関節リウマチは、免疫異常によって主に関節に炎症が起こり、手足に痛みや腫れ、こわばりなどの症状をもたらす病気です。2000年前後から新しい機序の薬が登場するなど、近年は薬物療法が大きく進歩し、病気をコントロールできるようになってきました。気になる症状があれば早期に診断を受け、適切な治療を開始することが重要です。
今回は、横須賀市立うわまち病院 アレルギー・膠原病内科の増岡 正太郎先生 に、関節リウマチの症状から検査・診断、治療法まで幅広くお話を伺いました。
関節リウマチでは、関節の中でも特に手足の指や手首などに痛みや腫れなどの症状が現れます。一般的に女性に多く、30~40歳代で発症する方が多いとされていますが、近年では高齢の患者さんも増えています。社会全体の高齢化が進んでいることや診断技術の向上によって病気を見つけやすくなったことが影響していると考えられます。
関節リウマチの原因は明らかになっていませんが、さまざまなリスク因子が分かっています。まず遺伝的素因として、ご両親から関節リウマチになりやすい体質を受け継ぐと発症する可能性が高まります。しかし、遺伝的素因があれば必ず関節リウマチを発症するわけではありません。また、EBウイルス*などによる感染症や喫煙、歯周病、腸内細菌叢など環境因子の関与も指摘されています。つまり、関節リウマチは単一の要因によるものではなく、遺伝的素因に種々の環境因子が総合的に関わり合って発症すると考えられているのです。
*EBウイルス:咽頭痛(いんとうつう)、頭痛、発熱などの症状をきたす伝染性単核球症の原因となるウイルス。
初期に現れやすい症状として特に多いのが、朝起きたときの手のこわばりです。また、関節痛は手指の第2関節(PIP関節)や付け根の関節(MCP関節)に現れるケースが多く、指先の関節が痛むことはほとんどありません。手首、足の指も関節痛が出やすい部位です。そのほか、顎関節、頚椎、股関節、膝関節などに症状が現れる場合もあります。
朝の手のこわばりが長時間続く場合や、上記のような部位の関節痛が持続するときには、関節リウマチの可能性があるため、医療機関を受診されたほうがよいでしょう。
関節リウマチでは、関節以外の症状として、関節炎が強いときには発熱がみられることがありますが、一般的にあまり高熱にはなりません。そのほかにも皮膚症状などが出ることがあります。皮膚症状としてリウマチ結節という、皮膚の下に現れる隆起状の病変がみられることがあります。生じやすいのは肘や手首など骨が外部からの物理的刺激を受けやすい部位で、ある程度病歴が長い方に多くみられます。
関節リウマチの疑いがある方には、診察に加えて血液検査やX線、超音波(エコー)、MRIなどを用いた画像検査を行います。
血液検査では、炎症反応を表すC反応性蛋白(CRP)や赤血球沈降速度(ESR)のほか、関節リウマチに特有の変化を確認するためリウマトイド因子や抗CCP抗体も調べます。関節リウマチがある方の多くはリウマトイド因子、抗CCP抗体が陽性になります。
超音波検査では、血流の変化を捉えることで炎症が生じている部位を確認できます。滑膜*という関節組織の炎症の状態や炎症の広がりを把握する目的で行います。滑膜の炎症は骨の変化よりも前に起こるため、早い段階で変化を捉えやすく、比較的簡便に行える点がメリットといえるでしょう。
一方、X線検査では、発症後しばらくしてみられる関節の隙間の狭小化や、その後生じる関節周囲の骨の欠損(骨びらん)など、骨の変化を確認できますが、疾患初期にはX線検査の異常がみられないことが多々あります。そこで、前述の関節超音波(エコー)検査やMRI検査を行うことで、X線検査では見つけづらいごく初期の変化を捉えられるケースもあります。
*滑膜:関節の周囲を覆う薄い膜で、関節を滑らかに動かすためにはたらく関節液を分泌する。
血液検査や画像検査は、経過観察時にも必要に応じて行います。たとえば1か月おきに受診される方であれば、血液検査で炎症反応を表すCRPやESRを毎回測定し、関節リウマチの活動性(関節の痛みや腫れ、変形を引き起こす炎症の程度)を確認します。超音波検査は関節の痛みが悪化したときなど症状の変化に応じて行い、その時々の炎症の度合いを把握します。外見上関節の腫れが現れていない段階でもわずかな炎症所見を得られる場合もあり、治療方針を検討するうえで大切な手がかりとなります。 X線検査は患者さんの状態によって年に1~2回程度、骨の病変の進行度を確認する目的で行います。
なお、ほかの病気と同様、関節リウマチの受診頻度も一人ひとりの状態によって大きく異なります。治療を始めたばかりであれば2~3週間に1回受診いただき、状態を確認しながら薬を細かく調整していく必要があります。一方、治療歴が長く症状が落ち着いている場合など、2~3か月に1回程度の受診でよい方もいるでしょう。
関節リウマチには基礎療法、薬物療法、リハビリテーション、手術などの治療法があります。根治的な治療はまだないため、症状を抑えるための治療を行っていきます。
基礎療法とは生活習慣の改善を指します。喫煙は関節リウマチの発症リスクを高めることが分かっています。また、喫煙を続けていると症状が悪化しやすくなるため、禁煙を強くおすすめしています。そのほか、歯周病も治療効果に影響を及ぼすため、歯科でしっかり治療されたほうがよいでしょう。
関節リウマチの薬物療法の中心は、関節の炎症や破壊を抑える抗リウマチ薬です。抗リウマチ薬の選択肢はいくつかありますが、第一選択とされるのがメトトレキサートです。また2000年以降、生物学的製剤という注射薬やJAK阻害薬という飲み薬が新たに登場しています。そのほか、補助的にステロイドや痛み止めなども使います。薬は治療効果のほか副作用のリスクや費用などを考慮し、患者さんの希望を聞きながら選択しています。
