院長インタビュー

地域に根ざし、医療の未来を切り拓く「最後の砦」としての使命を担う 高知大学医学部附属病院

地域に根ざし、医療の未来を切り拓く「最後の砦」としての使命を担う 高知大学医学部附属病院
北岡 裕章 先生

高知大学医学部附属病院 病院長、高知大学医学部 老年病・循環器内科学 教授

北岡 裕章 先生

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高知大学医学部附属病院は、地域医療の要として県民の健康を支え続けています。2026年4月に第12代病院長に就任した北岡 裕章(きたおか ひろあき)先生は、同校の卒業生であり、長年この地で臨床・教育・研究に従事してきました。

循環器内科と老年病学を専門とし、「全人的に人を診る」という視点を大切にする北岡先生に、同院の役割とこれからのビジョンを伺いました。

当院は1981年に高知医科大学医学部附属病院として開院いたしました。その後、2003年に高知大学と高知医科大学が統合したことに伴い、現在の名称である「高知大学医学部附属病院」へと変わりました。

当院ができる前、高知県の先進医療の多くは岡山県や徳島県といった県外の大学病院に頼らざるを得ない状況にありました。しかし高知県に大学病院が誕生したことで、「わざわざ県外へ行かなくても、地元で先進医療を受けられる」という、確かな安心感を地域にお届けできるようになったのです。

開院当初は大学病院として、教育や研究、そして優れた医療人を育成することに主眼が置かれていました。しかし、半世紀近い年月を経て、地域社会から求められる役割も変化してきました。
現在は、研究や教育という大学本来の使命を果たすのはもちろんのこと、「ここに行けば大丈夫」と県民の皆さんに信頼される、地域に密着した医療の拠点であることが強く求められています。その求めに応じられるよう、現在、各診療科はより質の高い医療の提供に努めているところです。

当院の大きな強みの1つが、がん治療における総合力です。手術、放射線治療、化学療法のがんの3大療法のうち、手術については手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」を導入し、消化器外科、泌尿器科、産科婦人科、呼吸器外科の各診療科において経験を積んだ医師が治療にあたっています。

放射線治療にはライナックと呼ばれる放射線治療装置を2台導入しているほか、遠隔操作式小線源治療装置(RALS)、さらに前立腺がんへの密封小線源治療システムによる治療も行っています。
リラックスできる治療室で外来による治療を受けていただける化学療法もあり、これらを組み合わせた集学的治療による総合的ながんの治療が当院の特徴です。治療にあたってはそれぞれの専門領域の医師が連携して1人の患者さんを支える「チーム医療」を実践しており、さまざまな角度から、患者さんにとってよりよい治療を提供できる体制を整えています。

大学病院として、症例の少ない希少疾患や難病への対応も、私たちが担うべき重要な役割です。

当院には遺伝医療の専門家(人類遺伝学会の専門医、指導医)が在籍しており、小児の難病や筋ジストロフィーといった特殊な病気、遺伝性心筋症、さらには移植医療など、地域の他の病院では対応が難しい分野にも積極的に取り組んでいます。
もちろん、がんゲノム医療にも対応しており、愛媛県の四国がんセンターと連携して遺伝子パネル検査などを提供中です。
こうした大学病院に求められる医療を提供し、それを維持していくことで、大学病院として役割を果たしていきたいと考えています。

高齢化が進んでいる高知県では、循環器の病気への手厚い対応が求められます。当院では現在の状況を踏まえ、循環器内科と心臓血管外科が密に連携し、心不全や心筋症などに対しTAVIや腎デナベーションなどの新しいカテーテル治療や植え込み型人工心臓の管理などを行っています。

また、心臓の病気では単に「病気」を治すだけでなく、術後の回復まで含めた患者さんの生活そのものを支えることが私たちの使命だと考えています。そこで当院は県内全域の病院、クリニックや心臓リハビリテーション実施施設と連携した「高知心不全連携の会」を立ち上げ、患者さんが急性期の治療から在宅まで切れ目のない医療を受けられるようにしています。
高齢化が進む本県において、複数の薬の副作用(ポリファーマシー)や筋力の低下(フレイル)への対策は非常に重要です。老年病学の知見を活かし、高齢者の体と心の変化を総合的に捉え、最後まで住み慣れた地域で暮らせるような医療を追求しています。

現在、日本の多くの地域でなかなか医師や看護師が集まらない状況があるといわれており、高知県でもその状況は変わりません。限られた医療資源を有効に活用するためには、地域の医療機関との「役割分担」が不可欠となります。

