広島県廿日市市に位置するJA広島総合病院は、地域に根差した良質な医療を提供しています。高齢化や人口減少に対応するため、2016年からは保健・医療・福祉サービスを総合的に提供する“廿日市メディカルタウン”の完成を目指してまちづくりを進めています。
2024年3月に病院南棟が完成し、ますます発展を続ける同院の取り組みや今後の展望について、1988年から36年間にわたり病院の変遷を見守っていらした石田 和史(いしだ かずふみ)病院長にお話を伺いました。
当院の歴史は、1946年に4診療科(内科、外科、耳鼻科、歯科)、60床を有する“農業会佐伯病院”としてスタートしました。1966年には総合病院として認可され、以来70年以上にわたって広島県西部の地域医療を支え続けています。
現在は、病床数531床、20以上の診療科を有する総合病院として、地域の中心的な病院へと成長しています。2011年には、24時間体制の地域救命救急センターを設置し、現在では毎年4,000件以上の救急搬送を受け入れています。また、地域医療支援病院、地域がん診療連携拠点病院、災害拠点病院などの指定を受け、地域の医療ニーズに応えられるよう邁進しています。2024年3月には新しく南棟が完成し、さらに充実した医療を提供できるよう体制を整えました。
当院は、地域救命救急センターを設置しており、廿日市市や広島市を中心に二次救急(入院や手術が必要な重症者)から、さらに三次救急に匹敵する重症患者も受け入れています。私たちは“地域で困っている患者さんをお断りしない”ことを目標としており、24時間体制で診療にあたっています。
当院は、がん診療連携拠点病院として、診断から治療、緩和ケアまで一貫した診療を行っています。
治療においては、できるだけ患者さんの体の負担が少ない、優しい治療を目指して取り組んでいます。放射線治療では、2001年より前立腺がんに対し中国・四国地方ではじめての強度変調放射線治療(IMRT)を開始し、2009年には肺がん・肝がんに対し体幹部定位放射線治療(SBRT)を開始しました。これらの治療は、放射線を病巣部にのみ集中させ、周囲の正常組織に極力当たらないようにするピンポイント照射の治療法です。
2024年5月には手術支援ロボット・ダビンチを導入しました。泌尿器科の手術から稼働をスタートしましたが、現在は消化器外科・呼吸器外科にも拡大しています。今後、がん診療においても低侵襲(ていしんしゅう・体への負担が少ない)な治療法として選択肢が広がることが期待されます。
2009年には緩和ケア科も開設しました。緩和ケア科では、がん患者さんの身体的・精神的苦痛などについて医師をはじめ緩和ケア認定看護師(日本看護協会認定)、薬剤師、臨床心理士などが多職種で支えています。また、“おしゃべりサロン”“膵がん・胆道がん教室”など、患者さんやご家族を総合的に支える取り組みも積極的に実施しています。
2008年より、地域における糖尿病治療の質を向上させる取り組みを行っています。糖尿病治療において重要となるのは、患者さんご自身による日々の療養です。そこで私たちは、患者さんが自ら決めた食事や運動などの具体的な行動目標や検査データを地域の医療機関と共有する“糖尿病連携パス”を開発しました。
糖尿病連携パスは、患者さんと医療スタッフが具体的な目標を設定し、半年ごとの受診時に振り返りと見直しを行います。これにより、当院のスタッフ(医師、看護師、管理栄養士など)と地域の医療機関が密接に連携し、患者さんを継続的に支援することが可能になりました。実際にこの連携パスを利用している患者さんでは、血糖コントロールが改善しただけでなく、適切な食事・運動療法の実践による体重管理にも成功しています。
また地域の医療の質を維持・向上させるため、4か月ごとに多職種による研修会を開催しています。研修会の目的は、地域の医療者のニーズに基づいた実践的な学習の場を提供し、新しい治療法や薬剤の適切な使用法などについて情報共有を行うことです。
