閉塞性動脈硬化症の治療では、まずは薬物療法や運動療法(保存的治療)を行い、場合によってカテーテル治療やバイパス手術を検討します。なかでもカテーテル治療は、患者さんの体への負担をできるだけ抑えながら、血流の改善によって回復が期待できる方法です。
今回は、閉塞性動脈硬化症の治療の選択肢を述べるとともに、特にカテーテル治療について、札幌心臓血管クリニック 循環器内科 末梢動脈疾患センター長の原口 拓也先生に伺いました。
閉塞性動脈硬化症の診断がついたら、まずは薬物療法や運動療法を行います。薬物療法では、抗血小板薬を中心に用いて、血液の塊をつくらないようにしたり、血液が流れやすいように血管を広げたりして、血行の改善を図ります。運動療法は、足の筋肉を動かして足への血流を増やし、血行を改善させることを目的として行います。
保存的治療により、痛みがない状態で長距離を歩けるようになるか、生活するうえで特に問題を感じないということであれば、薬物療法と運動療法だけで様子を見ていきます。
生活するうえで何か困ることがある場合や、治療薬が効きにくく重症化が予想される場合などには、血行再建術の実施を検討します。血行再建術とは、狭くなったり詰まったりしている血管を治療して、血流を改善する治療です。主に、次のような方法で行われます。
血管の中から治療する方法です。カテーテルという細い管を血管に通し、ステントという金属製の網でできた筒などを用いて、血管の狭くなったり詰まったりしている部分を広げます。
カテーテル治療は、局所麻酔で行うため、全身麻酔が必要な手術治療と比べて体への負担を抑えることが期待できます。高齢の患者さんにも実施可能なため、病院としても、カテーテル治療をおすすめすることはよくあります。
また、カテーテル治療で使う道具(デバイス)の進歩により、近年ではカテーテル治療がより多く行われるようになっています。
血管の外から手術する方法です。人工血管、もしくは患者さん自身の静脈(自家静脈)を使って、新しく血液の通り道(バイパス)をつくります。
カテーテル治療を行うことが難しい部分の治療や、再発を繰り返す場合などは、バイパス手術を検討します。ただし、高齢の方の場合、自家静脈に適した血管が少ないことや、体への負担が大きいことなどから、多くの場合はカテーテル治療をおすすめします。
血行再建術では血流が十分に得られない場合、補助療法を組み合わせて行うことがあります。
高気圧状態の酸素カプセルに入り、効率よく酸素を取り込んで傷の治りを促す治療法です。
注射によって幹細胞移植を行う治療法です。ほかの治療では改善が期待できない場合の手段として、検討される場合があります。
動脈硬化のリスクファクターである脂質異常症や糖尿病などにより血液がドロドロになっている方は、血の塊(血栓)ができやすい状態である可能性が考えられます。血栓ができるのを予防するためには、血液をサラサラにする薬を使用しますが、出血のリスクが高くなるため、内服の期間を一人ひとりに合わせて調整することが重要です。
閉塞性動脈硬化症の診療では、患者さんが抱えるほかの病気をコントロールすることが重要となります。たとえば、生活習慣病のある患者さんは、運動療法によってコレステロール値や血糖値を改善させることが大切です。しかし、運動療法によって足の痛みが出る場合、長い距離を歩くことは難しいため、カテーテル治療などを行い、歩ける距離を伸ばしたうえで運動療法を継続することがポイントになります。
閉塞性動脈硬化症は、病状が進行すると重症下肢虚血という病気に発展します。この病気は“何もしていないのに足に痛みがある”“足の傷が治らない”“足が壊死している”といった症状が出現し、重症の方は足の切断を余儀なくされるケースがあります。足を切断しても、血流不足により縫い合わせた傷口が開いたり、傷口から細菌が入って壊死が進行したりする恐れがあります。
そのため、重症下肢虚血の患者さんの治療では、傷の専門家である形成外科や皮膚科などと相談したうえで、血行再建術を行って血流を改善することがポイントとなります。
当院では、難症例についても積極的に血行再建術を実施しています。
足の指が壊死しており、形成外科や皮膚科で診てもらっている傷が治らず、痛みで通常の日常生活ができずに悩んでいる患者さんが受診されたことがあります。動脈硬化が進行し、お腹から指先までの血管がほとんど詰まっている状態でした。カテーテルを用いた血行再建術により血流を改善させると、この患者さんの場合は以前までの痛みがなくなり、最終的には傷も治り、楽に歩けるようになって社会復帰するまで回復しました。
100歳以上の高齢の患者さんが受診されたこともあります。足に傷ができて痛みを感じているにもかかわらず、痛み止めを使うことや手術による体への負担、血流不足による壊死の進行などが心配され、治療が難しいと判断されていた方でした。しかし、この患者さんの場合も、カテーテルを用いた血行再建術によって無事に血流が改善し、痛みが取れて傷を治すことができました。
閉塞性動脈硬化症に対する治療のリスクとして、主に出血、感染、腎障害が挙げられます。当院では、治療の前に必ずスタッフとのディスカッションを行い、どのようなリスクが想定されるのかを確認したうえで、対策を取るよう努めています。たとえば腎臓を悪くしている患者さんには、造影剤が必要な場面では二酸化炭素(炭酸ガス)に置き換えることを検討します。このような連携は、院内でシステムとして確立されています。
スピーディー、セーフティ、シンプルの“3S”を念頭に置いて治療にあたっています。たとえば、患者さんが手術室に入ってから帰宅するまでの流れを想定し、具体的な治療方針を周囲のスタッフに伝えることで、医療器具の準備や、治療にかかる時間を短縮することができます。迅速な治療を心がけることが、より安全で、無駄のない治療につながると考えています。これからも、スタッフ一丸となって研鑽を積み、よりよい医療の提供に向けてまい進してまいります。
当院を受診された閉塞性動脈硬化症の患者さんには、薬の服用、ウォーキングなどの運動療法、生活習慣や食事の改善に、しっかりと取り組んでいただけるようお伝えしています。治療によって血流が改善したとしても、生活習慣が元に戻ったら、病気はまた進行してしまう可能性があるためです。
そこで、私が診察するときは、「生活習慣を変えることができなければ、前と同じことが起こってしまうのが人間の体ですよ」とご説明し、そのことを意識して治療に臨んでいただいています。ぜひ、一緒に頑張っていきましょう。
医療法人 札幌ハートセンター 札幌心臓血管クリニック 循環器内科 末梢動脈疾患センター長
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