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前立腺肥大症の低侵襲治療“レーザー前立腺蒸散術”とは

前立腺肥大症の低侵襲治療“レーザー前立腺蒸散術”とは
野村 博之 先生

福岡山王病院 泌尿器科 部長、福岡国際医療福祉大学 特任教授

野村 博之 先生

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主に加齢が原因で前立腺が大きくなる前立腺肥大症は、悪性の病気ではないものの、頻尿、残尿感などのさまざまな排尿障害を引き起こします。生活の質をこれ以上低下させないためにも、適切に治療を行うことが大切です。ここでは手術の方法や、近年注目されている体への負担が少ない“レーザー前立腺蒸散術”について、福岡山王病院  泌尿器科 部長の野村 博之(のむら ひろゆき)先生にお話を伺いました。

前立腺肥大症の治療は薬物治療から始めることが一般的ですが、十分な改善がみられない場合などには手術が行われます。前立腺肥大症の手術は、お腹を切らず、内視鏡を用いた体に負担の少ない手術がほとんどです。尿道から内視鏡を挿入して肥大した前立腺を取り除くことで尿道が広がり、楽に尿を出すことができるようになります。術式は時代の流れとともに改良されており、主に以下が挙げられます。

尿道から内視鏡を挿入し、内視鏡の先端に装着した電気メスで、肥大した前立腺を尿道側から削り取ります。前立腺肥大症の手術として、広く一般的に行われている方法です。

尿道から内視鏡を挿入し、レーザーを照射しながら肥大した前立腺と外腺の間を剥離(はくり)し、前立腺を塊としてくり抜きます。くり抜いた前立腺は膀胱の中で細かく砕き、吸引して取り出します。大きい前立腺に対しても出血を少なく行えるメリットがある一方、手技が非常に難しく、経験を積んだ医師による限られた手術となります。

尿道から内視鏡を挿入して高出力のレーザーを照射し、肥大した前立腺を蒸散(蒸発)させながら取り除きます。

紹介した中でも新しい“レーザー前立腺蒸散術”は先述のとおり、内視鏡下でレーザーを肥大した前立腺に照射して“蒸散(蒸発)”させる手術です。肥大した前立腺は細胞ごと一気に気化され、泡となった細胞は膀胱に流れて尿として排出されます。“蒸散”という言葉は聞き慣れないかと思いますが、患者さんには「雪の上にお湯をかけたとき」を例えとして説明しています。雪にお湯をかけたときにジュッと穴が開くように、蒸散したものは見ることができず、一瞬で消えてなくなる、まさに“溶ける”イメージです。

レーザー前立腺蒸散術は使用するレーザーの特性により、非接触で行われる光選択的レーザー蒸散術(PVP)と、接触して行われる接触式レーザー蒸散術(CVP)がありますが、手術の流れや治療期間などに大きな違いはありません。

当院では、両者を比較して手術中の出血がより少なく済み、患者さんの適応範囲が広い接触式レーザー蒸散術(CVP)を採用しています。

接触式レーザー蒸散術(C V P)
接触式レーザー蒸散術(C V P)
接触式レーザー蒸散術(CVP)の尿道の様子
接触式レーザー蒸散術(CVP)の尿道の様子
上段左:術前 上段中央:中葉蒸散後 上段右:側葉(右葉と左葉)蒸散前 
下段左:右葉蒸散後 下段中央:左葉蒸散後 下段右:蒸散終了直後、括約筋損傷なし

レーザー前立腺蒸散術の大きなメリットとして、術中の出血量が非常に少ないため、輸血の必要がない点が挙げられます。心臓弁膜症など心臓に病気があったり、脳梗塞(のうこうそく)など脳に病気があったりして抗血栓薬(血液をサラサラにする薬)を内服されている方でも、薬を止めることなく手術を受けることができます。

