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コロナ5類移行後の今、親が知っておきたい子どものインフルエンザ対策

コロナ5類移行後の今、親が知っておきたい子どものインフルエンザ対策
勝田 友博 先生

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 小児科 部長

勝田 友博 先生

目次
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提供:Meiji Seika ファルマ株式会社

インフルエンザの勢いは新型コロナウイルス感染症の流行期には一時期下火となっていましたが、新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、従来の生活に戻ったことで、今シーズン(2024~2025年)*もある程度の流行が想定されます。特にお子さんはインフルエンザにかかると一定の割合で重症化する可能性があり、適切な対策が求められます。

今回は、ワクチン接種をはじめとするお子さんのインフルエンザ対策について、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 小児科部長の勝田 友博(かつた ともひろ)先生にお話を伺いました。

*インフルエンザは毎年9月から翌年8月までを1シーズンとする(今シーズンは2024年9月2日から2025年8月31日まで)。

昨シーズン(2023~2024年)はインフルエンザの大きな流行が起こり、A型の2種類が増えた後、1月に入ってB型の流行拡大もみられました。その理由の1つとして直近のインフルエンザの免疫を持たない方が増え、世の中全体の免疫力(集団免疫)が低下していることが挙げられます。これは新型コロナウイルス感染症の流行中に多くの方が人との接触を控え、またインフルエンザワクチンを接種する方が減ったことも影響している可能性があります。

さらに、2023年5月には新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが5類感染症*となったこともあり、人々の行動が通常の状態に戻ってきました。これにより、一時的に罹患者が減少していたインフルエンザをはじめとする感染症が流行しやすい状況になっています。日常生活が戻ってくるとともにインフルエンザの流行も戻ってきたのは、想定どおりといえるでしょう。

5類感染症:国が感染症発生動向調査を行い、その結果などに基づいて必要な情報を国民一般や医療関係者に提供・公開していくことによって、発生・まん延を防止すべきと定められている感染症。

昨シーズンに一定程度の流行があったとはいえ、新型コロナウイルス感染症の流行中にインフルエンザ罹患者やワクチン接種者が減少し、集団免疫が低下した影響は今シーズンも残ると考えられます。さらに、インフルエンザウイルスは変異しやすいことが知られており、過去に感染したことがある方でも、流行するウイルスのタイプによっては繰り返し感染することがあります。このように、インフルエンザが流行しやすい状況に変わりはなく、新型コロナウイルス感染症流行前の平均的なシーズンよりも大きな流行が起こる可能性が懸念されます。昨シーズンの経験を踏まえ、ワクチン接種や流行期の感染予防対策など、社会全体で準備していくことが大切でしょう。

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お子さんがインフルエンザを発症したとしても、全員が必ず重症化するわけではありません。しかしながら、一定の割合で重症化するお子さんがいるのも事実です。重症化すると合併症が起こる可能性があり、その代表格はインフルエンザ脳症です。

国内では、大人も含めた年間1,000万人以上のインフルエンザの患者のうち100~300人程度がインフルエンザ脳症を起こすといわれています。中でも特にインフルエンザ脳症を発症しやすいのは10歳未満のお子さんです1)。発症すると、大人も含めて約8~9%が死亡し、命が助かったとしても後遺症が残りやすくなります2)。前日まで元気に過ごしていたお子さんが急にインフルエンザにかかり、脳症を発症しけいれんや意識障害を起こして、残念なことに亡くなってしまうケースもあります。前年まではインフルエンザにかかったことがない元気なお子さんでも、前触れなく誰にでも起こり得る合併症で、脳症の発症を事前に予測することは難しいといえます。「今までかかったことがないから大丈夫」、「以前かかったけど重症化しなかったから大丈夫」という理論はインフルエンザには通用しないのです。

インフルエンザ脳症を起こしたお子さんのご家族に話を聞くと、多くの場合インフルエンザワクチンを接種していなかったことを悔やんでいらっしゃいます。やはり、ワクチン接種は重症化を防ぐ重要な対策の1つといえるでしょう。

インフルエンザウイルスによって肺炎を起こしたり、二次性細菌性肺炎に感染したりするケースもあります。また、気管支炎のほか、気管や気管支が詰まる鋳型気管支炎によって呼吸状態が悪化してしまう方もいます。特に、肺に基礎疾患がある方などは重症化しやすくなります。

比較的多くみられるのは、中耳炎副鼻腔炎(ふくびくうえん)などの気道感染による合併症です。そのほか、筋炎を起こして筋肉痛を感じる方もいますが、比較的自然に軽快に向かいます。

また、まれではあるものの危険な合併症として、心筋炎が挙げられます。心臓の筋肉に炎症が起こり、心臓の機能の低下(心不全)や、命に関わる不整脈を引き起こす場合があります。