その役割分担とは、高度な急性期医療は当院などが担い、その後の回復期や慢性期のケア、そして在宅医療は地域の先生方に支えていただく、というものです。
このような、地域完結型の効率的な医療体制を構築することは、住み慣れた地元で質の高い医療を受けられることにつながり、県民の皆さまの安心にも直結するでしょう。

さらに、当院は大学病院として、県内各地域の病院への医師派遣を行っています。このような取り組みを通じて、高知全体の医療提供体制を守ることは、当院が持つ大きな使命です。

高知県は、高知市とその周辺に医療資源が集中しています。たとえば、日本専門医機構が認定した循環器内科専門医は県全体で119人いるうち、実に104人が高知市を中心とする中央圏に集中しています(2026年時点)。同じく3学会構成心臓血管外科専門医認定機構が認定する心臓血管外科医も県内21人中20人が中央圏です(2020年時点)。これでは高幡医療圏、安芸医療圏、幡多医療圏といった地域にお住まいの方々が、必要な医療にアクセスしにくい状況が生まれてしまいます。そこで当院では、高知県立幡多けんみん病院(宿毛市)や高知県立あき総合病院(安芸市)などに常勤医師を積極的に派遣しています。

これは循環器の診療科だけでなく、ほかの診療科でも同様です。当院は大学病院だからこそできる支援を県内各地へ届けることで、どこに住んでいても質の高い医療が受けられる環境づくりに貢献したいと考えています。

私は「よい組織がよい医療を生む」という強い信念を持っています。私たちの組織の礎は、「高度な医療を提供し、高い見識を持った医療人を育成する」「先進医療を推進し、医療の革新に挑戦する」という理念にあります。そして、高知県唯一の大学病院(2026年5月時点)として掲げたこの崇高な理念を実行できる医療機関であるべく努めています。

だからこそ、全職員が「高知県の医療の砦」としての矜持(きょうじ)とプライドを持って働ける環境を作りたいのです。多くの職種のスタッフが、専門性を活かしながら互いに尊重し合い、力を合わせることで、この困難で不確実な時代を乗り越える新しい力が生まれます。病院長として、現場の声に常に耳を傾け、スピード感を持って環境整備と支援を行い、組織全体の底力を高めていく決意です。

人口減少や深刻な医療従事者不足、さらには中山間地域における「医療へのアクセス」の確保といった課題は、高知県において避けては通れない現実です。こうした厳しい状況下で、持続可能な医療体制を維持していくためには、テクノロジーの活用が不可欠だと考えています。

私たちが推進する医療DXやAI、遠隔医療の導入は、単なる効率化が目的ではありません。限られた地域の医療資源を有効に活かし、県内のどこにいても質の高い医療を受けられる環境を守るための、いわば「地域医療を守るための道具」なのです。

都会の大学病院とはまた異なる、地方の大学病院だからこそ追求すべきDXの形があるはずです。新しい技術を積極的に取り入れ、先の見えない時代を切り拓く持続可能な医療モデルを、ここ高知から発信していきたいと考えています。

2028年、高知大学医学部(旧・高知医科大学)は開学50周年という大きな節目を迎えます。
この節目に、医学部会館の増築や改修といったハード面の整備を進めることはもちろん、病院のあり方そのものをアップデートする「イノベーション」を加速させていきます。私たちが築いてきた50年の伝統と実績を大切に継承しながらも、慣習にとらわれない新しい発想を取り入れ、次の50年を見据えた「新しい時代の大学病院」へと飛躍させる覚悟です。開学当初の情熱を胸に、地域の皆さまと共にさらなる発展を目指してまいります。

私とこの病院の縁は、実は中学生の頃まで遡ります。当時、私の実家がこのすぐ裏手にあり、更地だったこの場所に病院が建設されていく様子を近くで見ていました。あの頃は自分がここで病院長を務めることになるとは夢にも思っていませんでしたが、新しい希望に溢れた新病院ができていく光景は今でも鮮明に覚えています。

私の信条は、スティーブ・ジョブズの「ベストを尽くして失敗したら、それはベストを尽くしたということさ」という言葉です。実は、私は学生時代、理系科目がダメな文系人間でした。医学を学ぶうえでは苦労もありましたが、その分、理屈だけでなく患者さんの言葉に耳を傾け、一歩ずつベストを尽くすことを何より大切にしてきました。
医師としての責任の重さを自覚したのは、大学を離れた地域病院での勤務でした。そこで培った、逃げずに自分で判断し、最後まで患者さんを背負うという覚悟が、今の私の根底にあります。

当院は、高知の医療を守る「最後の砦」としての矜持を持ち、皆さまが「信頼」と「安心」を感じられる場所であり続けます。何か不安なことがあれば、どうぞ私たちを頼ってください。地域と共に歩むこの病院が、皆さまの健やかな未来を全力で支えてまいります。
 

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