先に挙げたホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)は手技が非常に難しい手術とされ、術後に尿漏れが起こったり、膀胱を傷つけてしまったりするトラブルが課題としてあります。尿閉が改善されても、尿漏れが起こるようになってしまっては患者さんの不利益につながります。一方でレーザー前立腺蒸散術には手術の煩雑さがなく、術後の尿漏れの心配がありません。当院ではほとんどの患者さんが、手術して1か月後には排尿症状が改善しています。

レーザー前立腺蒸散術には従来の術式よりさらに細い内視鏡が使われます。そのため尿道を傷つけることが少なく、手術後も刺激や痛みが極めて少ないのが特徴です。血尿の程度が軽いのも特徴です。また、経尿道的前立腺切除術(TUR-P)のように電気メスを使わないため、術後に勃起障害などが起こることもありません。

レーザー前立腺蒸散術は適応範囲が広く、たくさんの患者さんに受けていただけることがメリットではありますが、比較的新しい術式のため、経尿道的前立腺切除術(TUR-P)やホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)などと比べて治療成績の数が多くありません。治療から10年以上が経過した成績に関するデータも少なく、長期間の経過後どうなるのか知りたいという患者さんにこの点を明言できないことは、現状ではデメリットといえるでしょう。

ただ、光選択的レーザー蒸散術(PVP)は、2017年の前立腺肥大症診療ガイドライン改訂で推奨グレードがAになりました。接触式レーザー蒸散術(CVP)も2016年に保険適用されたばかりの術式ですが、2020年の診療ガイドライン改訂で推奨グレードがBになり、どちらも推奨度の高い手術といえます。今後は長期成績に関するデータが増えていくことが期待できます。

当院でのレーザー前立腺蒸散術の手術時間は、一般的な体積の前立腺肥大症の場合1時間から1時間半程度です。また、入院から退院までの期間は3泊4日程度で、手術後に尿道にカテーテルを挿入しておく期間も短く済みます。ただし、レーザーを当てることはやけどを負うことと同じなので、前立腺の体積が大きい方は手術の翌日にむくみが残りやすくなります。その場合は、入院期間を延ばすなどの調整を行います。

手術後の痛みはほとんどありませんが、個人差があり、中には疼痛(とうつう)を感じる方もいらっしゃいます。その場合は消炎鎮痛剤の処方を行い、経過を観察します。

術後の生活に大きな制約はありませんが、術後4週間程度は、激しい運動や性交渉を控えるように指導します。傷口からの出血の原因になるため、血流が上がる熱いお風呂やサウナも控えましょう。いきみもよくないため、便秘に気を付けることも大切です。

また、前立腺への刺激をできるだけ避けるため、自転車やオートバイに乗ること、スポーツジムでの自転車こぎなどにも注意が必要です。デスクワークなどで座る時間が長い方は、血のめぐりが悪くなったり、前立腺がうっ血して排尿障害や痛みを引き起こしたりすることがあるため、円座や柔らかめのクッションを取り入れるとよいでしょう。

重ねて激しい運動をすると、血尿が起こることもあります。尿の色を定期的にチェックすることや、血尿により血の塊が尿道を塞がないように十分な水分を取ることも大切です。

排尿の悩みは、年齢を重ねるとどなたでも起こり得るものです。前立腺肥大症は悪性ではありませんが、生活の質に関わってきます。まずはご自身の生活の質をこれ以上悪化させないため、治療にさまざまな選択肢があることや、今回ご紹介したような1週間ほどの入院でできる体への負担が少ない手術があることを知っていただければと思います。

前立腺肥大症の治療はまず薬による治療から始められ、いきなり手術を行うことはありません。また、恥ずかしい、痛いと思われる検査など、患者さんの羞恥心に関わるようなこともご説明なしには行いません。いつまでも若々しく健康的に長生きするためにも、お1人で悩まず、症状を感じたら早期のうちに医師に相談いただき、治療を検討いただければと思います。

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