埼玉県日高市にある武蔵台病院は、整形外科に強みを持つ病院です。骨粗鬆症の予防・治療に力を入れており、積極的な啓蒙活動も行っています。
近年は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を用いた働き方改革も積極的に行い、業務効率の改善に成功しています。また、患者さんに身近な病院となるよう、SNSなどでの情報発信にも積極的に取り組んでいます。同院の地域での役割や今後について、理事長である河野 義彦先生に伺いました。
当院は、1978年に埼玉県日高市で一般病床45床の病院としてスタートしました。地域のニーズに合わせ、地域包括ケア病床の設置や、回復期リハビリテーション病棟の開設など診療体制の拡充に努めてきました。2004年の改築を経て、現在は一般病棟52床、回復期リハビリテーション病棟47床の計99床となり、地域密着型の病院として地域医療に貢献できるよう日々尽力しています。
特に力を入れている診療科は整形外科で、当院では、“骨粗鬆症リエゾンサービス”というシステムを設け骨粗鬆症の診療に取り組んでいます。痛みが生じないことから、治療の緊急性を感じてもらいにくいことが多い骨粗鬆症ですが、その治療と予防のための情報発信を行っています。
また、近年は病院内のDX化も積極的に推し進めており、院内コミュニケーションツールとしてチャットシステムを導入し、患者さんへの情報発信にSNSを活用するなど、定期的な情報発信や業務効率の改善を行っています。DX化によって、スタッフの負担軽減や、患者さんの来院率向上などの成果が表れているため、今後も引き続き積極的な導入を検討しています。
当院では、DX化を積極的に推進し、特にコミュニケーション改革に注力してきました。主な取り組みの1つとして、ビジネスチャットツールである“Chatwork”を導入しました。
従来、連絡にはPHSやEメールを使用してきました。しかし、着信による外来診療の中断や、メールでは一方的なコミュニケーションとなることも多々あり、オープンな議論ができないなどの課題がありました。それらを解決する手段として導入したChatworkは、チャット形式でのやり取りとなるため非常に簡便で、相手の業務を中断することなく即時性の高い情報発信・共有が実現しました。
実際に、効果測定を行った結果、休日夜間の緊急連絡においても8時間で65%、16時間で82%という高い情報到達率を記録しています。特にコロナ禍では、正確な情報発信や、感染したスタッフのメンタルケアにも活用し、組織の一体感醸成に大きく寄与していると考えています。
また、現在は職員だけでなく外注業者とのコミュニケーションにも用いています。手術室の管理や備品発注の場面でも業務効率の改善効果が表れており、年間で850時間の業務時間削減することができました。チャットを通じて連絡を受けた業者の方から提案を受けるなど、想定していた以上の効果が出ています。
当院のDX推進は、単なる業務効率化にとどまらず、医療の質の向上と職員の働き方改革を両立させる重要な取り組みとなっています。
骨粗鬆症は、痛みがないため骨折まで至らなければ自覚症状に乏しい疾患であり、治療継続率の向上が大きな課題でした。そこで、当院では2016年から“骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS)”を設置し、現在はリエゾンマネージャー(17名)や理学療法士で運用しています(2024年11月時点)。リエゾンマネージャーは、診療におけるコーディネーターの役割を果たしています。カルシウムチェックシートや、こつこつ日記による生活習慣の見直し支援を行い、骨粗鬆症の予防に努めています。
また、治療を継続するうえでは、通院手段が限られているなど交通の問題が壁になることがあるため、当院では2週間に1回のペースで送迎サービスを実施しています。さらに、LINEや電話で通院のお知らせをするなど、治療継続のための細やかなフォローを実践しています。
そのほか、地域企業と連携し、カルシウムの吸収を促進するビタミンDを含んだ“骨こつ娘”というまんじゅうを開発しました。地域企業との協力を通じて、骨粗鬆症の予防促進、啓蒙活動に取り組んでいます。
2021年4月からは、新たにLINEを活用した患者支援を開始し、積極的な情報発信を行っています。疾患に関するコラムや受診日リマインドなど、患者さまの利便性向上に努めています。
患者さんは、定期的に情報を得ることができますし、チャットツールを使用することで、当院やOLSをより身近に感じてもらえるようになったのではないかと思います。実際に、治療継続率は90%という高い成果が出ています。
