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円形脱毛症の診断と治療――診察と検査、対話に基づき一人ひとりにふさわしい選択を

円形脱毛症の診断と治療――診察と検査、対話に基づき一人ひとりにふさわしい選択を
内山 真樹 先生

東京医科大学 皮膚科学分野 客員准教授

内山 真樹 先生

目次
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円形脱毛症の原因はストレス”というイメージが強いかもしれません。しかし、実際には複数の要因が重なり合って発症し、中には明らかな要因がなく発症するケースもあるといいます。今回は、東京医科大学病院皮膚科 客員准教授の内山 真樹(うちやま まさき)先生に、円形脱毛症の発症の仕組み、皮膚科での検査内容や治療法、診療で大切にされていることなどについてお話を伺いました。

成長期の毛が抜け落ちる病気――ストレス以外の要因も

円形脱毛症は、頭髪などの毛の根元にある毛球部の組織に対する自己免疫の反応によって生じます。自己免疫とは、本来は異物から体を守る役割を担う免疫システムに異常が起こり、過剰にはたらいて自分の体の組織を攻撃してしまうことです。円形脱毛症では、毛が生えてから抜け落ちるまでの成長期、退行期、休止期というヘアサイクルのうち、成長期にある毛の根元が自己免疫の攻撃のターゲットとなり、正常な毛が産生できなくなって抜けていきます。

“精神的なストレスに起因する病気”というイメージを持っている方もいるかと思いますが、それだけで発症するわけではありません。免疫に関わる遺伝子の変異などを背景に、精神的ストレスだけでなくウイルス感染症やワクチン接種、疲労などからくる身体的ストレスも含めた環境因子が引き金となって生じるケースが多いといわれています。ただし、患者さんの中には原因背景や引き金となるような明らかな要因がないまま発症する方もいます。

近年は、国内外を問わず円形脱毛症の発症率が徐々に上がっていると報告されています1)。円形脱毛症で新薬の登場などをきっかけに医療機関を受診し、診断・治療される患者さんが増えていることも発症率の上昇に関与していると推察できます。

免疫に関わるほかの病気の合併も

円形脱毛症は、慢性甲状腺炎橋本病)などの甲状腺疾患や、尋常性白斑といったほかの自己免疫の病気を合併することがあります。このうち、甲状腺疾患は女性に多くみられる病気です。また、円形脱毛症の約2割にアトピー性皮膚炎が合併するといわれます。特に幼少期からアトピー性皮膚炎があり、同じく幼少期から円形脱毛症を発症すると、円形脱毛症が慢性化および重症化しやすいとされています。

データによっては女性の患者のほうが多いという報告もあり、円形脱毛症は女性に多いようにも思えますが、これは女性のほうが外見を気にして医療機関を受診する頻度が高いためだと考えられ、実際には男女差はほとんどありません。

乳幼児から高齢の方までどの年齢層にも発症する可能性があり、患者さんの4分の1は15歳以下で発症するといわれています。

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写真:PIXTA

患者さんの多くは、1つまたは複数の典型的な円形の脱毛斑(毛が抜けた病変部)が生じて病気に気付きます。初期には若干の痛みやかゆみといった刺激症状を訴える方もいます。

進行すると、複数の脱毛斑が融合して脱毛範囲が拡大したり、急速に頭部全体に脱毛が起こったりするケースもあります。最も重い症例では、頭髪だけでなく眉毛やまつげ、鼻毛やひげなど全身に脱毛が及びます。そのほか、爪に陥凹(くぼみ)などの変形が点状、あるいは線状にみられることもあります。

円形脱毛症は、脱毛斑の分布によって通常型、蛇行(だこう)型、びまん型、全頭型、汎発(はんぱつ)型などの病型に分けられ、脱毛は円形に生じるとは限りません。

通常型は、脱毛斑が1つの単発型、2つ以上ある多発型に分かれます。蛇行型では、前頭部から側頭部、後頭部にかけて生え際を中心に脱毛がみられ、びまん型は頭部全体に脱毛が広がります。全頭型では全ての頭髪が抜け、汎発型では頭髪のみならず全身の毛が抜け落ちます。

