。がんと診断された方とのコミュニケーションについて不安なことがある場合は、医師や看護師、専門家に相談するようにしましょう。
がんと宣告されることは本人だけではなく、家族にとっても大きな精神的苦痛となります。「本人はもっとつらいから」と家族がつらい気持ちを抑え込んでしまい、無理を重ねてしまうことも少なくありません。
がんと診断された方の家族は“第二の患者”ともいわれ、がんと診断された方と同様にケアが必要な存在であると考えられています。家族はがんと宣告されたショックに加え、がんと診断された方のサポートを行いつつ自分自身の生活も維持していく必要があります。がんと診断された方のサポートを長期的に行っていくためにも、家族は自分自身も大切にすることが重要です。
がんと診断された方にとっては家族の支えが大きな力になります。家族は気持ちを理解するように努め、その気持ちを理解することが患者の支えになることがあります。家族自身の不安から、がんと診断された方が求めていないサポートをしてしまうと、患者にとっても負担となることがありますので注意しましょう。
そして、家族自身が自分のつらさや困ったことを相談できる存在を見つけることが大切です。それは自分の周囲で信頼できる人や病院のスタッフでも構いません。病院には主治医や看護師のほか、心の問題を専門に扱うソーシャルワーカーなどがいます。気持ちが整理できていない状態でも構いません。必要であれば専門家を紹介されることもあるので、まずは話しやすい人に相談してみるようにしましょう。
がん研有明病院 腫瘍精神科 部長
清水 研 先生の所属医療機関
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。