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前立腺肥大症とは――症状、原因、治療の選択肢について

前立腺肥大症とは――症状、原因、治療の選択肢について
野村 博之 先生

福岡山王病院 泌尿器科 部長、福岡国際医療福祉大学 特任教授

野村 博之 先生

目次
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頻尿、残尿感などの排尿障害をきたす前立腺肥大症は、加齢が原因で起こり、高齢の男性にとっては珍しくない病気です。正しく治療を行うことで、生活の質の低下を抑えることは可能です。どのような検査や治療の選択肢があるのか、福岡山王病院  泌尿器科 部長の野村 博之(のむら ひろゆき)先生にお話を伺いました。

前立腺肥大症は、前立腺が大きくなることで尿の出方や勢いが悪くなるなどの排尿障害が起こる、高齢の男性特有の病気です。

前立腺は膀胱の出口部にある尿道を取り囲み、精液の一部を作る臓器です。正常な前立腺の大きさはくるみ大ほどで、ドーナツ状に尿道を取り囲んでいますが、肥大すると卵やみかんのような大きさになり、“おしくらまんじゅう”をするように尿道を圧迫します。それにより尿がうまく通過しなくなり、さまざまな排尿障害が起こります。

前立腺肥大症
前立腺肥大症

前立腺肥大症は加齢とともに有病率が増加し、日本人男性における推定患者数は55歳以上の5人に1人とされています。前立腺が肥大する原因は解明されていませんが、加齢が危険因子であることは明らかです。ほかにも肥満、高血圧高血糖、脂質異常なども原因として考えられています。

前立腺肥大症の具体的な症状には、夜間や日中のトイレの回数が増える、尿に勢いがなくなる、尿が1回で出せずに途切れ途切れになる、排尿後にスッキリしない、トイレに間に合わず尿が漏れる、などがあります。

前立腺肥大症はゆっくりと進行する病気です。トイレの回数が増える“頻尿”の症状からはじまり、尿が出にくくなる“残尿”の症状、そして残尿が100cc以上、もしくは1滴も出なくなる“尿閉”の症状へと悪化していきます。

患者さんの多くは、就寝中のトイレの回数が増える“夜間頻尿”が受診のきっかけとなっています。夜間頻尿は、睡眠の質が低下するのはもちろんのこと、高齢の方は夜中にトイレに行くときに転倒の危険が伴います。転倒は骨折などの原因にもなり、健康寿命を縮めることにもつながりかねません。さらなる生活の質の低下を防ぐためにも、適切な治療が必要です。

前立腺肥大症が進行すると、尿路感染症尿路結石、尿路上皮がんにつながることがあります。血尿を確認した場合はただちに病院を受診してください。

膀胱に尿が多く残る状態が続くと、膀胱結石が起こることがあります。また尿道が常に圧迫されているため、尿を出すときに膀胱に無理な力が加わります。長期間続くと膀胱の筋肉が発達し、やがて膀胱の変形が起こります。

膀胱が変形すると、腎臓にも影響が及びます。腎臓で作られた尿が膀胱に移動できず腎臓に残り、腎臓のはたらきが低下して“腎後性腎不全”を引き起こします。腎不全により肺に水がたまったり、不整脈の症状が出たり、意識消失が起こることもあります。

膀胱や腎臓の機能は、一度失われると元に戻すことは難しくなります。特に、いきんで尿を出している方などは放置せず早期に受診して治療を始めることが大切です。

まずは国際前立腺症状スコア(IPSS)というチェックシートを活用し、患者さんの問診を行います。以下の7項目を点数化し、排尿障害の中でもどのような症状で患者さんがお困りかを詳しく確認します。

  • 残尿感(尿をした後にまだ尿が残っている感じがあるか)
  • 頻尿(排尿後2時間以内にもう一度行かねばならないことがあるか)
  • 尿線途絶(尿をしているときに何度も途切れることがあるか)
  • 尿意切迫感(尿を我慢するのが難しいことがあるか)
  • 尿勢低下(尿の勢いが弱いことがあるか)
  • 腹圧排尿(尿をするために、お腹に力を入れることがあるか)
  • 夜間排尿(夜寝てから起きるまでに、何回トイレに行くことがあるか)

ほかの病気と区別をしたり、前立腺肥大症の状態をより詳しく診断したりするため、以下のような検査が行われます。当院では患者さんのご希望を伺いながら、体への負担が少ない超音波検査などを行っています。

直腸診 

肛門(こうもん)から指を入れて直腸越しに前立腺を触診し、前立腺の大きさ、硬さ、痛みの有無などを調べます。前立腺炎では強い痛みがあったり、前立腺がんでは硬いしこりに触れることがあったりするため、それらの病気と区別するためにも有効です。