関節リウマチと診断された際、基本的に最初に使われるのがメトトレキサートです。ただし、たとえば腎障害、間質性肺疾患*などの肺の病気、貧血などの血液異常といった病気があり、使用が難しい患者さんもいます。そのような場合には別の抗リウマチ薬を選択します。
メトトレキサートで症状の改善がみられれば、単剤での治療を継続します。一方、メトトレキサートのみでは十分な効果が得られないときには、ほかの抗リウマチ薬を併用します。特に症状が強く出ている方や病気の進展、悪化のリスクが高い方には、早期から生物学的製剤やJAK阻害薬を追加するケースもあります。
*間質性肺疾患:肺を支える役割を担う間質という組織に炎症が起こる病気。
生物学的製剤は9種類が使用可能です(2024年8月時点)。はたらきによって、大きくTNF阻害薬、IL-6阻害薬、T細胞共刺激分子調節薬に分けられます。このうち最初に使われるようになったのはTNF阻害薬で、炎症を引き起こすサイトカインの1つであるTNFの作用を阻害することで炎症を抑えます。IL-6阻害薬も同様に、IL-6という炎症性サイトカインの作用を阻害して炎症を抑えます。また、T細胞共刺激分子調節薬は、関節リウマチの免疫異常を引き起こすT細胞というリンパ球のはたらきを抑える薬です。
生物学的製剤は一般的に治療効果が高いとされていますが、薬価が高額であることは一つのデメリットといえるでしょう。ただし、最近は比較的薬価が抑えられたバイオシミラー*もあるため、以前よりもかなり使いやすくなってきています。また、高額療養費制度などを利用し、自己負担を抑える方法もあります。
*バイオシミラー:先行して発売されたバイオ医薬品(生物の力を利用して作られるタンパク質を有効成分とする薬)とわずかな構造の変化があるものの有効性や安全性は同等であると認められている医薬品。
炎症性サイトカインによる刺激を細胞内に伝達するJAK(Janus kinase(ヤヌスキナーゼ))という酵素のはたらきを阻害することで炎症を抑える薬です。生物学的製剤と同様、治療効果は高いとされていますが、やはり経済的負担が大きい点はデメリットといえるでしょう。
ステロイドは関節の破壊を抑える作用はないとされているものの、炎症や免疫の抑制に即効性があるため、症状が強く出ている方の治療に補助的に使う場合があります。長期間の使用により、種々の副作用が問題になることもある薬ですが、最近は、前述の生物学的製剤やJAK阻害薬を使用し、ステロイドに過度に頼らない治療ができる方が増えています。また、関節の痛みや腫れを軽減する目的で、痛み止めも補助的に用いることがあります。
リハビリテーションも関節リウマチの症状改善につながるため、患者さんの状態に合わせて取り入れています。
また、近年は薬物療法が進歩しており、手術を必要とする状態まで重症化する患者さんは少なくなっています。しかし、症状や患者さんの希望によっては手術を検討することもあります。たとえば、膝関節の痛みが改善せず歩くのに不自由する場合では人工関節置換術を検討するケースもあります。また、手指や足の関節の変形を改善して趣味などを楽しみたいという希望がある際は、手術が可能か整形外科に相談する場合もあります。
当院には長期間治療を続けて症状が落ち着いている方を含め、さまざまな患者さんが通院されています。地域のクリニックからのご紹介にも対応しており、難治性の方やご高齢で合併症のある方、生物学的製剤、JAK阻害薬による治療を必要とされている方も受け入れています。地域のクリニックの先生方に関節リウマチの患者さんの紹介先としてより広く認知していただけるよう、さらに努力していかなければならないと考えています。
また、当院は2025年3月に久里浜地区へ移転し、横須賀市立総合医療センターとして新たに開院する予定です。移転を機に、久里浜地区の患者さんにも適切な治療をお届けしていきたいと考えています。
多くの患者さんは関節の痛みを取って元どおりの生活を送りたい、仕事に戻りたいといった希望をお持ちです。できるだけ早く症状を改善し、可能な限り希望をかなえられるような治療を心がけています。
関節リウマチの薬物療法は大きく進歩し、治療選択肢が増えてきていますが、中には生物学的製剤を複数試してもなかなか症状がよくならず、つらい思いをされている患者さんもいます。しかし、薬を変えながら粘り強く治療を続けていくうちに突如としてその方に合った薬が見つかり、みるみるうちに効果が現れてくるケースがあります。そのようなときの患者さんの喜ぶ姿は、関節リウマチの治療に携わる者として深く心に刻まれています。
関節リウマチにはまだ根治的な治療がなく、症状を抑えるための治療として薬物療法が進歩してきました。高い治療効果が見込める新たな薬も登場していますが、高額なものも多いために十分な治療を受けられない方がいらっしゃることは残念に思っています。生物学的製剤はバイオシミラーも承認され始めていますが、今後はさらに多くの患者さんがよりよい治療を選択できるようになることを期待しています。
朝の手のこわばり、関節の痛みや腫れなど、関節リウマチを疑う症状が続いている場合は、早めに受診されることをおすすめします。病気が進行すると関節が破壊され、一度ダメージを受けた関節は完全には回復しません。近年は薬物療法が大きく進歩していますので、関節の破壊に至る前に早期に診断を受け、適切な治療を開始していただきたいと思います。
また、地域のクリニックの先生方においては、関節リウマチを疑う患者さんがいらっしゃればお気軽に当院へご紹介いただければと思います。
増岡 正太郎 先生の所属医療機関
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