そのほか、急速進行型といって症状が頭部全体に急速に進行する特殊な病型もあります。急速進行型では、びまん型の症状が現れる方もいれば、初期は多発型で、進行すると全頭型や汎発型に移行する方もいます。円形脱毛症では、このように時期によって病型が変わったり、複数の病型が重複したりすることも珍しくありません。

脱毛症には、一般によく知られている円形脱毛症AGA男性型脱毛症)のほか、休止期脱毛症、瘢痕性脱毛症(はんこんせいだつもうしょう)、先天性の脱毛症などがあります。まれに頭部白癬(とうぶはくせん)というカビによって生じる脱毛もあり、原因はさまざまです。円形脱毛症において適切な治療法を見出すには、ほかの脱毛症と見分けること(鑑別)が大切です。

中には、びまん性に脱毛が生じる休止期脱毛症と円形ではないタイプの円形脱毛症など、見分けがつきにくい症例もあります。また、お子さんの脱毛で親御さんが円形脱毛症だと認識していたものが、生まれつきの病気である先天性三角形脱毛症や脂腺母斑(しせんぼはん)先天性縮毛症(せんてんせいしゅくもうしょう)乏毛症(ぼうもうしょう)だったというケースもあります。このように、一見同じような症状でも別の脱毛症ということがあるため、詳しく調べて違いを見極めていきます。

皮膚科では、まず視診や触診で脱毛の形状や分布のパターンを確認します。加えて、ダーモスコピーという拡大鏡を使って毛や頭皮の状態を観察する検査(トリコスコピー)を行う場合もあります。円形脱毛症で病気の勢いが強いと、感嘆符(!)のように毛の頭皮側の根元が細くなる感嘆符毛や、毛が途中で切れてしまっている断裂毛、毛の根元だけが残っている黒点といったものがみられます。この検査によって、おおむね円形脱毛症とほかの脱毛症との鑑別が可能です。

頭髪を手で引っ張ってどのくらい抜けるか調べるヘアプルテストは、円形脱毛症の診療において病気の勢いを評価するために役に立つ検査です。病気の勢いが強い時期には束状に多くの毛が抜けることもあり、その時点での脱毛の状況を把握できます。

そのほか、血液検査などを行って合併症の有無や全身の状態が内服治療に適しているかを確かめたり、内服治療中に副作用の有無を調べたりする場合もあります。

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円形脱毛症では年齢、重症度、病期(発症からの時間経過など)という3つの要素を軸に、患者さんの希望などを加味して治療法を選択します。健康保険で受けられる主な治療法は次のとおりです。

ステロイド外用療法、ステロイド局所注射療法

単発型や多発型などで脱毛面積が小さい軽症例では、脱毛が生じている部分のみに行う局所療法が主体となります。中でも広く選択されるのはステロイドの塗り薬を使う外用療法です。また、15歳以上であればステロイド局所注射療法を中心に行います。

ステロイド内服療法、点滴静注ステロイドパルス療法

脱毛面積が大きい重症例の急性期治療(発症直後の治療)では、飲み薬を用いたステロイド療法や、入院でステロイドを大量に点滴静注するステロイドパルス療法などの全身療法を選択する場合があります。いずれも15歳以上の患者さんが対象です。

紫外線療法

中等度程度の症例を中心に、紫外線療法という選択肢もあります。ステロイド全身療法などが難しい患者さんに行ったり、ほかの治療法と併用したりする場合もあります。

JAK阻害薬

慢性化している重症例が対象となる内服薬(飲み薬)です。錠剤とカプセル剤の2種類が販売されており、それぞれ年齢制限があります。年齢のほか、合併症の有無、用量の調整を行うかどうかといった基準などで選択します。妊娠中には使うことができず、投与中は授乳しないことが望ましいとされています。なお、投与前や投与中は定期的に血液検査や胸部画像検査などを行います。

積極的な治療をしなくてもよくなりそうな兆候があれば、経過観察を選択する場合もあります。たとえば「急速に頭部全体に脱毛が生じているが、すでに新しい産毛が生えてきている」「発症したのが初めてで頭部以外に脱毛がない」「過去1年以内の発症で単発型のように脱毛面積が小さい」といったケースでは、自然に回復することがあります。