尿検査

尿の濁りや血尿の有無、尿路感染症の有無などを調べます。膀胱結石や膀胱がんにも蓄尿症状が現れるため、前立腺肥大症と区別するためにこの検査が行われます。

尿流測定

トイレ型の検査機器に排尿し、尿の勢いを波形に変えてグラフ化します。排尿量、排尿時間なども数値化され、排尿障害の有無や程度を調べることができます。

残尿測定

排尿直後、膀胱内にどのくらいの尿が残っているかを計測します。超音波で排尿直後の下腹部を調べます。

血清PSA(前立腺特異抗原)測定

採血により、PSAと呼ばれる前立腺から分泌されるタンパク質の濃度を調べます。前立腺がんと区別するために行われる検査です。

前立腺超音波検査

下腹部に超音波を当てて、前立腺の大きさ(体積)をより正確に調べます。前立腺肥大症は、前立腺の体積が20mlまでを軽症、20ml以上50ml未満を中等症、50ml以上を重症とします。

膀胱・尿道内視鏡検査

膀胱鏡と呼ばれる内視鏡を尿道から膀胱内に挿入し、膀胱の形状や前立腺の状態、尿道の閉塞(へいそく)具合を観察します。当院では手術をする際はこの検査を行い、患者さんにモニターで確認してもらいながら治療の説明をしています。

尿流動態検査

尿道から膀胱にカテーテル(細いチューブ)を挿入し、膀胱に生理食塩水を注入して行う検査です。注入時に膀胱の内圧、排尿時に膀胱の収縮圧と尿流の測定を行います。尿道の閉塞具合、膀胱がどのくらい尿を蓄えることができるか、膀胱の収縮力が正常かどうかなどを調べることができます。

この検査は、膀胱の形が大きく変形している方、何度も尿閉を繰り返してしまう方、尿が近い、尿が漏れる、夜間排尿が多いといった蓄尿症状が顕著な方にすすめられます。

前立腺肥大症の治療には、主に薬物治療、自己導尿、手術があります。

まずは薬物治療からスタートし、薬物治療を行っても十分な改善が得られない場合には、自己導尿や手術を行います。

手術を行うかは尿道の狭さに加え、膀胱の力があるかどうかも判断材料となります。たとえば尿道の閉塞が軽い方には手術は行わず、服薬を継続して経過を観察するという選択肢を示すことがあります。逆に閉塞が重い方は、患者さんは薬が効いていると感じていても、自覚症状なく膀胱に負担がかかり続けている可能性があるため、手術もしくは導尿を検討いただきます。膀胱の収縮力が正常に近いうちに手術する必要性をお伝えするのも、私たち泌尿器科専門医の役割と考えています。

薬物治療の第一選択薬は“α1アドレナリン受容体遮断薬”です。前立腺平滑筋にある交感神経受容体を遮断することで前立腺を緩め、尿道の圧迫を軽減して尿を通りやすくします。

尿の勢いが改善されない、尿線途絶が変わらず続く、残尿の量が多いといった場合には、導尿の実施や “5α還元酵素阻害薬”の併用が推奨されます。“5α還元酵素阻害薬”は前立腺の肥大に関係する男性ホルモンの作用を抑え、前立腺を小さくして尿道の圧迫を緩めます。

近年では“PDE5阻害薬”という勃起不全に使われる薬が、前立腺と膀胱の出口にある平滑筋を緩めて尿を通りやすくする作用があることが示され、前立腺肥大症の患者さんにも使われるようになりました。尿道を確保するだけではなく、膀胱のはたらきを改善させる効果があることが特徴です。

副作用については、降圧剤を服用されている方はα1アドレナリン受容体遮断薬により、立ちくらみやふらつきなどが起こる可能性があります。また薬によっては射精障害や腹痛、下痢、筋肉痛などが現れることがあります。

高齢の患者さんはすでにほかの薬を飲まれていることも多いため、薬物治療を始める際は飲み合わせへの配慮が必要です。受診の際はお薬手帳をお持ちいただき、病気や既往歴などと共に、服用中の薬について伝えていただくとよいでしょう。

自己導尿とは、定期的に尿の出口に自分でカテーテル(細いチューブ)を入れて、尿を体外に出す方法です。薬物治療で改善が得られない場合は手術が検討されますが、その前に導尿を1か月程度経験いただくことをすすめています。

ただし、カテーテルを挿入することで膀胱に菌が入り、尿路感染症の原因になることがあります。また継続が困難であったり、生活の質が著しく低下したりすると感じる場合は手術を行ったほうがよいと考えます。その際は患者さんのお気持ちを酌みながら、十分な説明を行ったうえで決定します。

前立腺肥大症手術のほとんどは、尿道から内視鏡を挿入して前立腺を取り除く方法で行われます。主な術式に、経尿道的前立腺切除術(TUR-P)、ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)、レーザー前立腺蒸散術(PVP、CVP)があります。

こちらのページでは、手術の具体的な内容について解説していきます。

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