インフルエンザ脳症などの重い合併症の対策の1つとしてワクチン接種が挙げられます。しかし、ワクチンは100%安全と言い切れるものではありません。効果が期待できる反面、副反応のリスクを伴います。そもそも、接種時の痛み自体がお子さんにとって怖かったり、嫌だったりするでしょう。私は日頃から、ワクチン接種にあたっては得られる価値(メリット)と考えておくべきリスク(デメリット)の両面から丁寧にご説明するよう努めています。重症化の可能性については具体的な数字を提示しながらお話しし、ワクチンの副反応についてもしっかりお伝えして、親御さんの判断材料にしていただいています。

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お子さんについては、年齢によって可能な感染予防対策が異なります。小学生以上のお子さんであれば、状況によりマスクをする、手洗いをする、咳をしている人から離れるなど、ある程度自分で必要性を理解し、判断して行動できるでしょう。一方、未就学児にはこうした自発的な行動は難しいという前提に立って対策を講じなければなりません。そのように考えると、ワクチン接種は重要な選択肢の1つとなり得ます。

お子さんのインフルエンザ感染ルートの多くは、保育所や幼稚園、学校、家庭内のいずれかです。インフルエンザが流行し始めると、保育所や幼稚園、学校から流行情報が発信されるでしょう。こうしたお子さんの周辺情報をタイムリーに把握し、どのくらいのリスクが迫っているのか理解しておくことは、状況に合った対策を講じるために欠かせません。

また、家庭内での感染予防対策も重要で、一般的にインフルエンザはお子さんが家庭内に持ち込むことが多いといわれていますが、大人の感染予防もお子さんの感染予防につながります。親御さんにはワクチン接種をはじめ、状況によりマスクを着用する、人混みを避ける、きちんと手洗いをする、咳をしている人から離れるといったさまざまな対策から適切に選択し、行動していただきたいと思います。流行のピーク時期には家庭内でも特に対策を強化するなど、メリハリをつけて対応されるとよいでしょう。

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インフルエンザは流行株が毎年変化するため、過去にワクチンを打った方、インフルエンザに感染した方でもそのシーズンの流行株に対する免疫を持っているとは限りません。流行株に対する免疫がなければ感染する可能性があるため、毎年のワクチン接種が推奨されているのです。

一般的なインフルエンザワクチンは不活化ワクチン*で、効果持続が期待できる期間は接種後約2週間から約5か月です。日本では例年12月頃からインフルエンザが流行するため、それまでに接種を済ませておくことが重要です。また、ワクチン接種でより高い効果を得るためには社会全体で多くの方が適切な時期に接種を完了し、集団免疫を形成しておく必要があります。このように考えると、例年より早めに流行する可能性を念頭に置いて10月を接種開始の目安とするとよいでしょう。早期に接種を完了しておけば、流行時期が多少早くなっても対応できます。さらに、直近の流行情報の入手に努め、流行がより早まるようなら接種時期の前倒しも検討していただきたいと思います。

なお、直近のトピックスとして、2024年から新たに両鼻腔内に各1回噴霧して接種する生ワクチン**が使用できるようになりました。注射ではないため接種時のお子さんの負担を抑えられます。また、生ワクチンは免疫を獲得しやすく持続しやすいという特徴があるため、流行前の早い段階から接種してもシーズン終盤まで効果が期待できるでしょう。ただし、この経鼻生ワクチンは接種対象が2歳から19歳未満に限られており、免疫が低下している方や妊婦さんは接種することができません。

*不活化ワクチン:ウイルスや細菌の毒性や感染力を失わせたものを利用したワクチン。

**生ワクチン:ウイルスや細菌の毒性や感染力を弱めたものを利用したワクチン。

ワクチンの同時接種は必要とされる医療行為であり、ためらうべきものではありません。同時接種によって副反応が増幅したり、効果が低減したりするのではないかと心配される方もいるかと思いますが、その恐れはほとんどありません。むしろ、接種を予定しているワクチンがあれば速やかに接種し、必要なタイミングで遅れることなく免疫を獲得することのほうがより重要といえるでしょう。インフルエンザワクチン(不活化ワクチン、経鼻生ワクチン)は、どのワクチンとの組み合わせでも医師に相談のうえで同時接種できます。

65歳以上の高齢者や、60~64歳で特定の病気がある方(おおむね、身体障害者障害程度等級1級に相当する方)は定期接種の対象であり、少額の自己負担または無料で接種できますが、そのほかの方は生後6か月未満の乳児を除き任意接種であり、原則全額自費負担となっています。金額は医療機関によって異なりますので、詳しくは医療機関に直接お問い合わせください。また、お子さんの接種費用を助成している自治体もあるため、問い合わせてみるとよいでしょう。

よく起こる副反応

よく起こる副反応として、接種部分の痛みや腫れなどの局所反応が挙げられます。こうした症状はおおむね数日で自然に治まります。また頭痛、発熱などの全身症状が起こるケースもありますが、こちらも数日で軽快に向かうため2日程度は様子を見てもよいでしょう。

