東京都府中市にある東京都立小児総合医療センターは、都内における小児医療の拠点として専門的で緻密な小児医療を提供する医療機関です。“こどもまんなか”の精神でこどもたちの成長とともに歩む医療を追求する同院の役割や思いについて、院長の山岸 敬幸先生に伺いました。
東京都立小児総合医療センターは、東京都立の清瀬小児病院、八王子小児病院、梅ヶ丘病院精神科、府中病院小児科の4つを統合し、2010年に開設されました。当院は東京都立多摩総合医療センターと同じ敷地内にあると同時に建物自体もつながっており、このエリアは“多摩メディカルキャンパス”と呼ばれています。キャンパス内には、そのほかに東京都立神経病院、東京都立府中療育センターがあります。当院はこれらの施設と互いに連携を強化し、小児患者さんはもちろん職員にとっても快適な環境づくりに尽力してきました。
当院は36の診療科と561床の病床(一般病床347床、精神科病床202床、結核病床12床)を備え、小児の病気に関しては幅広く受け入れが可能です(2024年7月現在)。また東京都こども救命センターや小児がん拠点病院にも指定され、府中・多摩エリアを中心とした都内の小児医療において中核的な役割を担っています。
当院は、小児の病気に関わる診療科を幅広く備え、それぞれの分野で経験を積んだ医師たちが診療にあたります。一般の医療機関では対応の難しい先天性の心疾患や脳神経疾患、筋疾患、小児がんといった希少疾患や難治性疾患に対して専門的な診療を行うほか、重篤な症例に関しては診療科の垣根を越えた集中治療チームが治療に尽力しています。また、こどもの心身を両面からサポートできるよう、同じ建物内にあるこころの診療科とからだの診療科の協力体制を強固に構築しています。
救命救急においては、可能な限り救急車からの受け入れ要請は断らない運用としており、救急車の受け入れ(救急需応率)は97.9%(2023年4月~2024年3月)となっています。
救急対応においては、総合診療科と救命救急科、集中治療科が連携を取り、患者さんのトリアージを迅速に行っています。緊急手術が必要な場合は救命救急科で、内科的な治療で済む場合には総合診療科で診るといった形で、スムーズに医療を提供できる体制を整えています。また、移動が難しい重症の患者さんに対応するためにドクターカーを配備するとともに、従来の呼吸・循環補助法で生命が維持できない患者さんに対してはECMO(エクモ:体外式膜型人工肺)を搭載した車両での搬送も可能です。
こどものメンタルヘルスの問題は世界的な課題となっており、日本でも不登校や発達障害、摂食障害といった精神的な領域の問題の低年齢化が懸念されています。実際、思春期や青年期に精神疾患にかかることは決して珍しくありません。
このような背景を踏まえ、当院では児童・思春期精神科の症例にもトリアージシステムを導入し、不安から来る登校拒否の問題から重篤な精神疾患まで、児童・思春期精神科医療チームが専門的に治療にあたっています。小児医療では、心と体を切り離して診ることはできません。身体的な病気で長期入院になると心の成長に問題が出てくる可能性があり、また心の問題が身体に悪影響を与えることもあるのです。そのような事態に対応するため、医師、看護師、臨床心理士、ソーシャルワーカーなどで構成されたリエゾンチームが、患者さんの心と体を総合的に診療し、問題に早期介入することでこどもたちの健やかな成長に寄与できるよう日々尽力しています。
当院は小児医療に特化した病院のため、原則として初診時の年齢を中学3年生まで(児童・思春期精神科のみ、初診時の年齢を18歳未満)としています。しかしながら、病気によっては思春期や成人期以降も継続的な治療と管理が必要な場合も多くみられます。特にAYA(Adolescent and Young Adult)世代と呼ばれる15歳から39歳までの患者さんは、適切な医療サポートが受けられないと病気が悪化してしまうがあり、注意が必要です。
このような課題を背景として当院には東京都からの委託を受けて“東京都移⾏期医療支援センター”が設置され、私たちはこどもから大人へ成長する過程で適切かつ安心な成人医療を受けられるようサポートしています。これを“成人移行支援”と呼び、多職種が協働でプログラムを実施するなどして、小児患者さんが自分で薬や生活の管理を行える、治療を決定できる、健康状態を説明し周囲に助けを求められる、将来的な出産に関する影響を理解できるといった状態を目指します。
小児医療は本人に加えて家族とも密接に関わるという点は大きな違いです。また先天性疾患のある患者さんが成長し、妊娠や出産を迎える世代になったとき、安全な妊娠や出産が可能なのかという点や、生まれてくるこどもへの影響なども考慮する必要があります。このように現代の小児医療では、より深く緻密な対応が求められる難しい点がありますが、一方、これはやりがいでもあると思っています。
少子化が社会的問題となって久しいですが、今後も、こどもの数が減少に向かう状況でも、小児医療のニーズがなくなることはありません。むしろ全国的に小児科の縮小や廃業が続けば、当院のような高度専門医療施設がこどもたちの医療や療養を支える責務は大きくなっていくでしょう。小児科医の不足も全国的に課題となっており、さらに働き方改革の影響もあり、地域の小児医療を今後も維持し発展させるためには、医療機関ごとの役割分担も重要になっています。そのような視点からも、こどもたちの今と未来を見つめ、支え、守っていきたいと思います。職員一同、今後も日々の診療に真摯に向き合う所存です。