15年間の取り組みが実を結び、2021年以降は糖尿病に起因する合併症の発症率が顕著に減少し、糖尿病による身体障害者手帳の交付者数の減少という社会的な効果として現れています。この取り組みは、地域における糖尿病治療の標準的なアプローチとして高い評価を受けており、今後も新しい治療法や薬剤の登場に合わせて研修会を実施していく予定です。地域の医療機関との信頼関係を基盤に、さらなる医療の質向上を目指してまいります。
私たちにとって、患者さんの“待ち時間の解消”は重要な課題の1つです。一般的に規模の大きな病院では「待つのが当たり前」と思われがちですが、当院はその“当たり前”を変えていきたいと考えています。
当院では、待ち時間の短縮と各所要時間のスケジュールをある程度明確にすることで、受診のストレス軽減を図っています。たとえば、採血の結果が出るまでの時間、レントゲンや心電図の所要時間など、検査や診察にかかる時間をデータで“見える化”しており、それにより待ち時間を極力抑えてスムーズな診療が行える正確な予約時間の設定を可能にしました。
この取り組みにより、最近では患者さんから「今日は患者さんが少ないのですか?」と聞かれることもありますが、実は患者数は以前から大きく変わっていないのです。患者さんからこうしたお声をいただくことは、この取り組みが上手くいっている証拠であり、私たちにとっても励みになります。
2014年に廿日市市・広島厚生連と当院との間で“廿日市市地域医療拠点等整備に関する基本協定”が結ばれて以来、当院は廿日市市および地域の医療機関の先生方と共に“メディカルタウン構想”を推進してまいりました。これは、地域医療の新たな形を目指す大きな挑戦でした。
まず廿日市市の全面的なバックアップにより、当院の南棟屋上に新たにヘリポートが整備されました。海や山を有する廿日市市の地理的な特性を踏まえて、宮島での緊急事態や、山間部での救急に迅速に対応できる体制を整えています。現在は月に2件ほどの救急搬送に活用されているほか、災害拠点病院として、有事の際の救援物資受け入れ拠点としての機能も担っています。
また、地域医療福祉の拠点として整備された官民複合施設には、サービス付き高齢者施設、保育園、クリニック、コンビニエンスストア、農協が入居し、活気ある医療福祉ゾーンとして機能しています。こちらの施設では急性期治療後の患者さんがスムーズに介護・福祉サービスを受けられるよう、建物の間を廊下で接続するなどの工夫をしております。
当院では現在、より快適な医療環境を提供するため、大規模な施設整備を進めております。新病棟の建設と既存棟の改修を段階的に行っているため、一時的に建物間の移動距離が長くなるなど、ご不便をおかけしている状況がございますが、患者さんのご負担を最小限に抑えられるよう、全スタッフがきめ細やかな配慮と工夫を重ねており、完成後はより効率的で使いやすい動線が実現する設計となっています。工事期間中はご不便をおかけいたしますが、よりよい医療施設となることへのご理解とご協力を、どうぞよろしくお願い申し上げます。
当院は広島県西部における良質な医療の提供を目指して、下記の“3つのよかった”を提唱しています。
病院は患者さんが楽しみに訪れる場所では決してないことを、私たちは深く理解しています。しかし、人生のなかで誰もが体調を崩したり、不安を感じたりするときがあります。そんなとき、「当院を訪れてよかった」「ここで診療を受けて少し元気になれた」と、そう感じていただける病院でありたいと願っています。
また、当院で働くスタッフにも、患者さんを紹介してくださった医療機関からも「よかった」と言っていただけるような病院を目指しています。
私たちは日々、患者さんの心と体の両方を癒やすことができるような医療の提供に努め、皆さまの健康と笑顔のために、これからも精進してまいります。
*提供している医療の内容や医師および、病床数や診療科など本文中の数字は全て2024年11月時点のものです。