まれに起こる副反応

非常にまれですが、短時間で全身にアレルギー反応が現れる“アナフィラキシー”や、筋力低下、しびれなどの症状が現れるギラン・バレー症候群という病気などを起こす方もいます。

受診の目安となる症状

腕に痛みや腫れがあるものの食事も睡眠も取れており、普段どおりの生活が送れているようなら様子を見ていても問題ないでしょう。一方、好きな遊びに興味を示さない、明らかにぐったりしていていつもと様子が違うといった状態が何日も続くようなら、受診を強くおすすめします。

お子さんが最初にワクチン接種を受ける際に、接種後どのような症状が出たら受診すべきか、かかりつけ医に相談しておくとよいでしょう。

経鼻生ワクチンの接種に関する注意点

インフルエンザの経鼻生ワクチンは、接種後に喉の痛み、微熱などインフルエンザのような症状が現れることがあります。ご家族の中に免疫が低下している方がいらっしゃると、ワクチンとして接種したインフルエンザウイルスがその方に感染する可能性があるため注意が必要です。

明らかに発熱している(37.5度以上)場合には接種できません。また、インフルエンザワクチンでアナフィラキシーを起こした経験のある方は接種してはいけないとされています。

なお、インフルエンザワクチンの製造には卵が使われていますが、製剤に含まれる鶏卵タンパク質はごく微量なので卵アレルギーがある方でも接種できます。ご心配であれば、接種後30分程度医療機関にとどまり、様子を見てから帰宅されることをおすすめします。

過去には添加物のエチル水銀(チメロサール)が自閉症を引き起こす可能性があるとの報告(論文)がありましたが、その後各国で追加調査が行われ、自閉症の発症リスクはないとの結論が出て、その報告は撤回されました。国内で使われているインフルエンザワクチンにはエチル水銀が含まれているものと含まれていないものがありますが、特段気にする必要はありません。

インフルエンザワクチンには、ウイルスに感染したとしても“発症を抑える”効果と、発症したとしても“重症化を防ぐ”効果が期待できます。このうち“発症を抑える”効果はワクチンの株が流行株と合致したかどうかなどによって異なりますが、乳幼児で20~60%といわれています3)麻疹(ましん)風疹(ふうしん)のワクチンと比べて若干低いのは一般にも知られているとおりです。しかし、インフルエンザワクチンには“重症化を防ぐ”効果が期待できます。発症したとしてもインフルエンザ脳症肺炎などの重い合併症を起こさず、順調な回復を目指すために重要な対策といえるでしょう。

なお、“発症を抑える”効果を表わす数字の意味は次のとおりです。例として“発症を抑える”効果が50%という場合、ワクチンを接種しなかった方の発症率よりも接種した方の発症率が相対的に50%低くなるということを意味しています。つまり、ワクチンを接種せずにインフルエンザを発症した方のうち50%は、ワクチンを接種していれば発症を防げたと考えられるのです。

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お子さんがインフルエンザと診断されたとしても、もちろん油断はできないものの、必ずしも重症化するわけではありません。適切な治療を受け、ご家庭では症状の変化を注視して対処すれば、過度に恐れる必要はないでしょう。ただし、一定の割合で重症化のリスクがあるため事前の準備は重要です。

ワクチン接種は事前準備の1つですが、本当に効果があるのかという疑問、副反応に対する不安をお持ちの親御さんもいらっしゃるでしょう。ワクチンを接種すること、接種しないことの両方にそれぞれメリット、デメリットがあります。具体的にいえば、ワクチンを接種すれば重症化予防が期待できる反面、接種時には痛みがあり、副反応のリスクが生じます。一方、接種しなければ痛みや副反応は回避できる反面、インフルエンザに対して無防備な状態、すなわち“傘をささずに雨の中を歩く”ようなことになり、発症したときに重症化する可能性があります。

ワクチン接種を検討される際にはかかりつけ医とよく相談し、疑問や不安があれば質問してクリアにしてください。接種するメリットとデメリット、接種しないメリットとデメリットをしっかり理解し、納得して選択することが大切です。インフルエンザの重症化リスクもワクチンの副反応リスクも適切に恐れ、適切に準備していただきたいと思っています。

参考文献

  1. 国立感染症研究所 「急性脳炎(脳症を含む)サーベイランスにおけるインフルエンザ脳症報告例のまとめ」https://www.niid.go.jp/niid/ja/encephalitis-m/encephalitis-idwrs/9315-encephalitis-200117.html
  2. 厚生労働省 インフルエンザ脳症研究班 「インフルエンザ脳症ガイドライン【改訂版】」https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/hourei/2009/09/dl/info0925-01.pdf
  3. 厚生労働省 令和5年度インフルエンザ Q&A https://www.mhlw.go.jp/content/001158487.pdf

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