ウイルスにより引き起こされる「かぜ(ウイルス性の上気道炎)」とは異なる細菌感染。このふたつは何がどのように違っているのでしょうか。また、医療従事者は私たち患者の訴えのどの部分を重視して、「かぜ」もしくは「かぜではない」と診断をつけているのでしょうか。一般社団法人Sapporo Medical Academy代表理事で感染症コンサルタントの岸田直樹先生にお話を伺いました。
かぜと鑑別しなければならない病気の中でも最も重要なものとして、細菌感染が挙げられます。まずは細菌とウイルスの違いについてご説明しましょう。
細菌は栄養と水さえあれば自ら増殖できるのに対し、ウイルスは単独では増殖できません。また、ウイルスのほうが細菌に比べてはるかに小さい、という大きさの違いもあります。このように細菌とウイルスには微生物学的にも大きな違いがあるため、細菌感染とウイルス感染の症状の出方にも違いが生じます。細菌感染はウイルス感染と違い、多症状はあまりでなく、原則として単一の臓器に菌が感染するもので、複数の臓器へ同時に細菌感染が起こるケースは稀です。したがって、いろいろな部位でいろいろな症状が現れるものがウイルス感染、つまりかぜであり、単一の臓器に感染し、単一臓器の症状が現れるのが細菌感染ということになります。
かぜとは、自然によくなる上気道のウイルス感染であり、いろいろな部位でいろいろな症状が出てくると、ここまでに繰り返し述べてきました。しかし、「いろいろな症状」というと非常に曖昧で、なんでもありとなってしまいます。
そこで、かぜは上気道の感染症と考え、その中でも次の3つの症状の有無をチェックするようにしましょう。3つの症状とは、(1)咳、(2)鼻水、(3)のどの痛みで、これを確認することを“3症状チェック”と呼びます。これらは、一見すると単一の臓器に起こるもの考えてしまいがちですが、咳は気管や肺の感染に伴う症状であり、鼻水は鼻の感染による症状、のどの痛みはのどの感染による症状といったように、解剖学的には別々の臓器に起こっている感染と考えます。これらの症状が急に、または同時期に同程度に生じている場合は「典型的かぜ型」と定義します。
ここでいう「同時期に出る」とは、ある瞬間から3つの症状が同時に出るということではなく、約24時間で3つの症状が現れるということです。再度確認しますが、“3症状チェック“とは、咳、鼻、喉の症状が急性に同時期に同程度あるかないかを確認する作業のことで、そうであれば典型的かぜ型と考えてよいでしょう。
ここでは、「典型的かぜ型」の3症状を医療者に伝えるときに、患者側と医療者がどのようなことに気をつけるべきかをお伝えします。たとえば、のどの痛みひとつに着目してみても、どのような時に痛むのか、どのような痛みなのかという感じ方は人によって異なります。食べ物やつばを飲み込むと痛い/咳をすると痛い/首の辺りを押すと痛い/何もしなくても痛い、などでは伝え方も異なります。
かぜで生じるのどの痛みは、原則として「嚥下痛」(飲み込むときの痛み)です。そのため、医療者は喉が痛いという患者さんからは、嚥下痛があるかどうかを必ず聞かなければならないのです。そして、「食べ物やつばを飲み込むと痛いですか?」という質問に対して、患者が「いいえ、痛くないです」と答えた場合は、かぜではないのではないかと判断します。
鼻水が出ることについては、どう伝えるのがよいでしょうか。たとえば、鼻水が垂れて仕方がない・鼻水がつまっているなどがあります。これらの症状は、誰でも鼻が原因であることがわかります。しかし、鼻水の症状はそれほどなく、痰が出るということがあります。この痰こそが実は鼻水であることが多いのです。
痰と鼻水が一緒とはどういうことなのだろう、と疑問に感じる方も多いでしょう。のどと鼻はつながっており、鼻水が前へと流れると鼻から出てくることになり、後ろに流れるとのどから出ていくことになります。痰とは、「咳とともに分泌される分泌物で鼻水は除く」というのが定義で、原則上気道ではなく肺などの下気道からでてくるものをさします。しかし、喉に落ち込んできた鼻水も咳をして出すことになり、痰(下気道からの分泌物)とごちゃごちゃになってしまっています。
このような理由から、医療者は痰と鼻水を見分けることができるようにならなくてはいけません。ではどのように見分けたらよいのでしょうか? ここを見極めるポイントとして医師は、「その痰はのどに引っかかって取れないような感じですか?」、「飲み込みたくなる感じですか?」といった質問をします。もしこの質問に「はい」と答えるならば、それは痰ではなく鼻水でしょう。つまり医師は、痰と言う訴えにまぎれた、かぜの症状である鼻水を見逃さないようにしているのです。
このように「典型的かぜ」の3つの症状は、咳、鼻水、のどの痛みであり、それぞれの患者さんが症状について異なる伝え方をしていても、医療者はポイントを絞ってかぜであるか否かを鑑別しているのです。
*本記事は岸田直樹先生の著書「総合診療医が教える よくある気になるその症状 レッドフラッグサインを見逃すな!」を参考にしています。
感染症コンサルタント 、北海道科学大学 薬学部客員教授、一般社団法人Sapporo Medical Academy(SMA) 代表理事
日本感染症学会 感染症専門医・指導医日本内科学会 総合内科専門医日本化学療法学会 抗菌化学療法指導医 ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター
“良き医学生・研修医教育が最も効率的な医療安全”をモットーに総合内科をベースに感染症のスペシャリティを生かして活動中。感染症のサブスペシャリティは最もコモンな免疫不全である“がん患者の感染症”。「自分が実感し体験した臨床の面白さをわかりやすく伝えたい」の一心でやっています。趣味は温泉めぐり、サッカー観戦(インテルファン)、物理学、村上春樹作品を読むこと。 医療におけるエンパワメントを推進する法人を立ち上げ活動している。
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