骨粗鬆症の予防には、日々の食事から取る栄養、運動、そして治療の3つが大切です。“薬だけ飲んでいればよい”というわけではありません。痛みのない疾患だからこそ、いかに注意を向けるかが大切ですので、今後も患者さんを点ではなく面で支える活動を積極的に行い、予防医療を推進してまいります。
当院では、変形性股関節症や変形性膝関節症に対する人工関節置換術や、脊椎外科手術、手指の痛みなど機能障害に対する手術など幅広い治療に対応しています。迅速な診断・治療からリハビリテーションまで一貫した治療が可能であり、その後の骨折予防まで力を入れているため、“治療して終わり”ではない継続的なサポートで患者さんを支えています。
幅広い診療経験を有する整形外科専門医(日本整形外科学会認定)が、手術方法のメリット・デメリットを説明し、患者さん一人ひとりに合わせてよりよい治療を選択できるようサポートしますので、ご不安なことがあればお気軽にご相談ください。
当院では、“パワフルスタッフ”という75歳以上のスタッフを積極的に採用しており、現在約40名の方々が活躍されています。
業務内容は、日々の院内清掃や洗濯などで、それぞれの体力や生活リズムに合わせて1日数時間の勤務を行っていただいています。
実は、パワフルスタッフの方々は、もともと医療従事者だったわけではなく、地域にお住まいの患者さんなどです。外来診療の際に私がスカウトしたことがきっかけで、パワフルスタッフになった方もいらっしゃいます。
高齢者の方々にとって、適度な仕事を持ち社会に出ることは心身の健康維持に大変効果的だと考えています。また、メディカルスタッフ側も、パワフルスタッフの皆さんのサポートがあることで、業務負担の軽減につながり、大変助かっています。
今後は、パワフルスタッフの健康管理にも力を入れていきたいと考えています。当院には老人保健施設も併設されており、在宅医療への架け橋としての役割も担っているため、高齢者の方々の活躍の場をより広げられれば、健康促進にもつながると信じています。
このような取り組みを通じて、地域の高齢者の方々が生き生きと生活できる環境づくりに貢献できれば幸いです。
私が理事長就任後にまず着手したのは、経営の透明化です。定期的な経営会議を開き、経営数値を共有することで組織全体の経営意識を高めることにと努めました。
同時に、不採算部門となっていた診療科の閉鎖を決断し、整形外科を中心に経営資源を集中させました。既存設備の活性化を行うため、職員の採用も積極的に進めたことで、手術室やMRI、CTの稼働率を向上させることができました。また、それまでは受け入れが困難だった急性期の患者さんも多く受け入れるようになり、救急車の受け入れ率もアップしました。
さらに、モバイル電子カルテやChatworkの導入などのDX化を推進し、業務効率の大幅な改善にも取り組みました。チャットでのコミュニケーションを最大限に活用し、プロジェクトごとにチャットを立ち上げて議事録の共有を行うことで、ペーパーレス化も実現しました。
地域において必要とされる医療・介護サービスの提供のためには、健全な病院経営が不可欠です。今後も、必要な部分への投資や業務改善に取り組み、地域医療の担い手としての責務を果たしていきたいと考えています。
私たちは、地域の皆さんに必要とされる医療・介護サービスの提供を第一に考え、日々業務に取り組んでいます。また、コロナ禍という困難な状況下においても、教育だけは止めてはいけないと考え実習生の受け入れを継続した結果、2024年は、過去最多となる18名の新入職員を迎えることができました。今後もこの地域の医療に貢献してくために、教育や人材確保は非常に重要であると考えています。
また、地域のみなさんとのつながりを大切にするため、市民公開講座『健幸塾』の開催や、広報誌『やわらかタイムス』の発行、運動動画の配信、LINEでの情報提供などさまざまな取り組みを行っています。動画配信チャンネルは登録者数が1,000人を超え、地域のみなさんの健康促進に多少なりとも寄与できているのではないかと思っています。
☆広報誌はこちら『やわらかタイムス』
https://www.musashidai-hp.com/archives/category/magazine
☆動画配信チャンネルはこちら『武蔵台 健幸塾』
https://www.youtube.com/channel/UCUV1zo7pp16yWLem9L3PJWQ
医療従事者の働き方改革が本格化してきているなか、“自分たちは楽をしても、医療介護の質は落とさない”ということを目標にしてきました。今後も新しい技術を積極的に導入しながら、地域医療の質の向上に努めてまいります。
*写真提供:武蔵台病院
*病床数や診療科、医師、提供している医療の内容等についての情報は全て2024年11月時点のものです。