一方、罹患期間が長く脱毛面積が大きいと治りにくく慢性化しやすい傾向がありますが、治療によって改善する可能性もありますので、皮膚科で相談されるとよいでしょう。

病気と上手に付き合う

円形脱毛症は外観に影響するため、特に長期に罹患されている場合、精神的負担を抱えることが多い傾向があります。しかし、この病気は必ずしもストレスだけで発症するわけではないため、ストレスをゼロにしようと頑張るよりも「病気とうまく付き合って対処していこう」と考えるようにしていただけたらと思います。

感染対策を忘れずに

新型コロナやインフルエンザなどのウイルス感染症は、円形脱毛症の発症だけでなく悪化のきっかけにもなり得るため、日頃から感染対策を心がけましょう。JAK阻害薬で治療中の方は、感染症にかかると一時的に薬の服用を中止しなければならない場合もあるため、常に意識しておくことが重要です。

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患者さんによって重症度が異なりますし、円形脱毛症という病気の捉え方も人それぞれです。ライフスタイルなども考慮しながら、一人ひとりに合った診察や治療を心がけています。特に初診時には、病変部の状態を把握したうえで、時間をかけて患者さんとお話ししながらその方の考えを理解し、ふさわしい治療法を選択することを大切にしています。また、治療を継続していただくためには信頼関係がとても重要です。病態や治療法について丁寧にご説明し、納得したうえで治療に臨んでいただけるよう努めています。

特にお子さんの場合、心の内を言葉にできなかったり、親御さんに心配をかけまいと本心を話せなかったりすることもあるようです。また、大人でも診察の場では緊張して話しにくいという方もいますが、困り事や要望を遠慮せず率直にお話しいただけると治療選択やアドバイスの参考になります。さらに、日々の暮らしで大切にしたいことや治療で目指したいご自身の姿、たとえば「頭髪は戻らなくても眉毛やまつげがある程度あれば満足」「ある程度生えてきたけれどさらにもう少し頑張りたい」といったお話を聞かせていただくと、治療のゴールがより明確になります。診療においては、こうした患者さんとのコミュニケーションを通じた目標共有も重視しています。

皮膚や髪は人間の体の外側を覆っており、目に見える部分なので、病気になると自分で気になるだけでなく人目も気になると思います。中でも髪は外見の印象を左右するもので、失うとQOL(生活の質)に大きな影響を与えます。その一方で髪を専門とする皮膚科医はそれほど多くないと感じており、髪の悩みを抱える方の力になりたいと思い、この分野を深く学んできました。

円形脱毛症はある日突然脱毛が生じる病気で、治療しても再び髪が抜けてしまうのではないかと強い恐怖心を抱かれる方もいるため、患者さんの不安な気持ちをくみ取ることも重視しています。初診時にはとても悲しい表情で外に出るのもつらいと話されていた患者さんが、治療経過で笑顔が見られるようになったとき、大きな喜びを感じます。

しかし、中には治療を続けても症状がなかなか改善しない方や、年齢、合併症、経済的な事情などから積極的な治療を選択できない方もいます。そのような患者さんにも定期的に通院いただき、経過を診るとともに選択できる対処法や新たな治療法についてご案内するなど、関わり続けることを大切にしています。また、ご自身で新しい情報を入手し、再受診される患者さんもいます。実際に、久しぶりに受診されて治療を再開したところ症状が改善した方もいて、医療技術の進展を実感しています。

円形脱毛症の治療は長年大きな進歩がなく、治療選択肢が限られていました。患者さんの中には、これまで治療を続けても治りにくかったという方もいるかと思います。また、円形脱毛症の可能性があると気付いていても、皮膚科を受診されなかった方もいるかもしれません。今は治療の選択肢が増えていますので、円形脱毛症のお悩みがあれば、一度皮膚科で相談されるようおすすめします。

提供:日本イーライリリー株式会社

PP-BA-JP-11234 2025年10月作成

参考文献

  1. 日本皮膚科学会ガイドライン 円形脱毛症診療ガイドライン2024 https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/AAGL2024.pdf

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